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単発短編小説

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一話完結の短編小説置き場。
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記事一覧

【短編小説】紫色の夜明け

(1)――「キミはもう二度とこの部屋から出られない」 「今からキミを、この部屋に軟禁する!」  猛暑の気配が残る夕暮れどき。  大学で夏休み前最後の講義を受け、スーパーで食糧品を買い、ネット通販で買った諸々の受け取りを終え、ようやく一息つけたところで、彼女は高らかに意味不明且つ不穏な宣言をしたのだった。 「今度はどんな映画を観たんだよ、ユカリ」  僕はスーパーで買った安いカフェラテを飲みながら、それだけ返した。  所謂「ごっこ遊び」が突発的に始まる程度、僕と彼女の間柄で

【短編小説】腹ぺこ吸血鬼の恩返し

(1)――「血を、寄越せ……!」  その日の帰り道は、生憎の雨だった。  今日はせっかくの満月の日だっていうのに、空は一面厚い雲に覆われ、月のつの字もない。  雨だ。  豪雨だ。  土砂降りだ。  ざあざあと、雨が強くアスファルトを叩いている。  そんな最悪な帰り道の、途中。  暗い道に、思い出したかのようにある街灯の下。  そこに、一人の女が座り込んでいた。  ぐったりと項垂れ、意識を失っているように見える。  酔っ払いだろうか。それにしたって、酔い潰れるには早い時間の

【短編小説】あのとき守れなかった約束を、もう一度。

 身支度を整え、あいつのお気に入りの花である水仙と、一番好きなお菓子だっただろうチョコチップクッキーの袋を持つ。  雨天決行。  傘立てから傘を一本抜き取り、私は家を出た。  傘には、ばつばつと勢いよく雨が当たる。ビニール傘は一瞬にして濡れ、そこに数多の水滴をくっつけていた。  春を待つ季節の雨は、しっとりと足元を冷やす。しかし、それは私が外出をやめる理由にはならない。  今日の私には、約束があるのだ。  だから私は、春の嵐にも負けず、目的地へと歩を進めるのだ。  あいつと

【短編小説】記憶喪失になったら婚約者から溺愛されるようになりました

1.――「あの……どちら様でしょうか?」 「来週、気になってる映画が公開されるんだけど。一緒に観に行かない?」 「……ふうん」 「それで、映画の帰りに、行ってみたいカフェがあるんだ。ラテアートが可愛いんだって。そこも一緒に行こうよ」 「……別に」  月に一度行われる、婚約者とのお茶会。  家同士が取り決めた婚約者であり、幼馴染である櫨原侑誠は、私の向かいの席で、つまらなそうに生返事を繰り返す。  別に良い。いつものことだ。  小学校中学年頃から高校二年生に至る今日まで、私

【短編小説】明日死ぬって言ったらどうする?

「明日死ぬって言ったらどうする?」  その日、私は友人である英生と中華料理屋に来ていた。  目的はひとつ、激辛料理である。  私たちは、定期的に激辛料理を食べる。  それはストレス発散の為であり、互いの近況報告の為でもある。忙しい社会人にとっては、なくてはならない大切な時間だ。  どうして毎回激辛料理かと訊かれれば、答えは単純明快。素面で話すには恥ずかしいけれど、お酒を入れるほどでもない話題に、美味い辛いとひいひい言いながら食べる激辛料理は、思う以上に最適なのだ。  今日も、

【短編小説】世界終焉の、一週間後。

 一ヶ月前、世界終焉の日が全世界に通達され。  二週間前、選ばれた人たちは宇宙へ旅立った。  一週間前、冗談みたいな天変地異に見舞われ。  そうして、世界は滅んだ。  そのはずだった。 「なんで生きてっかなあ」 「そりゃあ、死んでないからっしょ」  世界終焉の、一週間後。  滅んだはずの世界の端で、私は友達と海辺に居た。  ほとんどの生き物は死滅した。一週間前に起きた地震と大雨と洪水と津波と……それから、なんだったか。とにかく天変地異が起き続け、それによって滅んだのだ。  こ

【短編小説】美しい嘘

(1)――「殺せるものなら、殺してみろ。ただし、美しくな」  暗闇の森。  この辺りの人間がそう呼び畏れ近寄らない森で、少年が一人、ぽつねんと輝いていた。  輝いていた、という言葉に間違いはない。  老人のように白い髪、陶器のように白い肌、血の色をした瞳。  そんな姿で、陽の光が差さない森の中に居れば、輝いていると表現したくもなるものだ。  魔女は、そんなことを考えながら嘆息し、同時に心を弾ませる。  軽い散歩のつもりで歩いてきたが、思いがけず美しい光景に出会ったものだ―

【短編小説】無表情な私と無愛想な君とが繰り返すとある一日の記録

(1)――今日は、というか、今日も、だ。  酷く嫌な夢をみた気がして、私は目を覚ました。  心臓はまだ早鐘を打っていて息が上がっているし、十月の朝とは思えないほど滝のような汗をかいている。  それなのに、夢の内容は微塵にも覚えていなかった。  怖かった。  その感情だけが色濃く残っていて、余計に後味が悪い。 「ひさぎー? いい加減に起きないと遅刻するよー?」  階下から、私を呼ぶ母の声がした。  この呼びかけで起きなければ、部屋に母が突入してくる。別に、部屋に見られて困る

【短編小説】末継将希について

幼馴染・今野悠汰の証言 「お久しぶりです。前に会ったのは、俺らが小六のときでしたっけ。ほら、あの頃は俺と将希が同じゲームにハマってて、よくお家にお邪魔させてもらってたんスよね。五回に一回くらいの頻度で将希のお母さんが作ってくれたクッキーが美味しかったの、よく覚えてます。懐かしいなあ。  ……この度は、御愁傷様です。今日は、将希の話を聞きたいってことでしたけど、具体的にはどんな話を聞きたい感じですか? ……将希の最近の様子、ですか。  そうですね……俺から見た将希は、ずっとい