Aちゃんが復帰する前日、先生が言った。 「大変な手術を乗り越えたAさんは、クラスの英雄です」 黒板にでかでかと書かれた「英雄」を見て、お馬鹿な男子が「せんせー!それ、えいおじゃん」と叫んだ。クラスはどよめいた。 Aちゃんはその後2年間「えいお」と呼ばれたが、由来は知らないらしい。
「入院は8月からです。短期間ですよ」そう言われて、私の心は嵐のように荒ぶりを見せた。長くかかる夫の手術中、村上春樹さんのエッセイを読んでヒマをつぶしていた私は、もうこの先どのように転がってもいいのだと思いながら、気づいたら1人黙々とnoteに夫へのラブレターを書いていた。
私は入院・手術の経験は無いが、アナフィラキシーで病院へ駆け込み抗ヒスタミン薬点滴を処方されたことがある。対応したのは研修医あがりと思われる当直バイトの女性医師。診察室で正対したばっちり化粧のつけまつげ、ファンシーな赤白ドットの靴下のインパクトを脳裏に、点滴の雫を眺めていた深夜。