四十九院紙縞

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マガジン

  • 単発短編小説

    一話完結の短編小説置き場。

  • 短編連作小説『透目町の日常』まとめ

    短編連作シリーズ『透目町の日常』をまとめました。基本的には一話完結なので、気になった作品からご覧いただければ幸いです。

  • 長編小説『リトライ;リバース;リサイクル』まとめ

    記憶喪失の殺人鬼と、大鎌を携えた少女による、ちょっと歪んだ恋の話です。

  • 長編小説『陽炎、稲妻、月の影』まとめ【完結済】

    記憶喪失の地縛霊と霊能力者の女子高生が、校内の心霊現象を解決していく物語です。

  • 長編小説『暮れなずむ秋と孤独な狛犬の歌』まとめ【完結済】

    周囲から孤立している「僕」と自称狛犬の少女が、神社で歌の練習を通して仲良くなっていく話です。

記事一覧

【短編小説】あのとき守れなかった約束を、もう一度。

 身支度を整え、あいつのお気に入りの花である水仙と、一番好きなお菓子だっただろうチョコチップクッキーの袋を持つ。  雨天決行。  傘立てから傘を一本抜き取り、私は…

3

【短編小説】記憶喪失になったら婚約者から溺愛されるようになりました

1.――「あの……どちら様でしょうか?」 「来週、気になってる映画が公開されるんだけど。一緒に観に行かない?」 「……ふうん」 「それで、映画の帰りに、行ってみた…

四十九院紙縞
2週間前
6

【短編小説】人生から逃げ続ける「私」の話

 人間、生きていれば一度くらいは『逃げ出したい』と思うことはあるだろう。  この場合の『逃げ出したい』とは、現在進行形で続いている自身の人生を指す。  そうやって…

四十九院紙縞
4週間前
4

【短編小説】明日死ぬって言ったらどうする?

「明日死ぬって言ったらどうする?」  その日、私は友人である英生と中華料理屋に来ていた。  目的はひとつ、激辛料理である。  私たちは、定期的に激辛料理を食べる。 …

四十九院紙縞
1か月前
1

【短編小説】世界終焉の、一週間後。

 一ヶ月前、世界終焉の日が全世界に通達され。  二週間前、選ばれた人たちは宇宙へ旅立った。  一週間前、冗談みたいな天変地異に見舞われ。  そうして、世界は滅んだ…

四十九院紙縞
2か月前
6

【短編小説】美しい嘘

(1)――「殺せるものなら、殺してみろ。ただし、美しくな」  暗闇の森。  この辺りの人間がそう呼び畏れ近寄らない森で、少年が一人、ぽつねんと輝いていた。  輝…

四十九院紙縞
2か月前
7

【短編小説】無表情な私と無愛想な君とが繰り返すとある一日の記録

(1)――今日は、というか、今日も、だ。  酷く嫌な夢をみた気がして、私は目を覚ました。  心臓はまだ早鐘を打っていて息が上がっているし、十月の朝とは思えないほ…

四十九院紙縞
2か月前
5

【短編小説】幽体離脱を経験した友達とお喋りする「私」の話

『稀によくあるありふれた日々』 「風邪をひいたときにみる、変な夢ってあるじゃん」  放課後。  なんとなく家に真っ直ぐ帰る気になれなかった私たちは、学校の教室に残…

四十九院紙縞
3か月前
1

【短編小説】末継将希について

幼馴染・今野悠汰の証言 「お久しぶりです。前に会ったのは、俺らが小六のときでしたっけ。ほら、あの頃は俺と将希が同じゲームにハマってて、よくお家にお邪魔させてもら…

四十九院紙縞
4か月前
6

【短編小説】鬱で療養中の「私」が昔馴染みの雪女と雪だるまを作る話

『雪解けのときはまだ遠く』  小学生の頃、雪が降っている日に限り、同い年くらいの女の子とよく遊んでいた。  雪が音を吸収し、世界に一枚布を被せたような静寂さが支配…

四十九院紙縞
4か月前
7

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #44 【完】

最終話 今日も明日も明後日も――(2)  アサカゲさんは祠の前にしゃがんだかと思うと、その戸を開け、中から一枚の紙を取り出した。四つ折りになっていて、なにが書か…

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四十九院紙縞
6か月前
1

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #43

最終話 今日も明日も明後日も――(1) 「よお、一週間ぶりじゃねえか」  目を開けて一番に視界に飛び込んできたのは、苛立ちを顕にしている女子生徒の姿だった。 「え…

四十九院紙縞
6か月前
1

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #42

第5話 呻く雄風――(12)  とても幸福で温和な時間に浸っていたいところだが、いつまでもこうしているわけにもいかない。 「さてと。時間もあんまりないし、後片づけ…

四十九院紙縞
6か月前
1

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #41

第5話 呻く雄風――(11)  ごうごうと唸りを上げる風の音で、俺は意識を取り戻した。  視界の端に、真っ白な白い髪がちらついている。  身につけている服は、今し…

四十九院紙縞
6か月前
1

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #40

第5話 呻く雄風――(10)  私立境山高校が建てられてから、どれくらいの年月が経った頃だろうか。  気がつけば校舎は増え、多発する心霊現象の所為で、校内の複雑化…

四十九院紙縞
6か月前

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #39

第5話 呻く雄風――(9)  この土地に人間が定住するようになってほどなく、俺は生まれた。  いや、生まれたという言葉は正確ではないか。神様というものは、人間の願…

四十九院紙縞
6か月前
【短編小説】あのとき守れなかった約束を、もう一度。

【短編小説】あのとき守れなかった約束を、もう一度。

 身支度を整え、あいつのお気に入りの花である水仙と、一番好きなお菓子だっただろうチョコチップクッキーの袋を持つ。
 雨天決行。
 傘立てから傘を一本抜き取り、私は家を出た。
 傘には、ばつばつと勢いよく雨が当たる。ビニール傘は一瞬にして濡れ、そこに数多の水滴をくっつけていた。
 春を待つ季節の雨は、しっとりと足元を冷やす。しかし、それは私が外出をやめる理由にはならない。
 今日の私には、約束がある

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【短編小説】記憶喪失になったら婚約者から溺愛されるようになりました

【短編小説】記憶喪失になったら婚約者から溺愛されるようになりました


1.――「あの……どちら様でしょうか?」

「来週、気になってる映画が公開されるんだけど。一緒に観に行かない?」
「……ふうん」
「それで、映画の帰りに、行ってみたいカフェがあるんだ。ラテアートが可愛いんだって。そこも一緒に行こうよ」
「……別に」
 月に一度行われる、婚約者とのお茶会。
 家同士が取り決めた婚約者であり、幼馴染である櫨原侑誠は、私の向かいの席で、つまらなそうに生返事を繰り返す。

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【短編小説】人生から逃げ続ける「私」の話

【短編小説】人生から逃げ続ける「私」の話

 人間、生きていれば一度くらいは『逃げ出したい』と思うことはあるだろう。
 この場合の『逃げ出したい』とは、現在進行形で続いている自身の人生を指す。
 そうやって逃避し、人は『もしも』を考えるのだ。
 もしも、こんな田舎じゃなくて都会に生まれていたら。
 もしも、右利きでなく左利きだったら。
 もしも、なにかしらの才能を開花させていたら。
 これは私の持論に過ぎないが、大なり小なり、誰しもこういっ

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【短編小説】明日死ぬって言ったらどうする?

【短編小説】明日死ぬって言ったらどうする?

「明日死ぬって言ったらどうする?」
 その日、私は友人である英生と中華料理屋に来ていた。
 目的はひとつ、激辛料理である。
 私たちは、定期的に激辛料理を食べる。
 それはストレス発散の為であり、互いの近況報告の為でもある。忙しい社会人にとっては、なくてはならない大切な時間だ。
 どうして毎回激辛料理かと訊かれれば、答えは単純明快。素面で話すには恥ずかしいけれど、お酒を入れるほどでもない話題に、美

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【短編小説】世界終焉の、一週間後。

【短編小説】世界終焉の、一週間後。

 一ヶ月前、世界終焉の日が全世界に通達され。
 二週間前、選ばれた人たちは宇宙へ旅立った。
 一週間前、冗談みたいな天変地異に見舞われ。
 そうして、世界は滅んだ。
 そのはずだった。
「なんで生きてっかなあ」
「そりゃあ、死んでないからっしょ」
 世界終焉の、一週間後。
 滅んだはずの世界の端で、私は友達と海辺に居た。
 ほとんどの生き物は死滅した。一週間前に起きた地震と大雨と洪水と津波と……そ

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【短編小説】美しい嘘

【短編小説】美しい嘘


(1)――「殺せるものなら、殺してみろ。ただし、美しくな」

 暗闇の森。
 この辺りの人間がそう呼び畏れ近寄らない森で、少年が一人、ぽつねんと輝いていた。
 輝いていた、という言葉に間違いはない。
 老人のように白い髪、陶器のように白い肌、血の色をした瞳。
 そんな姿で、陽の光が差さない森の中に居れば、輝いていると表現したくもなるものだ。
 魔女は、そんなことを考えながら嘆息し、同時に心を弾ま

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【短編小説】無表情な私と無愛想な君とが繰り返すとある一日の記録

【短編小説】無表情な私と無愛想な君とが繰り返すとある一日の記録


(1)――今日は、というか、今日も、だ。

 酷く嫌な夢をみた気がして、私は目を覚ました。
 心臓はまだ早鐘を打っていて息が上がっているし、十月の朝とは思えないほど滝のような汗をかいている。
 それなのに、夢の内容は微塵にも覚えていなかった。
 怖かった。
 その感情だけが色濃く残っていて、余計に後味が悪い。
「ひさぎー? いい加減に起きないと遅刻するよー?」
 階下から、私を呼ぶ母の声がした。

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【短編小説】幽体離脱を経験した友達とお喋りする「私」の話

【短編小説】幽体離脱を経験した友達とお喋りする「私」の話

『稀によくあるありふれた日々』
「風邪をひいたときにみる、変な夢ってあるじゃん」
 放課後。
 なんとなく家に真っ直ぐ帰る気になれなかった私たちは、学校の教室に残り、雑談に興じていた。
 中学三年生の秋。
 部活は春先に引退し、受験に本腰を入れなければならない時期。しかしそれ故に、どこかで肩の力を抜きたい衝動に駆られる。今日のこの時間は、お互い明確に言葉にはしていないが、息抜きの意味合いが強かった

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【短編小説】末継将希について

【短編小説】末継将希について

幼馴染・今野悠汰の証言

「お久しぶりです。前に会ったのは、俺らが小六のときでしたっけ。ほら、あの頃は俺と将希が同じゲームにハマってて、よくお家にお邪魔させてもらってたんスよね。五回に一回くらいの頻度で将希のお母さんが作ってくれたクッキーが美味しかったの、よく覚えてます。懐かしいなあ。
 ……この度は、御愁傷様です。今日は、将希の話を聞きたいってことでしたけど、具体的にはどんな話を聞きたい感じです

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【短編小説】鬱で療養中の「私」が昔馴染みの雪女と雪だるまを作る話

【短編小説】鬱で療養中の「私」が昔馴染みの雪女と雪だるまを作る話

『雪解けのときはまだ遠く』
 小学生の頃、雪が降っている日に限り、同い年くらいの女の子とよく遊んでいた。
 雪が音を吸収し、世界に一枚布を被せたような静寂さが支配する世界では、私と彼女の笑い声だけが響き渡っていた。雪だるまを作り、氷柱を使ってチャンバラをし、かまくらを作り、雪合戦をした。
 彼女は、少し――いや、かなり、不思議な子だった。
 烏の濡羽色のような瞳も髪の色も、ただ美しいと思うだけだ。

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【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #44 【完】

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #44 【完】

最終話 今日も明日も明後日も――(2)

 アサカゲさんは祠の前にしゃがんだかと思うと、その戸を開け、中から一枚の紙を取り出した。四つ折りになっていて、なにが書かれているのかまではわからない。
「祠が空っぽなのは如何なもんかと思って、仮でこれを入れてたんだ」
「……見ても良い?」
「ああ。ほらよ」
 ぶっきらぼうに頷いたアサカゲさんから、仮の御神体としていた紙を受け取り、広げる。
 そこには、小学

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【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #43

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #43

最終話 今日も明日も明後日も――(1)

「よお、一週間ぶりじゃねえか」
 目を開けて一番に視界に飛び込んできたのは、苛立ちを顕にしている女子生徒の姿だった。
「ええと……」
 あまりの怒気に怯み、俺は言い淀む。
 私立境山高等学校、第二教室棟一階の廊下にて。
 目の前に立つ彼女は腰に手を当て、少しだけ見上げるようにして俺を睨みつけていた。
 急な展開に驚きこそあれ、それまで意識を失っていたのが嘘

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【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #42

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #42

第5話 呻く雄風――(12)

 とても幸福で温和な時間に浸っていたいところだが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
「さてと。時間もあんまりないし、後片づけしよっか」
「は? 時間?」
 疑問符を浮かべたアサカゲさんに、敢えて回答はせず、俺はついっと人差し指で円を描いた。
 三年五組の教室で発生した風は、そこに居る三人を優しく抱え上げると、グラウンドへと運び出す。始めこそ悲鳴を上げられたが

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【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #41

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #41

第5話 呻く雄風――(11)

 ごうごうと唸りを上げる風の音で、俺は意識を取り戻した。
 視界の端に、真っ白な白い髪がちらついている。
 身につけている服は、今しがた思い出した記憶と同じ、秘色色の着物だ。
 自身の身に起きた変化を確認しているうち、足が地面につく。そこでようやく、ここがグラウンドであることに気がついた。
 三年五組の教室を出ようとして、あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。

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【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #40

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #40

第5話 呻く雄風――(10)

 私立境山高校が建てられてから、どれくらいの年月が経った頃だろうか。
 気がつけば校舎は増え、多発する心霊現象の所為で、校内の複雑化が進んでいた。
 その日も俺は、生徒の賑やかな声に耳を傾けていた。
 放課後に入り、部活動に勤しむ生徒の声が聞こえてくる。
 しかし、その声の中に、聞き慣れない声が混じっていた。
「どこ? どこにいるの?」
 それは、幼い女の子が泣きな

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【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #39

【長編小説】陽炎、稲妻、月の影 #39

第5話 呻く雄風――(9)

 この土地に人間が定住するようになってほどなく、俺は生まれた。
 いや、生まれたという言葉は正確ではないか。神様というものは、人間の願いが寄り集まった結果、それを叶えるものとして顕現する。だから「生まれた」というよりかは「発生した」という言葉のほうが、張本人としてはしっくりくる。
 ともかく、俺が土地神としてこの土地を見守るようになったのは、ここに高校が建てられるより

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