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綿帽子 第四十話

今日は早めに散歩を済ませ、午後から久しぶりに自転車に乗ってみることにした。

なんだか、バランスが取りにくい。
歩いていてもおかしいのだから、尚更違和感がある。
左右に少々フラついたりするがなんとかなりそうだ。

自転車のペダルが重く感じる。
やれやれ、自転車のペダルだぞ、漕ぐというよりも回転させる意識を持たないと上手く前に進まない。

筋力の衰えをひしひしと感じながら、漕ぐ。

「いや、回転させるんだ」

回転させて足を引くように意識すると上手くいきそうだ。

しばらく四苦八苦していたが、やはり体は覚えている。
ハンドル操作に怪しさを感じるものの、とりあえず前進はしてる。

家を出てから右に曲がると「木から飛び出す婆さん」の木が見えてくる。

横目でチラリと確認したが、難なく前を通り過ぎる。

「おお、自転車ならあっという間な」

どうやら自転車に乗っていれば婆さんのことはそんなに気にしなくて済みそうだ。

きっと木の中で待機していた婆さんが『フワ〜っと』木から抜け出した瞬間に目の前を通り過ぎられたに違いない。

『フワ〜っと』出てくる婆さんで良かった。

短距離ランナーのように足の速い婆さんだったら、自転車でも交わすのは無理だったろう。

交差点に出た。

左に行こうかと考えたが、結局真ん中の道をコンビニに向かって真っ直ぐ進むことにした。

「うーん、結構快調に進むな」

快調に進んでいる、自転車は。
だが、俺はあまり快調ではない。

自転車を漕ぐのにこれだけ全身が疲れるのか。
もはや、リハビリのつもりがリハビリという名の拷問に変わりつつある。
脚を回転させることを意識するまでは良かったが、脹脛と両腿が攣りそうになる。

そして、体幹が弱くなり過ぎて体がイカのようになっている為か、全ての反動が腰に集中していて痛くて堪らない。

「もうイカやんイカ」

イカやんイカと連発しながらイカ人間の如く自転車を漕ぐ。

やがて遥か前方に黒い木の棒、いや、丸太のような物が転がっているのが見えてきた。

「何だ、木かな、丸太?邪魔だな」

気にせずに真っ直ぐ進む。
直前で交わせばいい、そう思っていた。

距離が縮まって、やがて木の棒まで数メートルの距離まで近づいた時に俺は気がついた。

棒ではない。
もちろん丸太でもない。

「蛇だ‼︎」

「また、蛇⁈」

体色が茶色いので遠目に見たら黒く見えたのか、もしくは俺の目がまだおかしいからか、まさしく蛇が道に横たわっている。

「さてどうしよう?」しかも道路側にまた頭を向けている。
このままなら車に轢かれる。

俺は考えた。
いや、考えたというより閃いた。

「そうだ、こうしよう」

蛇の手前までそのまま自転車を漕いだ。
直前でブレーキを握り締めると同時に叫ぶ。

「うわ、危ない!」

蛇に警告したつもりなのだが、果たして通じたものか。
とにかくブレーキをかけた時のタイヤの音か、俺の叫び声に反応したのかは分からないが、蛇はくるりと頭を反転させた。

そして、そのまま向きを変え道路脇の側溝の上を通り、土のある地面の方向へと去って行った。

「大きかったな〜」

長さにして1m50cmは越えていたと思う。
それが真横にビローンと体全体を伸ばして横たわっていたのだ。

俺は去って行く蛇を見送り、再び自転車を漕ぎ出した。

それにしても、一度蛇を見るとこうも頻繁に遭遇するものなのか?
偶然とはいえまた頭を道路側に向けていた。

白い蛇との共通点にデジャブというかシンクロというか、とにかく不思議に感じたが、季節柄蛇だって散歩しやすいのだろう。

コンビニに到着。

ドアが開かなかったという曰く付きのコンビニだが、今度はスムーズにドアは開いた。
中に入ると、懐かしい顔が見える。

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