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短編連作小説『透目町の日常』まとめ

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短編連作シリーズ『透目町の日常』をまとめました。基本的には一話完結なので、気になった作品からご覧いただければ幸いです。
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短編連作シリーズ『透目町の日常』を紹介する

はじめまして、四十九院紙縞と申します。 この記事では、唐突に投稿を開始した短編連作シリーズ『透目町の日常』についての話をしていこうと思います。 通りすがりに偶然この記事を見かけたかたに興味を持っていただければ幸いです。 やんわりと世界観の話と、現時点で投稿している作品の紹介をしていきますが、この記事を読まないとこのシリーズの世界観がわからなくなるということは決してありませんので、ご安心ください。 「透目町」とは 物語の舞台となる「透目町」とは、架空の町です。 町の名前

【短編小説】幽体離脱を経験した友達とお喋りする「私」の話

『稀によくあるありふれた日々』 「風邪をひいたときにみる、変な夢ってあるじゃん」  放課後。  なんとなく家に真っ直ぐ帰る気になれなかった私たちは、学校の教室に残り、雑談に興じていた。  中学三年生の秋。  部活は春先に引退し、受験に本腰を入れなければならない時期。しかしそれ故に、どこかで肩の力を抜きたい衝動に駆られる。今日のこの時間は、お互い明確に言葉にはしていないが、息抜きの意味合いが強かった。先へ進む為には、こういう時間も必要なのだ。  それに、今日中に彼女に伝えておき

【短編小説】鬱で療養中の「私」が昔馴染みの雪女と雪だるまを作る話

『雪解けのときはまだ遠く』  小学生の頃、雪が降っている日に限り、同い年くらいの女の子とよく遊んでいた。  雪が音を吸収し、世界に一枚布を被せたような静寂さが支配する世界では、私と彼女の笑い声だけが響き渡っていた。雪だるまを作り、氷柱を使ってチャンバラをし、かまくらを作り、雪合戦をした。  彼女は、少し――いや、かなり、不思議な子だった。  烏の濡羽色のような瞳も髪の色も、ただ美しいと思うだけだ。私が不思議に思ったのは、彼女がいつも、こちらが寒く感じるほど薄着であることだ。私

【短編小説】突如現れた正体不明の女性と同居することになった「私」の話

『名無しの名無花さん』  ある月曜日の朝、リビングで知らない人が家族と朝食を食べていた。  両親はとっくに食事を済ませ、母は早々に仕事へ行く準備を、父は家族全員分の弁当の用意をしていて。それを横目に、兄はテレビを観ながらトーストに齧りついている。  毎日代わり映えのない光景に、しかし今日は、異物が一人。  その知らない人は、兄の正面の席に座り、同じように朝食を食べていたのである。  見た感じ、二十代前半ほどの女性だ。胸元まで真っ直ぐに伸びる黒髪は、どんなヘアケアをしているのか

【短編小説】友達(猫)を殺した犯人を捕まえる為に友達(人間)と協力して張り込みをする「私」の話

『はんぶんこの二乗と抱擁』  友達が二人、公園で殺された。  いや、この表現は些か正確性に欠くか。事実に即して著すのであれば、「友達の地域猫が二匹、公園で殺された」である。  私は子どもの頃から、猫と仲が良かった。  それは一般的に動物に好かれている状態というものではなく、本当の本当に、猫に特化していると言って良い。母さんが言うには、赤ちゃんの頃に公園デビューしたその日に、それはもうすごい数の地域猫が寄ってきたそうだ。  さらに、私には猫の話す言葉がわかるということもあり、猫

【短編小説】葬式のときに稀に現れる『沙汰袈裟さん』に遭遇した「私」の話

『沙汰袈裟さん』  十月某日、私は義母の葬儀に参列する為、妻と共に透目町を訪れていた。  妻である詠未の実家がある透目町は、普段私達が暮らしている場所からは、飛行機や新幹線を使わなければならないほど遠方にあり、盆と正月に帰省できれば良いほうだった。  詠未の地元は、とても穏やかな空気が流れているように感じる。今回は、平時であれば帰省しない秋口ということもあって、余計にそう思うのかもしれない。  まるで、全て赦されていくような。  或いは、全て飲み込んでいくような。  私の乏し

【短編小説】自称神様見習いが便利屋の「私」に捕縛され〝話し合い〟をする話

『彼岸の名づけ親』 「そこの貴方! 幸せになりたくはないですかっ?!」  八月十五日、昼過ぎ。  午前中の業務が終わり、社用車を職場の駐車場に停めてエンジンを切り、外に出て数秒。  駐車場の日陰に居た『それ』は、私と目が合うと、開口一番にそんなことを言った。  刹那、外は災害級の酷暑だというのに、ぞわりと鳥肌が立つ。  理由はふたつ。  ひとつは、人間の体温すら超える気温の屋外で、『それ』は厚手のコートとマフラーを着込んでいる不審者であるということ。  もうひとつは、『それ』

【短編小説】失声症だけど鳥の言葉でだけ喋れる「私」の話

『飛べない翡翠の歩きかた』   私は、人間である。  或いは。  私は、鳥である。  それは、どちらでもあり、どちらでもないという、実に中途半端な存在であるようにも聞こえるかもしれないが、しかし事実は事実だ。  一番最初の記憶は、今も鮮明に残っている。  あれは私が小学四年生の五月上旬――大型連休中のことだった。どこの家族もそうであるように、私の家も連休を利用して外出をしていた。雄大な自然の中にアスレチックがたくさんある施設で、当時都市部に住んでいた私は、その目新しさに大はし

【短編小説】極端に影の薄い「私」が、並行世界から来た人間と、しがない喫茶店のマスターに救われる話

『透明人間はスパゲッティで孤独を癒やす』  物心がつく頃には、私は透明人間になっていた。  否、透明人間と言うと流石に語弊がある。  正確には、極端に影が薄い人間になっていた、だ。  一人で飲食店に行けば入店したことすら気づかれず席に案内されないことに始まり、やっとの思いで注文ができても、注文したものが出てくるまで通常の三倍は時間がかかる。  学校生活においては、とにかく出席しているという証明をするのが難しかった。なにもせずにいると、席に座っているにも関わらず、居ないことにさ

【短編小説】並行世界へ渡る力を持つ「私」が元の世界へ帰れなくなった話

『彼方此方に彷徨う蝶はほぞを噛んだ』  大人になった今でも忘れられない、鮮明で鮮烈な記憶。  それは、私が十歳のときに足繁く通った田舎町の記憶だ。  そうはいっても、その町は実在していない。それは私の夢の中にだけ存在していて、私は続きものの夢として、その町を頻繁に訪れていた。  始めのうちは、リアルな夢だと思うだけだった。日差しの暖かさも、風の冷たさも、怪我をしたときの痛みも、人に触れたときの感触も、全てが現実と同じだったのだ。十歳という年齢でそれだけリアルな夢をみ続けると、

【短編小説】投稿動画に幽霊が映っていたのでお祓いしてもらいに来た「私」の話

『ゴースト・バイアス・エクソシスム』  私の趣味は、動画投稿である。  誰も行かないような山や海へ遠出する様子を動画に収め、素人なりに編集をして動画投稿サイトへ投稿する。閲覧数は多くない。三桁台ほども再生されれば小躍りしたいくらいだ。所謂、底辺動画投稿者である。  そんな私の投稿動画が、ある日突然、急激に再生数を伸ばし始めた。同時に、動画へのコメントも次々に書き込まれていく。なにがなんだかわからないなりに、どこかの誰かによって動画が紹介されてバズったのだろうか、なんて呑気に

【短編小説】死神と入れ替わってしまった「私」の話

※この作品は、短編連作『透目町の日常』シリーズの番外編です。  町の外で起きたできごとが理由で、透目町の一員となる「私」の話でもあります。  『透目町の日常』シリーズ本編には大きく影響しない物語ですので、このシリーズ作品が気に入った方に読んでいただければ幸いです。 『死神には白い彼岸花で作った花束を』

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【短編小説】不老不死の「私」と不思議な力を持つ親友の話

『春夏秋冬の庭』  『死にたい』と思うのは、脳の誤作動であるらしい。  何年か前、ふと思い立って自殺方法をインターネットで調べているうち、そんな記事を見かけた。それは鬱病云々に関する内容だったのだが、そこにあったのが、誤作動という文言である。とはいえ、所詮はインターネット上で見かけた情報だ。真偽のほどは不明である。  だが仮に、この論が正しいとして。  私の場合、脳の前に身体が誤作動を起こしていることは間違いない。  身体の誤作動。  それは、噛み砕いて言ってしまえば、不老不

【短編小説】夜の公園で少年と猫に出会う「私」の話

『停滞する紫煙』  子どもの頃、時計の針が止まっていれば、その時間は永遠だと思っていた。  具体的には、よく遊び場にしていた公園の時計。  何年もの間修理されなかったそれは、ずっと四時四十五分を指し示していた。私はそれを言い訳に、頻繁に門限を破って親から怒られていたのを、今でも強く覚えている。  家に帰りたくなかったわけではない。  宿題をしたくなかったわけでもない。  当時は上手く言語化できなかったが、大人になった今なら、一言で説明がつく。  小学生の私は、夕暮れどきが好き