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アクセスの少ない記事

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全体ビュー(全期間)でアクセスの少ない記事を集めました。アカウントを開設した初期の記事が多いのですが、意外と面白いかもしれませんよ。下へ行くほどアクセスが少なくなっています。
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病室の蛍

病室の蛍

 いま「信号」について考えていますが、それにはわけがあります。いろいろありますが、ある出来事が大きくかかわっている気がします。

 母が生きていたころの話です。ある年の初めに母が大病をしました。それまではわりと元気で入院をした経験も一度しかない人だったので、病に倒れたさいには、こちらもてんてこ舞いしました。

 一時は危篤状態となり約一か月間の入院でした。そのとき看病をしながら、「信号」についてよ

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知らないものについて読む

知らないものについて読む

 文芸作品そのものを読むよりも文芸批評を読むほうが好きでした。大学生時代はちょうど文芸批評の全盛期みたいな雰囲気があり、従来の印象批評の本が相変わらず続々出版され、フランス製のヌーベルクリティックとか英米加製のニュークリティシズム、そして日本でも新批評と呼んでいいような本や論考があいついで上梓されたり雑誌に発表されていました。

 つぎつぎに紹介される斬新な手法に興奮したのを覚えています。

 印

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ドナドナ

ドナドナ

 最近、こんなことを考えています。

*はかる:人が苦手な行為。人は、「はかる」ための道具・器械・機械・システム(広義の「はかり」)をつくり、そうした物たちに、外部委託(外注)している。計測、計数、計算、計量、測定、観測。機械やシステムは高速かつ正確に「はかる」。誤差やエラーが起きることもある。

*わける:人が得意な行為。ヒトの歴史は「わける」の連続。分割、分離、分断、分類、分別、分解、分担、分

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直線上で迷っているネズミがいた。

直線上で迷っているネズミがいた。

 直線上で迷っているネズミがいた。ネズミは自分が前に進んでいると思っていた。深くは考えなかった。

 進んでも進んでも切りがなかった。回れ右をしても同じだった。今度は後ろが前になった。

 ひょっとして自分は迷っているのではないか。そんな思いが頭に浮んだが、すぐに忘れた。

 疲れると道から降りた。降りて振りかえると、歩いていた道が大きな輪っかだと気づいた。

 前にもそんなことがあった気がした。

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「読む」と「書く」のアンバランス(薄っぺらいもの・07)

「読む」と「書く」のアンバランス(薄っぺらいもの・07)


◆第一話
 文章を書くのは料理を作るのに似ています。天才と呼ばれる人は別なのでしょうが、私なんかはずいぶん苦心して文章を書いています。

 勢いに任せて殴り書きする癖があるにしても、文章を書くのには手間と時間がかかるのです。

 料理も手間隙かけてせっかく作ったのに、ぺろりと平らげられる場合があります。あっけないですが、作ったほうとしてはうれしいものです。

 書くのに時間と労力を要するのに、さ

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「かける」と「かける」(かける、かかる・03)

「かける」と「かける」(かける、かかる・03)


かけるとかける
 かけるとかける。
「かける」と「かける」。

 上のフレーズは「AするとAする」と読めば、「Aすると(その結果)Aする(ことになる)」とも、「「Aすること」と「Aすること」」とも読めます。

 いずれにせよ、前者と後者は別物でなければなりません。

     *

 かける、掛ける、懸ける、架ける、賭ける、欠ける、駆ける、翔る、駈ける、掻ける、書ける、描ける、画ける

「かける

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鏡、時計、文字

鏡、時計、文字

「わける、はかる、わかる」への投稿後の加筆が、かなり大幅なものとなってしまったので、加筆した二つの文章を独立させ、新たな記事にしました。ふらふらして申し訳ありません。

「同一視する「自由」、同一視する「不自由」」は蓮實重彥の文章にうながされて書いたものであり、「「鏡・時計・文字」という迷路」は古井由吉の『杳子』の冒頭における杳子と「彼」の出会いの場面について書いたものです。

 私は古井由吉の作

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顔



 朝起きると、見知らぬ顔が鏡の中にいた。忘れもしない、二十年前のゴールデンウィーク最終日のことだ。驚いたのは言うまでもない。誰にも言わなかったのは、誰も気づいていないみたいだったからだ。家族も、学校でも。最も敏感であってほしい我が家の犬さえも。

 翌日の午後、学校から帰る途中に、私を追い抜いていったバスの一番後ろの窓から見ていた私の顔と目が合った。私たちは互いに目を見開き、口を手で被った。

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有名は有数、無名は無数

有名は有数、無名は無数

「これはね、森鴎外作『寒山拾得』から引用したもので、三島由紀夫の『文章読本』で激賞されている文なんだ」

「そうかそうか、さすがに名文だね。短いけど、すごい。なんというか、こう、気品が漂ってくるのよね」、「やっぱりね。違いますよ。短いけど、そんじょそこらの文章とはぜんぜん違う。なんというか、こう、文体が違います」、「分かります。そんな気がしたんだよな。言葉に独特のたたずまいがあるでしょ? なんとい

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一人でいるべき場所

一人でいるべき場所

 このところ、夜になるとやって来る女性がいます。枕元に立つのです。顔はよく見えません。というのは、半分冗談です。神仏のたぐいは信じていませんし、超常現象とか神秘体験みたいなこととは、ほとんど無縁で生きてきました。でも、半分冗談ですから、半分は本当なのです。

 夜な夜なやって来るのは、書きかけで放置してある小説の登場人物です。長いあいだ温めているにもかかわらず、なかなか完成できない小説がいくつかあ

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古井、ブロッホ、ムージル(その2)

古井、ブロッホ、ムージル(その2)

 今回は、古井由吉が訳したロベルト・ムージルの『愛の完成』で私の気になる部分を引用し、その感想を述べます。

・「古井、ブロッホ、ムージル(その1)」

 以下は、「古井、ブロッホ、ムージル」というこの連載でもちいている図式的な見立てです。今回も、これにそって話を書き進めていきます。

     *

*聞く「古井由吉」:ぞくぞく、わくわく。声と音が身体に入ってくる。自分が溶けていく。聞いている対

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「写る・映る」ではなく「移る」・その1

「写る・映る」ではなく「移る」・その1


 川端康成の文章には、どきりとすることを淡々と書いている箇所が多々あります。

 私は読んだ作品の内容を要約するのが苦手なので、内容に興味のある方は、以下の資料をご覧ください。丸投げをお許し願います。 

*「うつっている」
 パソコンをつかって書きうつした(キーボードのキーを叩いて入力した)文章をさらに、一文ずつ、ここにうつしかえて、私の言葉を重ねていこうと思います。

     *

・「し

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「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

 吉田修一の『元職員』の読書感想文です。小説の書き方という点でとてもスリリングな作品です。

「 」「・」「 」
 たとえば、私が持っている新潮文庫の古井由吉の『杳子・妻隠』(1979年刊)に見える「・」ですが、河出書房新社の単行本では『杳子 妻隠』(1971年刊)らしいのです。

 らしいと書いたのは、現物を見たことがないからです。ネットで検索して写真で見ただけです。

 私は「・」がなかったり

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共鳴、共振、呼応(薄っぺらいもの・06)

共鳴、共振、呼応(薄っぺらいもの・06)

 今回は梶井基次郎の小説の読書感想文です。まず、長いですが前提となる話から書きます。

◆物、言葉、そのイメージ*共鳴、共振、共感

 薄っぺらいもの、ぺらぺらしたものが、震える、振れる、鳴る、響く。音声、波、熱が生まれる。

 空気、管、線、帯を、通る、伝わる。

 薄っぺらいもの、ぺらぺらしたものが、震える、振れる、鳴る、響く。音声、波、熱が生まれる。

 共に振れる、共に震える、共に鳴る、共

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