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今年で58歳。元ミュージシャン。 現在無職。京都在住です。 大病を患い、後遺症によりそ…

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今年で58歳。元ミュージシャン。 現在無職。京都在住です。 大病を患い、後遺症によりその時間の全てを回復に注いでいる男の思いの丈を綴っていきます。実体験を元に自分の言葉でエッセイ「綿帽子」を始めました。コメント再開いたしました。いつもありがとうございます!

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綿帽子 第八話

いつの間にか眠っていたようだ。 また夢を見た。 俺は通勤電車に乗っていた。 人影はまばらだ。 同じ車両の少し離れたところに、黒髪で真っ白のワンピースを着た女が座っている。 髪の毛は肩よりも長く、顔ははっきりとは思い出せないのだが冷たい表情をした女だ。 やがてとある駅に着いた。 俺が下車するとその女も一緒に電車を降りた。 その女が先を歩き、俺も同じ方向に向かって歩いていた。 少し進むと、左斜め前方に人だかりができていることに気がついた。 不思議に思ってそちらに

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    • 綿帽子 第十六話

      「ああ、ようやく点滴が外れた」 今日は少し気分がいい。 色々な抗生剤を試しては拒絶反応を起こしたりと不安な日々に苛まれていたが、もう心配する必要はなさそうだ。 ずっと点滴を打ちっぱなしだったので、針を刺す血管が潰れて看護師さんが拾えなくなって、遂には手の甲から通すようになっていた。 いつの間にか昇圧剤もなくなっていたようだ。 体を拭いてもらう機会も増えたので、それだけ回復してきたと言いたいのだろう。 点滴の減りと共に看護師さんの担当も入れ替わり、今は男性の看護師さ

      • 綿帽子 第十五話

        「おはようございます」 「尿がどれぐらい出ているかチェックしたいので、便器の方にしないでこちらにしてくださいね」 看護師さんが大きな四角い容器を持ってきて便座の横に置いた。 これからしばらくは、この中を目掛けて用を足さなくてはならないのだ。 「そう、容器の中心に向かってベストショットを放つ」 一滴も外に漏らさず、尚且つ看護師さんの手を煩わせることがないように、俺の俺をコントロールしなければならないのだ。 今の俺にそれができるのかは定かではないが、頼まれたからには仕

        • 綿帽子 第十四話

          「自力トイレ来たー!!」 「めでたし、めでたし」 回復しだしたので、トイレまで自力で行くように指示される。 個室内にあるトイレまでの僅かな距離が遠い。 相変わらず鏡で自分の顔色を見ると、うんざりしたりはするのだが、前進したことに変わりはない。 「気になるのは便の色だ」 緑色の便が出続けている。 顔は青い、便は緑でまるで野菜な俺。 担当の看護師さんに伝えたら、整腸剤が食後の薬に追加された。 点滴はさらに減って一本になった。 血液中の酸素量が少ないらしくて、酸

        • 固定された記事

        綿帽子 第八話

          綿帽子 第十三話

          「点滴が一つ減った!!」 何が減ったのか内容は分からないが、気分は少し良くなるものだ。 血圧が100を越えて安定するようになってきた。 まだ時々100以下に落ち込んだりもするのだが、段々と落ち着いてきたようだ。 少し前に先生から心臓のエコー検査の結果を聞いた。 「少々心臓の動きが悪くなってるようです」 「でも、心配するほどのことじゃありませんから」 そう言って先生は立ち去った。 果たしてそれをどう捉えたら良いのだろう。 言葉通りに素直に受け止められたら良いのだ

          綿帽子 第十三話

          綿帽子 第十二話

          「グレープフルーツが食べたい」 昨夜お袋に頼んだグレープフルーツが今日には到着するだろう。 甘味、塩味、酸味、を感じなければ、あとは苦味しかない。 味覚とはその4つに旨味を加えて基本の五味として表現するらしい。 午前中、看護師さんがやって来て心臓のエコー検査に連れて行かれた。 検査結果は後ほど先生の方から報告が来るそうだ。 時たま胸が締め付けられるようになって、深夜に起きてしまうのはその影響なのだろうか? 心臓に何かが起きているとしたらグレープフルーツはあまり良くはな

          綿帽子 第十二話

          綿帽子 第十一話

          「Oh,yeah?」 それで一括りできそうな事件だ。 延々とのたうち回った結果、どうやら一種類の抗生剤がマッチングしたようだ。 相変わらず昇圧剤は点滴し続けているけれど、暗中模索の闘病生活に希望の光が薄っすらと灯った瞬間だった。 先生が言っていた通り、この抗生剤が効果を発揮しているらしい。 今朝の巡回でも、原因となった細菌が何かは突き止められなかったのだが、順調に回復しているとの報告を受けた。 熱も変わらず37度台から38度台を行ったり来たりしているが、先生がそう

          綿帽子 第十一話

          綿帽子 第十話

          先生がやって来た。 「◯◯さん、色々と培養したりして調べていますが、変わらず原因は不明です」 「ウイルス性の可能性は低くて、どうやら細菌性のようです。何かというのは断定できていません」 「そこが掴めると良いのですが、この抗生剤が効いているようですので継続して様子を見ます」 それだけ告げると先生は足早に去って行った。 希望が見えて来たのだろうか、まさに鍛冶場の馬鹿力とでもいうべきだろうか。 本当にもう神仏は信じないと決めてから、俺は少しだけ気合いが入っていた。 相

          綿帽子 第十話

          綿帽子 第九話

          「どうや?」 相変わらず気の利いた言葉は何一つ言わないお袋ではあったが、毎日顔を見には来てくれる。 それだけでも有り難いと思わなければならないのだが、本当に側にいるだけなのでそれもまた複雑な気分になったりする。 昨日の夢の話をした。 それから気になっていた話の内容も確かめてみた。 「お袋、どこの話やった?」 「何?」 「いや、だからなんか言うてたやろ?どこか行って大丈夫やったって話」 「ああ、善光寺さんの話かいな」 「せやったかな、その話教えてほしいんやわ」

          綿帽子 第九話

          有料記事を書いてみました【綿帽子】

          こんにちは[sekirein]です。 まだまだ拙い文章ですが、有料記事を書いてみました。 自分にとっては全てが初めての経験で、これで本当に良いのかと毎日悪戦苦闘をしています。 人生に迷いしかないと思って生きてきた人間が、希望だけは常に持ち続けている。 矛盾しているようですが 誰かを勇気づけるきっかけになれたらとnoteを始めました。 実体験をそのまま『綿帽子』という形で綴っています。 これからも有料記事、無料記事を問わず全力で挑戦していきますので応援していただけ

          有料記事を書いてみました【綿帽子】

          綿帽子 第七話

          また眠れない夜が明けた。 眠らない夜か。 眠ってしまったら、もう二度と朝を感じることも、鳥の囀りを聞くこともできないような気がして、俺は眠らいのだ。 当然体力の回復は望めないが、人は本当に絶体絶命を間近に感じた時、眠らない選択をするのだと思う。 また朝が来てしまうのかと嘆く人もこの世にはいると思う。 だけど、俺は少しでも自分の人生を、自分の思うがままに生きてからこの世から消えたい。俺はまだ何もできてはいないのだから。 不安障害を発症してからの年月。 少なくとも20

          綿帽子 第七話

          綿帽子第六話

          「メロディ」 体調の悪さを感じ始めた頃に、俺とは全くの無縁だと思っていたメロディが、突如として頭に浮かんだ。 いわゆるJPOP調。 それも80年代から90年代に存在していたようなドラマのタイアップソングのようなものだ。 それまでの俺はR&BテイストやROCK、JAZZテイストの入った曲を書くことはあっても、自分なりの拘りからJPOPというカテゴリーに手を出すことはなかった。 だからといって俺の書いた曲が日の目を見たことはない。 ただ、何故だかこのメロディはちゃんと形

          綿帽子第六話

          綿帽子 第五話

          一向に回復の兆しが見えず、自分のメンタルがかなり弱っていることを自覚はしてはいたのだが、まさか自分があんな風になってしまうとは。 看護師さんだってベテランの方ばかりではない、中堅どころもいれば新人もいる。 俺はもう個室の住人となっていたので、部屋には担当の看護師さんが頻繁に出入りするようになっていた。 というか、頻繁に出入りしなければならない住人なのだ俺は。 そんな俺の担当をしてくれている看護師さんのうちの一人が、定時の検温と血圧測定にやってきた。 昨日と同じ人だ。

          綿帽子 第五話

          自己紹介/sekirein

          こんにちは 自己紹介記事を書いてみようと思いました よろしければ読んでください 名前  sekirein 由来  セキレイ(スズメ目スズメ亞目セキレイ科の鳥)の名前から来ています 選んだ理由  一人の時間が長すぎて空や雲や月や星や鳥達としか会話ができなかったから 本名  なかなか立派な名前 最近になってようやく自分の名前を好きにならないとなって思いだしました 子供の頃から自分の名前が大っ嫌いでした 完全に名前負けしている人生です 両親が信じた姓名判断なる

          自己紹介/sekirein

          綿帽子 第四話

          別段、俺は病気自慢が趣味という訳ではない。 毎日を平穏に過ごしたかっただけだ。 「嗚呼、明日になればこの苦しみから解放されていますように」 と、空に向かって叫ぶことにうんざりしていただけだ。 ベッドに寝ながら何が原因となって、ここまで追い詰められる状況に至ったのかと考えてみる。 思考という思考は全て苦しみの中にあり、判断が正常なのかは定かではないけれど、それでも思いつく限りを頭の中でピックアップしていく。 しばらく考えていたが、逆に収拾がつかなくなってきた。 恐ら

          綿帽子 第四話

          綿帽子 第三話

          こりゃあ親不孝の報いが来たかな。 絶体絶命の状況に置かれると、とかく人間というのはマイナスなイメージを抱きやすいらしい。 先程の話に戻るが、肺炎を患った俺は何とか半年後に退院出来たものの、毎日24時間マスクを着けっぱなしの生活を余儀なくされた。 それが八年ほど続く。 もちろん一日中マスクをしているので、部屋の内外関係なく寝ている時も例外ではない。免疫力の低下により白血球の減少が回復しない為の防御策として義務付けられたのだ。 半年も入院していた訳だから、直ぐに身体が回復

          綿帽子 第三話