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明智黒輝の詩世界

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私、明智黒輝の詩を纏めます。
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記事一覧

ふたり

ふたり

私の部屋に

私がひとり

そして

君が来て

ふたりになる

君は私ではなく

私は君ではない

でもふたりは同じ空間で

同じ空気を共有し

ふたりの皮膚は

溶け合い

混ざり合う

窓から見える

晴れた空

冬の空気が

ぴしりと引き締まって

刺すように見える

ベッドでもつれ合う

ふたりは

やがてひとりに

止まない雨

止まない雨

雨音が

遠く聴こえる

金曜の午後

薄暗い部屋に

ひとり

うずくまる

窓から

曇天を見上げ

ベッドに寝転がると

時間は止まって

この世界に

取り残された気分

ラジオから

陽気な音楽が流れ

憂鬱さが

深みを増す

君は今

賑わう街角

水溜まりに

足を取られ

顔をしかめてる

短い一生の

その断片を

君と過ごし

その恩恵を

共に授かる

仕事を終え

パソコ

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Morning Call

Morning Call

灼熱の太陽が

この身を照らした後の

蒸し暑い夜

僕は冷やしたワインを出して

渇いた喉に流し込んだ

君は僕を

遙か昔から知っていた

ふたりが生まれる前

遠い前世の

混み合う町角

ふたりは手を携え

遠くへ逃げようと

歯痒くも進まない足取りで

よろけつつ走っている

やがて町外れの

苔生す川べりで

ふたりは互いを抱き締め

永遠を誓い

厳かな死を選んだ

そんな情景を

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Woman

Woman

君の瞳を見つめるたび

その深淵な奥底に

吸い込まれ

もう帰ることも

出来なくなるような

そんな気がして

美しいその髪を撫でる

君の魅力の前で

僕はなす術もなく

立ち尽くすのみ

地面から立ち上る炎が

天へと突き上げ

火の柱となって

僕らは瞬きもせず

それを眺める

恍惚の表情を浮かべる君に

僕は見とれて

身体を巡る熱い衝動

こんな時間を

いつまで過ごせばいいの

七月七日の恋人

七月七日の恋人

星降る夜は

ふたりを包み

一年一度の逢瀬

そっと見守る

天上の河のほとり

音もなく誰もいない

ふたりの秘密の場所で

恋人たちは熱く抱きあい

口づけを交わす

時間は限られていて

翌朝の雄鶏が

高らかに時を告げる

その瞬間が

別れのとき

手を取り合い

止めどなく語らうふたり

積もり積もる話は

時を削っていく

不意に

彼女の大きな瞳を

覗き込んだ彼は

愛の言葉を

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大地の歌

大地の歌

いつからか

ひとは神を畏れず

空を崇めることも

大地に跪くことも

なくなった

戦争で

失われた

あの緑の丘

子供たちの笑顔

恋人たちの愛

人々は

蔑み合い

奪い合い

殺し合った

水は枯れ

地面は干上がり

文明は

終焉を迎えた

戦争よ

大地を返せ

微笑みを返せ

慈しみのこころを返せ

この荒涼とした廃墟に佇み

声を上げる男

その脳内は

無辺大の夢で溢

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幸福の街

幸福の街

風薫る五月の末

私はある老婆の家を訪ねた

彼女は私にこんな話をした

知ってるかい

街は平和で

みんな幸せに暮らしてる

悲しみはなく

希望に溢れ

子ども達は慈しまれて育つ



友情



ないものはない

幸せの街

でも

知ってるかい

この街の片隅

商業ビルの地下室には

ある女の子が

閉じ込められてる

彼女は精神を病み

日々

罵倒され

傷付けられ

普段は無

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大切な君へ

大切な君へ

世界にただひとりの

大切な君に

午前三時の時報とともに

玄関に届ける

僕の想いの丈を

詰め込んだ花束

夜が明けて

目覚めた君は

新聞を取りに行き

それを見つけるだろう

思えば君との出逢いは

必然でしか無く

きっと前世からの

強い絆

僕の酸性の愛で

自らの身体が溶け

例え朽ち果てるとも

立ち枯れた巨木が

小さな犬小屋を

伸ばした根で囲うように

君を守ろう

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帰らずの森

帰らずの森

君は何処

陽射しの中

探し求め

樹々の間を彷徨う

耳を澄ませ

声を辿る

目の回るような

深い森の

奥深く

その声は

僕の脳内に

直接語り掛ける

たすけて

たすけて

木漏れ日が穏やかな

こんな初夏の午後

知らない土地で

徘徊することになるとは

肌はびりびりと痺れ

痛みは全身に響く

苦悶の表情で

君を見つける為

僕は歩を進める

茨にシャツが破れ

切れた皮

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桜小路

桜小路

生きる意味

探して

探し求める

歩き続け

歩き疲れ

桜咲き乱れる

堀沿いの道に出た

寒気のしていた

凍てついた身体は

芯からほかほかと

火が灯る様に

温められ

気が付けば

君は後ろにいた

幾重にも

曲がりくねった

泥濘の道を

走り抜けるように

無理をして

いつも涙に暮れていた

でも君が現れて

真っ暗な僕の世界は

眩いばかりの

光で満たされる

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永久の君〜St. Valentine's Day〜

永久の君〜St. Valentine's Day〜

忙しない木曜日の

いつもの表通り

行き交う人々は

いつもとは違う

みな

一様に微笑みを湛え

足早に帰路に就く

二月の風が強く吹き付け

マフラーを巻き直す

煙草屋の路地から

ひょこっと顔を出して

悪戯っぽく笑う君

今日の日をとても楽しみにしていたんだね

高い空は雲もなく

広がる無限の空間

この中空に君を浮かべて

コーヒーを啜りつつ

もがく君を眺める

そんな場面を想

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最果て

最果て

君とやっと辿り着いた

この最果ての地

出逢った都会で

数々の想い出を作り

ふたりで旅に出たんだよね

吹き付ける風を受け

荒野を渡り

夜行列車を乗り継ぎ

ひとの優しさを知って

追われるように出た街を思い出す

雨空の下

ずぶ濡れで抱き合い

熱い抱擁を交わし

互いの愛を確認する

そんな僕達の未来は

どこにあるのか

答えを求めて

ここまで来た

静かに凪ぐ海を眺め

言葉

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雪の喫茶店

雪の喫茶店

冬枯れの木々の間を

君とそぞろ歩く

寒々しい風景に

こころ寂しく

肩を寄せ合う

雪は

三日前から

降り続き

君とのLINEも

雪景色に覆われた

辿り着いた喫茶店

コーヒーに脂が浮かぶ

君はそれを

指で除けた

角の席の老人が

突然叫び始めた

「万物は流転し」

「永久不滅」

「生ゴミ焼却」

「俗物死すべし」

僕と君は

黙って老人を見ていた

品のいいスーツ

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虜

汗ばんだ君の背中に

ゆっくりと指を這わせ

微かに洩れる

嗚咽のような声を楽しむ

褐色のうなじに

優しく唇で

ひとつひとつ

痕を付ける

長い睫毛を震わせ

悦びの表情を浮かべる君

僕はその手を握りしめ

君と呼吸を合わせる

心臓の高鳴りは

次第に同調して

ふたりの生命の泉は

同化して溢れ出す

濡れそぼる渓谷に

熱い情熱を注ぎ

肌寒いこの部屋の温度が

僅かに上昇して

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