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読書

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#読書感想文

【読書】河崎秋子『肉弾』

【読書】河崎秋子『肉弾』

この著者のお名前は先の直木賞受賞で知ったばかり。受賞作『ともぐい』に先駆けてこちら『肉弾』を拝読。数日枕元に置いていたが読み始めると止まらない面白さで二日で読了。スマホに毒され老眼に悩まされている昨今の私にとっては快挙。

河崎さんが北海道の方ということで、北海道の自然を舞台にした作品らしいことは想像できた。おどろおどろしいのかとなかなかページを開くことができなかった。ところが主人公の腰の抜けた現

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【読書】『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』

【読書】『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』

雑誌の書評で知った坂本龍一さんのエッセイ『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』はタイトルの秀逸さもあり私をすぐに本屋さんへと走らせました。

口述筆記なので坂本さんが今私のすぐそばで語りかける声が聞こえてくるような気になります。もうお空にいらっしゃるなんて信じられない。そしてこの貴重な声を残してくださったことへの感謝…

第一章にはガンと生きる、と見出しがつけられていてに病院食の味気なさなど切々と綴

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【小説】『ゆびさきに魔法』の続きが待ちきれない

【小説】『ゆびさきに魔法』の続きが待ちきれない

子どもの頃、父が定期購読していた文藝春秋。多分祖母の代から続いていた習慣だと思う。活字大好き少女だった私は応接間のテーブルに置かれているそれを手に取って気になる記事だけ読んでいた。

結婚したり父が亡くなったりして子育てに忙しくなってからは縁の遠い雑誌になっていった。

2度めのアメリカ駐在について行く時、子どもの手が離れて暇になったことと、会社の福利厚生で月に一冊日本語の本を送料無料で取り寄せて

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稲垣えみ子さんの『老後とピアノ』と『寂しい生活』

稲垣えみ子さんの『老後とピアノ』と『寂しい生活』

牛田智大さんのコンサートのことを記事にした時にいただいたコメントで稲垣えみ子さんを初めて知った。私と同年代で同じ頃ピアノを再開されたことを本に纏められているということで即取り寄せた。

そもそも新聞記者でバリバリキャリアを積んでおられた方なので、ピアノに向き合う姿勢もそこら辺の主婦の私とは段違いであるのは当然だけど、熱意など共感するところも多く、ところどころ大袈裟な表現もまた面白く読めた。

ドビ

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【読書】最近こんな本読んでます

【読書】最近こんな本読んでます

電子書籍の時代と分かっていても本屋さんに行くのはやっぱり楽しみ。肩の凝らない本を読みたくなって3冊買ってみた。

まずは女優、中谷美紀さんの『オーストリア滞在記』

中谷さんのご著書はインド旅行記も大変充実していたので迷わず手に取った。462ページにもわたるコロナ禍での2ヶ月の日記だがその内容は単なる日記というには素晴らしすぎる。

2016年にご結婚されたビオラ奏者のご主人様との日常を美文で綴ら

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【読書】『天路の旅人』

【読書】『天路の旅人』

たいてい小説より事実の方が面白いと思うけど、このノンフィクションなどはどんな小説よりもユニークである。真似できる人がいたらお目にかかりたい。ある方の8年の旅についてのノンフィクションを、沢木耕太郎さんが25年という時間をかけて書き上げられたこのご本を半月じっくり味わわせていただいた。

第二次世界大戦中に満州鉄道に勤めておられた西川一三さんが、密偵となり蒙古人の僧侶を装って奥地へ奥地へと日本のため

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【読書】『すぐ死ぬんだから』を読んで鏡を見ようと思った話

【読書】『すぐ死ぬんだから』を読んで鏡を見ようと思った話

内館牧子さんのご著書は軽妙で明るくて文章がどことなくカラフル。『終わった人』に続くどぎついタイトルで、手に取るにも多少ためらいがあった。実際人間ドックに行った日も読み進めていたが各部屋に入って荷物置き場に置く際にブックカバーをつけてこなかった自分を悔やんだほどだ。

最近は泉ピン子さん主演で舞台化もされている話題の本であるがこれといった予備知識もなく前半は少しばかり退屈気味に読んでいた。ネタバレし

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【読書】『定年オヤジ改造計画』

【読書】『定年オヤジ改造計画』

垣谷美雨さんのご著書はそのタイトルが単刀直入というか身も蓋もないというかキャッチーというかセンセーショナルというか、とにかく気になるものが多い。今週末から上映される話題の『老後の資金がありません』というのもその一つ。

他にも『うちの娘が結婚しないので』『夫の墓には入りません』『うちの父が運転をやめません』『あなたの人生片付けます』などなど、切実すぎて手を伸ばすかどうか悩んでしまうほど。

何冊か

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【読書】山歩きしたくなる本

【読書】山歩きしたくなる本

若い頃は断然海派だった。苦しい山登りなんてまっぴらごめん。思い返すと中学の頃希望者だけ夏山登山をする案内があったけど結構お高いし絶対暑いし誰が行くんだろうと眺めていた。文科系でも運動部でもない帰宅部だった私。

海派とはいっても歳とともに海の潮がベタベタするのが気になったり砂浜の砂が足や水着にしつこく付き纏ったりするのが気持ちよくなくて海に入らなくなった。もちろん日焼けも大敵。

40代で友人と訪

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【読書】悲しみこそが人を優しくする

【読書】悲しみこそが人を優しくする

ひと月余りで『流転の海』シリーズを読み終わった。9巻4500ページ。それが速いのか遅いのかわからないけれども昭和22年からの20年ほどの時空の旅が終わり無事帰着。

熊吾という作者・宮本輝氏の父上をモデルにした主人公が50歳で四人目の奥さんに初めて子どもができてからの後半生を描いたこの小説は重厚長大にして深く、どちらかというと暗い。悲しみに満ちている。悲しみこそが人を優しくするということを私に教え

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【読書】夢中になってしまう長編小説

【読書】夢中になってしまう長編小説

主婦である私が近頃洗濯をドラム式洗濯機に、掃除をルンバとブラーバにお任せして何に時間を割いているかというと作家宮本輝さんのファミリーヒストリーである『流転の海』シリーズ9巻を読むことです。一巻が500ページもある大作で、記憶にある限りこんなに長い小説を夢中で読んだことがありません。

幸いだったことは最終巻が刊行されるまでこの本を知らなかったことだと言えます。35年余りかけて執筆されて数年に一度発

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【読書】『田園発港行き自転車』宮本輝著で出会ったもの

【読書】『田園発港行き自転車』宮本輝著で出会ったもの

長かったゴールデンウィークが明けて、この本のことをようやく書けることが今の私の喜びです。先日記事にした積読本からまず抜け出したのがこの上下巻でした。

元々速読派でしたが、もっとスピードを落として丁寧に読みたいと考えてもいたので、今回少しずつ読めたのはよかったのかもしれません。

この物語全体のことは興味を持った方に読んでいただくことにして、今回はピンポイントで私の印象に残ったことを書いてみたいと

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【読書】『JR上野駅公園口』柳美里さん著

【読書】『JR上野駅公園口』柳美里さん著

つい先日、何のために勉強するの?という記事の最後に本屋さんに行ったことを書きました。勉強の究極の目的は人間を理解し社会を理解することなのにまだまだ出来ず手掛かりを求めて本屋さんに向かったのでした。

その時のことです。特に決めている本はなくて何読もうかな〜と気楽に見ているとき入り口付近に平置きされている文庫本が目に飛び込んできました。

全米図書賞受賞!ランキング1位! 『JR上野駅公園口』

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湊かなえ『母性』を読んで

湊かなえ『母性』を読んで

ごきげんママ♡は怖い話が嫌いだ。夜寝る前に読むと夢に出てきたりして具合が悪い。テレビでも殺人のニュースやドラマはすぐにチャンネルを変える。それなのになぜ湊かなえ?「ママ」としての28年をもう一度見直そうと「母性」というキーワードで検索すると出てきてしまったのだ。

2、3ページ読んだだけでしまった、とんでもないものに手を出してしまった、と思った。読みやすいのだ。さらさらと読めてしまう。多分この作者

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