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連載シリーズ 物語の“花”を生ける

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文学作品や絵画、映画などに現れる花や植物の持つ力を、作品の中から掬いだして生ける
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#物語

【プロローグ】 物語の“花”を生ける

【プロローグ】 物語の“花”を生ける

昨年の7月から「物語の“花”を生ける」というシリーズで連載をしている。

そもそもこのnoteのコンセプトが「物語と物語をつなぐ千の花」である以上、花について何か書いてみたいとずっと思っていながら、何を書いたらいいのか分からない時間が長く続いた。

作家梨木香歩さんに『不思議な羅針盤』というエッセイ集があり、その中のいつくかに、さまざまな土地での暮らしとその土地に生きよう、根づこうとする花や植物の

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蛇に飲み込まれた桜

蛇に飲み込まれた桜

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第14回 『桜心中』(泉鏡花)以前、勤めていた職場の向いに、ちょっとした古めかしいお屋敷があった。

木の塀に囲まれた緑豊かなお屋敷で、春には見事な桜を塀越しに見ることができた。欲張りな私たちはお屋敷の庭が真上から見渡せる上階の会議室でランチをしながら、ガラス越しのお花見を楽しんだ。

夏にはお屋敷の鬱蒼とした木々に生息する蝉の声が

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少女と女王をつなぐ花

少女と女王をつなぐ花

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第13回 『森は生きている』(サムイル・マルシャーク)BOØWYやプリンセスプリンセスなどのロックバンドが流行した高校時代、文化祭はコピーバンドの演奏で幕を開けた。

文化祭では、音楽や演劇などの舞台系の出し物と、模擬店やレクリエーションなどの展示系の出し物があり、舞台系は近隣の大きな公会堂を貸し切って、展示系は校舎の教室を使って、

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女の生き難さを物語る花

女の生き難さを物語る花

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第11回 『源氏物語』 朝顔の巻
駅の改札で待ち合わせをしていると、女子高生がふたり、向こう側から歩いてきた。

眩いばかりのエネルギー、この瞬間にしかない生命のきらめき。

その年齢にあるときは気がつかなかったけれど、私の人生にも、きっとそんな一瞬があったのだろう・・・。

そんな気持ちで近づいてくるふたりを眺めていると、そのうち

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過去も未来も超える花

過去も未来も超える花

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第9回 『時をかける少女』(筒井康隆)
数年前に花生けをはじめるまで、花が好きだとか、植物に興味があるだとか思ったことがあまりなかった。

小学生のとき、夏休みに朝顔やひまわり、糸瓜(へちま)を育てて観察日記をつけるという課題があった。なぜか毎年、芽すら出たことがなく、観察日記がつけられなくて、田舎で植物を育てていた祖父に泣きついた

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花に生かされ、花に奪われたラブストーリー

花に生かされ、花に奪われたラブストーリー

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第7回 『うたかたの日々』(ボリス・ヴィアン)花を生けるというのは、実にお金がかかる。もちろん生ける頻度、花の種類や量、表現したい世界観などによって、かける額は違うけれど、上手になろう、自分の世界を表現して他者に見てもらおうとすると、相応にかかる。

お茶やカメラ、釣り、車、楽器など道具にお金がかかる仕事や趣味はたくさんあるけど、花

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“死者”に手向ける花

“死者”に手向ける花

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第6回 亡き王女のための刺繍(小川洋子)4月からのクラブ活動、何にするか決めた?

まだ・・・やっちゃんと一緒でいいよ。

そう、じゃあ手芸クラブか絵画クラブはどう?

うん、それでいい。

小学4年生になると、月曜日の6時間目にクラブ活動という時間が加わった。小学生なので課外活動ではなく、授業の一つなのだが、自分の趣味や興味に合わ

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純度の高い恋は地に落ちて、いっそう輝く

純度の高い恋は地に落ちて、いっそう輝く

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第1回 ナイチンゲールとばらの花 (オスカー・ワイルド)子どもの頃、女優の岸田今日子さんや宮城まり子さんらが声優となって、世界の名作童話を語るというテレビアニメがあった。童話といっても昔話やおとぎばなしの回もあれば、世界の近現代の作家が人間の真善美やかなしみを描いた短編作品の回もあった。

私は基本的に昔話やおとぎばなしの回の方が好

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