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【読書】『定年オヤジ改造計画』

垣谷美雨さんのご著書はそのタイトルが単刀直入というか身も蓋もないというかキャッチーというかセンセーショナルというか、とにかく気になるものが多い。今週末から上映される話題の『老後の資金がありません』というのもその一つ。

他にも『うちの娘が結婚しないので』『夫の墓には入りません』『うちの父が運転をやめません』『あなたの人生片付けます』などなど、切実すぎて手を伸ばすかどうか悩んでしまうほど。

何冊か拝読したけれど今回の『定年オヤジ改造計画』はさすがに家に持ち込むことすら気が引けた。でも誘惑に勝てず購入。こっそり自室で読んでいたがリビングのテーブルに置いてごきげんパパ♡の反応をみてみようと考えた私も意地が悪い、かもしれない。

恐る恐る知らんぷりしてスマホの上に乗せるが、ごきげんパパ♡は別段嫌な顔もしなければ興味も示さなかった。なーんだ、と肩透かし。危機感なさ過ぎじゃない?鈍感なんだから…こちらが興味津々で数年後を想定して読んでいるというのに、あちらは別世界のことのように歯牙にも掛けないのが悔しかったりもする。

まあこの手の小説というのはページを捲るのが速い速い。いくらでもするする読めてしまう。社畜のように働き終えた人が家族から総スカンを食らって、孫の世話をやむなく引き受けることで人間らしくなっていくストーリーだがその日常が手に取るように丁寧にリアルに描き出されている。

男性目線で書かれているのがまた上手く、著者が女性だからこそかと思えるくらい微に入り細に入り主人公の心理を追っている。綿密な取材に裏打ちされていることを感じた。

特に好きなシーンは東北に里帰りして農家の姉や兄と話すところ。方言が温かく、都会の弟に諭すともなく語る意外と新しい価値観や夫婦像が挿入されているのが良かった。

主人公と重なるところの多いごきげんパパ♡となんとか破綻せずに家庭を営んでいる私っていい人すぎるんじゃないかな〜などと思わなくもない。定年前オヤジの改造計画をどううまく推進するか、それともこのまま自分の中で折り合いをつけていくのか。他人と過去は変えられない、変えられるのは自分と未来だけ、などともいう。

女性には女性の言い分が山ほどあるが、男性には男性の生きにくさもあるらいしい。夫婦がいても孤独、という女性も多い。孤独か忍耐か究極の選択なら結婚って何?。

と言っても友人の中には家事育児が大好きで何の不満もないという人もいる。彼女は世の中でイクメンとか家事の分担とかいうのが不思議でたまらないらしい。だから一般論に落とし込むのは横暴かもしれない。

この本で何度も繰り返される「母性愛」という言葉も取り扱い注意。誰かの犠牲の上に成り立つ幸福など、砂上の楼閣に過ぎない。結婚や子育てが苦行でないことを願う。いずれにしてもシリアスなテーマをどこかコミカルに読めるのがこの小説の魅力だと思う。

こちらは光がまばゆい朝です。皆様もどうぞよい秋の日をお過ごしください。


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