#小説
名前のない書物(第十七回)
図書館6(承前)
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「なるほどーー」
ほとんど眠っているかのような状態で座っていたコシロが口を開いたのは、ぼくが話し疲れて、冷えた茶をすすったときだった。
「才能への嫉妬か」
わかるよ、と口をつぐむ。その目には、まぎれもない、真実の光があった。彼とそんな想いを共有したい気持ちがわき上がってきたが、その感情をぼくは抑え込んだ。今はもっと、優先すべきことがある。
「何か気づいたことがありま
毎日400字小説「けっこう幸せ」
「だからさ、あなたは平凡なんだから身の丈に合った仕事をしてそこそこの男と結婚して、二人ぐらい子供を産むのが最高の幸せなんだっていうことを教えておいて欲しかったわけよ」というのが戸高里穂の口癖だった。「かわいいだの天才だの将来はピアニストだのちやほやするから、私は何かになるんだって勘違いするんじゃない」それに反論するのは同僚の吉永だった。「あんたそういうのは大人になれば気づくものよ」七十歳になるこの
もっとみる栗と柿と冷静な査定2
ある朝、彼女からLINEが入っていた。
「あなたのお母さんに交際を止められる夢を見たよ🥲別れたほうがいいんかな?」
(また始まった)
と内心思ったが、こう返した。
「大丈夫やで。夢は夢やから。ちゃんと好きやから安心してな♥」
俺は無理やりハートを付けて彼女に返事をした。
夢、か。
最近見てないな。仕事に追われて、帰宅してからも風呂に入って飯を食って好きなアニメを見て気分転換して24