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ななくまエッセイ

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記事一覧

イエスマンキャンペーン

イエスマンキャンペーン

「私、イエスマンキャンペーン始めたから。」
ある時、友人がこういった。

ルールは簡単、基本的にどんな誘いにもイエスと答えることだ。

人を知ること、が目的だった。いちいちのお誘いの返事を悩まないで良いという効果もあった。私たちはそんな危ないところにいるわけでもなかったから、イエスと答えることで失うものは時間くらいだった。何か新しいものを得られるかもしれないと思えば、当時暇な大学生だった私たちにと

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大人になってからの友情について

大人になってからの友情について

私たちはいつもお互いに憧れていて、羨ましかった。

私には大切な親友がいる。仲良くなったのは高校1年生のとき。同じクラスだったのがきっかけだ。

育った場所も、両親の仕事も、家族構成も、趣味も、性格も違っていたことは多かったけれど、どこかとても似ていた。
いや、話をするととても楽しかったから似ていたと思っていたけれど、やっぱり違っていた。そこにあったのは相手の立場を想像して感じ、考える「共感」だっ

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ある医師にとっての死

ある医師にとっての死

それは孤独死だった。

彼の実家で母親がひとり亡くなった。
母親とは生前から性格は合わず、お互い自由に生きるために、積極的には会わないと決めていた。

自らも親になった時、自分の親の尊さに気がつき感謝して大切にするようになる。よく聞くそういう展開にはならなかった。彼の場合は、両親との距離は徹底して保ち、その代わりに、自分のつくった家族をとことん愛した。

そんな、母の死にをきっかけに、自分の人生の

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我慢なんてしなければよかったの?

我慢なんてしなければよかったの?

ぐっと堪えて我慢しないといけないことがある。

傷ついてもあははと笑って流さなけらばならない時もあるし、
嫌だなと思いながらもやらなければならないことはあるし
一番偉い人が右だと言ったら右を向かねばならない時もある。

「辛くなるなら我慢なんてしなければよかったんだよ」そうやって、正論を振りかざせば、ひと吹きで倒れる。
本当に気持ちを押さえ込んで我慢しなければならないことだったのかと考えてみると、

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医師のはじまりは孤独と共に。

医師のはじまりは孤独と共に。

それは、病院での臨床実習が始まった日だった。
医学部では4年生頃までに授業がひと通り終わる。その後は、病院で実際に働く先生たちの元で医師の仕事を学ぶ、臨床実習という形をとる。ポリクリとかクリクラとかBad Side Lerning でBSLとか呼ばれている。

朝早い時間の集合に始まって、外来診察、入院患者さんの診察、検査、休みなく続いた。もちろん本当に忙しかったのは先生たちで、私たちはただただそ

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時代が変わるということ。

時代が変わるということ。

ある日母とカフェに出かけ、そのお店で人気のある店員さんをこっそり紹介した。

母はこう一言、「時代は変わったのね」と。きょとんとする私に母は続ける。「昔はみんなの憧れるかっこいい男の人といえば、筋肉を鍛えた強い人みたいな感じがあったのよ。でもほら彼って、違うじゃない?殴り合いの戦いはできないけれど、僕は、言葉で、歌で、あなたを愛して守ってみせます。ってそういうタイプじゃない?」

その店員さんは、

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「頑張る」という言葉

「頑張る」という言葉

頑張るという言葉が苦手だった。

音からして無理してる。文字をみても無理してる。そうしてやっぱり言ってるあなたの顔も無理してるよ。

本当に無理しないと越えられない壁もあるのかもしれない。でもそんなの、人生ではきっと数える程。毎日使っている言葉にその無理が滲み出ていることに気づかないくらい、無理することが当たり前になっているの?

あぁでも。
意味のない会話って多いと思う。これももしかしたらその、

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未来の忙しく働く私へ

未来の忙しく働く私へ

未来の忙しく働く私へ

今の私には「ストレス発散したい」と言った友だちの気持ちがわかりませんでした。愚痴を言うことや、お酒を飲むことや、旅行へ行くことでそれが発散できるといっていましたが、それも信じられませんでした。この、ストレスとの向き合い方について今の思いを書き残しておきたいと思って、筆をとっています。

私はこれまでと同じようにストレスにはきちんと向き合って、原因の中で改善できるところはして

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「つまらない」出会いの後に

「つまらない」出会いの後に

今度の日曜日、お店どうしようかな。
楽しみにしてます。お店どうしましょう。
何が好きとか、行きたいお店とかある?

2人での食事を前にして、こういうやりとりが交わされることは多い。相手の好みを知らないような関係からの初めての食事だとお互い気を遣いあって、話を進めるのが難しいこともある。この時の正解について、こうしてほしい!と思うことはあるが、それは置いておいて、さっきの2人の会話に戻る。

駅前の

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小さな幸せ、なあに

小さな幸せ、なあに

子どものころ寝る前の日課に、「小さな幸せノート」を書く。というものがあった。もちろん私は話すばかりで、書き留めるのは母の役割だったけれど。

たしか、母が何か書籍を参考に始めたはずだった。今日楽しかったこと、美味しかったもの、誰かに言われて嬉しかった言葉、そんなことをつらつらと話すと、ノートに書いてくれた。

不思議だったのは、母と話すうち、つらかったはずの記憶の中にも小さな幸せが見つかったことだ

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始めることに理由はいるのか

始めることに理由はいるのか

「それ、始めてどうするの」

意味ないんじゃない?無駄になっちゃうよ、と言わんばかりの返答。

何かを始める理由を聞きたくなってしまうのは、
私の中にある、始めない理由を打ち砕いてほしいからかもしれない。

***

ある時は、写真を始めようと思った。でも、素人がはじめてなんになるんだと思った。

ある時は、チェロを始めようと思った。でも、やっぱりしばらくはいい音も出せずに苦しむんだろうなと思った

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視覚をコントロールするちから

ほんとうは何も見たくないんだけど、起きている以上、何かを見なければならない。そんな気分の時もある。

視覚から入る情報は膨大だ。そんな膨大な情報を、目を開けている間じゅうずっと、脳は処理し続けているわけだ。たまに休みたくなるのもわかる。しかもそれが、考えたくないこと、あるいは逆にとても気になっていること、そういうことだと少し心の平穏が乱される。

できることなら目をつぶってしまいたい。
それが叶わ

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喜びたいきもち

喜びたいきもち

当時、庭の大きな木には1人乗りのハンモックがかかっていた。
夏の朝、太陽が昇って暑くなる前のほんの少しの時間。夏休みのあいだ、ラジオ体操にいくことに決めていた母と私は、帰ってそのハンモックで少し休むことにした。

「ねえお願いだから少し待ってて」

その時、とてもいい考えが私に浮かんだ。母にハンモックの座を譲り、走って家に戻った。いそいそと準備をし、帰りはそーっと足を運んだ。

「わあ、ミルクティ

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「書くこと」と「書く場所」と。

「書くこと」と「書く場所」と。

「日記に書くこと、友達と話すこと、公に発表する文章、そのどれもが違うもので、どれもがかけがえのないものだから、どうかその全部を続けていってほしい」

人が意見を発表する場は多くある。noteを含めて、どんどん新しい場も増えている。世間を賑わせている話題に、恩師からもらったこの言葉を思い返す。

「そのどれもが違うもの。」

書くということは、自分がいて、「そこ」に書いたものがあって、相手がいる。相

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