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百合子、貴女ほんとにそれでいいの?──大林宣彦『さびしんぼう』

百合子、貴女ほんとにそれでいいの?──大林宣彦『さびしんぼう』

ふと、大林宣彦監督『さびしんぼう』を思い出して、やけに胸が苦しくなった時があって。

尾道で悪友たちと青春を謳歌する高2のヒロキ(尾美としのり)は、近くの女子校に通う百合子(富田靖子)に恋をする。しかし百合子は、いつもヒロキが見つめている、爽やかでピアノが好きな女子高生という顔の反対側で、ヒロキの知らない苦しい境遇で生活していた。

「恥ずかしいから…」と言いかけて家までは絶対に近づかせない百合子

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フェリーニ『道』と、寅さんの口笛

フェリーニ『道』と、寅さんの口笛

さっき、突如、やっと判明……。

親がかつて「寅さん全作制覇する!」と言って休みの日にビデオ借りてきて見ていて、私もつられて全作見ていて、そんなわけでいろんな有名な映画より先に、寅さんが先入観(?)としてある私なのだけど、

後にフェリーニ『道』をTVか何かで見た時に、綱渡りのイル・マットが、

「♪ジェルソミーナ、ジェルソミーナ…」

と歌うのを聞いた時に、

あれ、これ寅さんも口笛吹いてるよな

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友情か恋か、決めたがるのは何故だろう─大島渚『戦場のメリークリスマス』

友情か恋か、決めたがるのは何故だろう─大島渚『戦場のメリークリスマス』

クリスマス、NHK-BSでお昼の映画の時間帯に大島渚『戦場のメリークリスマス』放送してましたね。
追悼で放送しないのかな、と思っていたけどまさか、クリスマス当日にやるとは。

ハラ、ヨノイ、セリアズ、ローレンスのそれぞれから漏れてくる「想い」は、濃厚な友情なのか恋なのか。

その疑問を解決しようと、頭から離れずに最後まで見てしまうのだけど、

今日見ていて、おや?と自分で思った。

友情なのか恋情

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誰も彼もが本当は長い長い背景を背負っている─小津安二郎『東京物語』

誰も彼もが本当は長い長い背景を背負っている─小津安二郎『東京物語』

小津安二郎『東京物語』と言えば、上京した両親を子ども達が邪険にして、唯一、原節子だけが優しい。
だいたいそういうことだけど。

中でも印象的にデリカシーに欠けるように見える長女の志げ(杉村春子)。昨日たまたまTVでやっていて、何度も見たし悲しい映画だ、と思いつつ、また見てしまった。もうだいぶ話は進んでいて、その志げが、久しぶりに酒に酔った父(笠智衆)を家に入れるシーンが始まった。
私はこのシーンが

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AIに心はあるのでしょうか (2001年宇宙の旅、エイリアン、そしてオズの魔法使い…映画の話です)

AIに心はあるのでしょうか (2001年宇宙の旅、エイリアン、そしてオズの魔法使い…映画の話です)

人工知能 AIに心はあるのでしょうか。

少し前に、GoogleのLaMDAが意識・感情を持ったかもしれない、と話題になりましたが、実際のところは、いったい誰が、何によってそれを証明できるのでしょう。意識は心とも言えるでしょうか。そもそも心とは何かを、何によって証明すればいいのでしょうか。

映画 (原作小説もそうですが)『2001年宇宙の旅』では、宇宙船に搭載されている人工知能HAL9000が、

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舞踏家の身体と五輪塔─安定と不安定。

舞踏家の身体と五輪塔─安定と不安定。

先日、五輪塔とは何かをお聞きする機会がありました。お寺や墓所で見かける、あの石塔のことです。

五輪塔は、パゴダ、ストゥーパ(仏塔)が起源ですからインド由来の概念ですが、面白いことに、△や○や□を積み上げたあの独特の姿は、日本独自のものらしい、というのです。

5つの立体物はそれぞれが火、水、地…というように五元素の象徴であり、五輪塔は、その完全なる安定状態を表しているそうです。

さらに…

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一瞬にして変わるフィールド─アッバス・キアロスタミ『友だちの家はどこ?』(100%ネタバレです)

一瞬にして変わるフィールド─アッバス・キアロスタミ『友だちの家はどこ?』(100%ネタバレです)

アッバス・キアロスタミ監督『友だちの家はどこ?』(1987年、イラン)

村の小さな学校。朝、先生が子ども達のノートを見ながら宿題を確認しています。主人公ムハマッド少年の隣の席のアハマッドは、宿題をやってくることが出来ませんでした。厳格な口調の先生に、一所懸命理由を話そうとしますが半泣き状態。「今度忘れたら退学にする」と言われてしまいます。
学校から帰り宿題をしようとしたムハマッドは、間違って友だ

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「君は僕より先に死んじゃダメです。」

「君は僕より先に死んじゃダメです。」

ジョアオ・マリオ・グリロ監督『アジアの瞳』を見ていました。あちこち探し回ってやっと見つけたDVDなのです。
天正遣欧少年使節であり、後に禁教令下の長崎で殉教した中浦ジュリアンの物語をベーシックに、現代の長崎を訪れたEU文化官の女性の目を通して見た、キリスト教弾圧という加害とその後の原爆被害。そのようにして不寛容を繰り返すこの世界。原爆という悲惨な出来事そのものを忘れたかのような日本の変容ぶりが忘却

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ひとつの詩と三度出会う。(谷川俊太郎『みみをすます』)

ひとつの詩と三度出会う。(谷川俊太郎『みみをすます』)

谷川俊太郎「みみをすます」と初めて出会ったのは、私がほんの子どもだった頃、身内の誰かから買い与えられたものらしい、福音館書店の書籍『みみをすます』でした。
谷川俊太郎『みみをすます』
福音館書店

山吹色というのでしょうか、その表紙に描かれた柳生弦一郎イラストの「顔」は、シンプルですが子ども心に強烈なインパクトでした。
「みみをすます」は全てひらがなで書かれているので、幼い私にその意味が分からなか

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アーティストとは誰なのか?

アーティストとは誰なのか?

この世界というものは常に移り変わってゆきます。これまでもそうだったし、これからもそうです。

しかし私たちは、日常の雑事に追われて、或いは日常が平々凡々とし過ぎる (と思い込んでいる) ために、世界が変化している事になかなか気づきませんが、本当は、この瞬間も移ろっていく最中なのです。
そして後になって、過ぎ去ってみてからようやく振り返って、「時代」という概念を尺度にしたりしながら、この世界が既に変

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ケダゴロ『ビコーズカズコーズ』を見てきました。

ケダゴロ『ビコーズカズコーズ』を見てきました。

下島礼紗率いるケダゴロ『ビコーズカズコーズ』を無事に見てきました。ビコーズカズコーズ東日本縦断ツアーの初日です。

開演前の「開演に先立ちまして…」影アナから、気付かぬうちにじんわり観客の不安に引き込む演出なのだけど、舞台のちゃぶ台に、何故か並んだ「毛」。怖いのだか滑稽なのだか分からない始まりなのね。ところが…
女性メンバーがみんながおもむろに「毛」を手にし、額に付けるのね。付け毛なのよ。前髪なの

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怖さ49%、見たさ51%、ゆえに劇場へ。

怖さ49%、見たさ51%、ゆえに劇場へ。

「地球には重力があるらしいんよ」
このサブタイトルにはシビれました。
重力。重力なしに私達は生きてはゆけません。この極めて重要で、そして極めて憂鬱な存在よ。
もし私達が、生きながらに重力から解放されるとしたら。それでも誰かを傷つける心理は働いているだろうか。人類はなおも悪事を繰り返しているだろうか。

明日は下島礼紗ケダゴロ『ビコーズ・カズコーズ』を見に行くのですが……あの福田和子事件がベーシック

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映画『ALL ABOUT MY MOTHER』と聖母礼賛と、イエス最初の奇跡「カナの婚宴」。

映画『ALL ABOUT MY MOTHER』と聖母礼賛と、イエス最初の奇跡「カナの婚宴」。

DVDを古本屋に売ろうと整理していたら、買ったままだった『ALL ABOUT MY MOTHER』が、陰から出てきた。「すべての女性に捧げられた映画」と世界的にヒットしたアルモドバル監督の代表作。ずいぶん前、20代前半の頃に見たっきりで、当時の感想は、

「みんな仲良すぎてあり得ない。ラストが “ 奇跡のめでたしめでたし” で全然つまんない。」

見直してみたら印象が変わっているかも、と思い立って

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芸術都市マントヴァはユダヤ人コミュニティを隔離したくなかった  (EX NOVOオンライン講座から)

芸術都市マントヴァはユダヤ人コミュニティを隔離したくなかった (EX NOVOオンライン講座から)

以前、古楽アンサンブル EX NOVO が企画するオンライン講義シリーズ、vo.3 『モンテヴェルディ《オルフェーオ》~様々な角度から概観する~』 を受講した感想などを、備忘を兼ねてnoteに記しました。講座のメインは、世界初のオペラ作品『オルフェーオ』についてなのですが、3時限目の、当時のマントヴァの様子がとても興味深く、私のメモ書きはそのことに終始していました……。
講師は音楽学の萩原里香先生

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