友直

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    思ったこと、読んでる本のことなど、つぶやきです。

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400字小説、毎日書きます。

他の人の記事を見るためだけに登録していましたが、投稿することにしました。というのも、昨年夏、いろいろあって小説に集中するために退職し、小説のことだけに使える日々を手に入れたのですが、一年経っても結果は出ず、ただ毎日、ひたすら自分とだけ向き合って、自分しか読まない物語を綴り続けるのが、非常に、精神的に、辛くなってきてしまったためであります。 何年か前に練習で書いていたのを思い出し、ここに載せてみようと思いました。毎日、その日に書いた分をアップしますが、もしかしたら、ズルして、

    • 毎日400字小説「赤木さん」

      「悪い。みんなで楽しんできて」今からみんなで飲みに行こうぜ。大きなプレゼンが終わった後同期の三人で盛り上がり、チームリーダーの赤木さんも誘ったところ、秒で断られた。社内の飲み会に参加しないので有名だったし、足しにして、と財布から一万円札を出してくれる気前の良さもあったので他の二人は喜んだけれど、正直、赤木さんに憧れ、赤木さんみたいになりたい赤木さんマニアの僕は不満だった。仕事はできる、顔もいい、おしゃべりも面白い、どこをとっても非の打ちどころのない人なのに、付き合いだけは悪い

      • 毎日400字小説「詐欺」

        「母さん? あたし。困ったことになって」  宮本好美の家にそんな電話がかかってきたのは、水曜日の昼下がりのことだった。「あんたなの?」好美は受話器をきつく握りしめ、言った。「そう、あたし」相手が話すことには、少々困った相手とトラブルになり、今日中に百万円必要だということだった。「あんた……」好美は呻いた。先から相手をあんたとしか呼ばないのは娘の名前が出てこないからだった。物忘れがひどくなり、近いうちに認知症の検査を受けなければと思いながら、そのことを忘れてどんどん日が経ってい

        • 毎日400字小説「逃避」

           今日も疲れたと思いながら駅からの道を歩いていた。親切で言ったことが客の逆鱗に触れ、それきっかけで「あなたにはそういうところがある」と上司にダメ出しされた。もう私なんか世の中に必要とされてないのかもしれないと思いながら、帰ったら家にいる夫、そして作らなければならない夕食のことを考えて死にたくなる。私の存在なんか空気よりも軽いかもしれない。のに、飛んでいくことはなく、仕方なくずるずると重たい足を運ぶ。と、すうっと後ろから近付いてきた車が私の横で停まり、運転席の窓がするすると下り

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        記事

          毎日400字小説「カレーライス」

           夜、母さんは缶ビールを開けた。おめでとうと言って、麦茶を注いだ私のグラスと合わせる。にこにこしながら見つめてくるので、私は恥ずかしくなって、「なに」と、ちょっとぶっきらぼうに言った。「いいじゃん、見せてよ」母さんはビールに口をつけ、にやにやしている。「大学生だって。大きくなったねぇ」  母さんは私が明日入学するのよりずっと難しい国立大学を卒業していた。私を生む前は研究職についていたという。そのため私には、母さんの人生を奪ってしまったような思いがずっとあった。大学に行かせても

          毎日400字小説「カレーライス」

          毎日400字小説「住宅街の午後」

           今泉加津は正午ちょうど、昼食の載った盆を足元に置いて二階の洋室のドアをノックする。腰を痛め、階段の上り下りがきつくなったが、働かなくなった息子に日に二度、こうして食事を届ける生活を二十年続けている。今日はチャーハンよ。暑くなったね。何か一言声をかけるが、返事があったことはない。ドアの隙間に顔を近づけ、注意深くにおいを嗅ぐ。胸の中に黒い雲がもやっと現れるが、慌てて打ち消し階段を下る。居間のテレビでは、行方不明の少女について報じている。加津はその前に正座して座りじっと見入ったあ

          毎日400字小説「住宅街の午後」

          毎日400字小説「避妊」

          デキ婚という言い方が授かり婚と呼ばれるようになって久しく、低用量ピルの知識も広まり、望まない妊娠をなくすよう男女ともに性教育もされているというのに、それでもなお、「どうしよう、できちゃったみたい」と、慌てふためく人が後を絶たないのはいったい全体どういうことだ。私が憤慨すると、「それはあんた、恋愛をしたことないからだよ」遠藤に可哀そうって下に見られるが、今可哀そうなのは、童貞の私ではなくて、大学生の身分で妊娠、出産するにしてもしないにしても、今後の人生を否応なく変えられ

          毎日400字小説「避妊」

          毎日400字小説「恋?」

           また、浅田が恋をした。そろそろ花粉症なんかに並ぶ、春になるとやってくる病気と認定されてもよさそうなもので、毎年必ず、新入社員の誰かに恋をする。うまくいくこともあれば振られることもあり、うまくいっても次の春までには関係を終わらせて次の恋に走る。「初々しくていいんだよ」と言うのには古手の女子社員全員、非難囂々だが、「お前らだって新玉ねぎ食べるだろ? 甘くてうまいだろ?」には怒り心頭、上司に掛け合って辞めさせるべきなのではとの議論もなされたが、現実的に考えて恋のためにクビはありえ

          毎日400字小説「恋?」

          毎日400字小説「女」

           祖父が昔演歌歌手のお弟子さんをやっていて、いとこには若者に人気のボーカルグループのメンバーがいる。叔父の一人は昔お笑いコンビを組んで、少しだけテレビに出ていた。わりと芸能界は近いところにあって、十八歳から十年、モデル事務所に所属していたことが、今、工場のパートで働く玉城あすかの矜持だ。夫との長年セックスレスから女としての自信を失いかけていた彼女は、パート先の上司に恋をし、告白をすることでプライド保とうとする。自分に好かれて嫌な男はいない。男は困った様子を見せるが、メールの返

          毎日400字小説「女」

          毎日400字小説「弁当」

           寝ぼけまなこで玉子焼き用のフライパンを引っ張り出して、冷蔵庫のドアを開ける。卵二個と、なにかあったっけと、チルドケースを漁り、昨日残業で買い物に行けなかったことを思い出す。そして気づく。弁当はもういらないんだった。私は卵を手にしばし佇んだのち、卵ケースに戻して冷蔵庫を閉めた。それから思い直して牛乳を取り出し、コップに注ぐ。少しこぼれたのを、手のひらで拭う。  妻が死んで七年経った。小六の娘と二人、家事初心者同士の生活は、一週間で洗い物の山が出来、床がべたついた。部屋のあちこ

          毎日400字小説「弁当」

          毎日400字小説「危険な」

           友人の結婚式に夫婦で出席したら、新婦の友人として過去の不倫相手が来ていた。「えー、係長。どうして?」と言われ、ゆで卵を飲み込んだような顔になって、「どうしたの?」と妻に訝られた隆司だったが、「ほら昔、徳島の現場でさ……」妻も知っている話をして上司と部下であることを強調した。「あのときは大変お世話になりました」彼女も心得たもので、妻に向かって愛想よく頭を下げる。大丈夫、きっちり別れたのだ。隆司は自分に言い聞かせる。しかも悪くない別れ方だった。彼女のほうに新しい男が出来て、結婚

          毎日400字小説「危険な」

          毎日400字小説「恋とは」

           久慈サクラは高森俊也が好きだった。高森俊也はずっと年上の辻美咲が好きだったが、彼女は俊也の兄の婚約者で、彼女のほうでは俊也を恋人の弟としか見ていなかった。だけど好きで、奪いたいと思っていた。奪えないなら別れさせたいと思っていた。この先ずっと兄の嫁として顔を合わせるぐらいならいっそそのほうがいいと。その辺の事情を全部サクラは知っていた。なんでかというと俊也のことが好きすぎてあとをつけて家に行ったり、周辺を探って家族旅行の情報を仕入れて同じところに行ったり、していたからだ。恋の

          毎日400字小説「恋とは」

          毎日400字小説「間違えたわ」

           駅を降りて歩いていると、後ろから駆けてくる足音がして、邪魔にならないようなんとなく道端に寄ったら、パコンと軽いパンフレットのようなもので頭を叩かれ、見ると半年前まで付き合っていた亮太だった。「よーうっす」亮太は普通に言って、「なに、二限から?」「コンビに寄ってく?」「また昨日隣の部屋の奴がさ」など、付き合ってた頃と全く同じような話を全く同じような調子で続ける。私は戸惑いながらも、距離を意識して返した。「なんか今日変だな?」と、覗き込んでくる亮太。変なのはあんただ。私は胸の中

          毎日400字小説「間違えたわ」

          毎日400字小説「誘拐」

           誘拐されたことがある、という打ち明け話を、中瀬晶がよく初対面の男にするのは、興味をこちらに向け、注目を浴びたいからだった。え、と、相手が聞いていいのかどうか迷う様子を見せたらすかさず自分から、小二の学校帰りに連れ去られたときのことを、詳細に語る。「何もされず、翌日には帰された」と強調し、しかし見知らぬ男から声を掛けられた恐怖は残っており、「だから今も男の人って苦手で」と言った。「それは」言葉を失った相手の目を覗き込み、晶は感じのいい笑みをつくる。「でもあなたは平気みたい。な

          毎日400字小説「誘拐」

          毎日400字小説「玉ねぎ」

           冷蔵庫の中を見ると、玉ねぎが一つごろりと転がっていた。月曜日、初めての自炊のために張り切って買い物に行き、三個パックのやつを買ってきた残りだった。二個はその日、カレーをつくるのに使った。自炊でカレーかよと若干、情けなくはあったが、なにしろ十八歳、初めての一人暮らしだ。何事も無理をしては続かない。ただ、何かで読んだ知識から、とにかくくたくたになるまで、たぶん一時間くらい、玉ねぎを弱火で炒めたカレーは絶品だった。三日間食べた。木金は、サークル見学に行ったら夕食というか飲み会に招

          毎日400字小説「玉ねぎ」

          毎日400字小説「降ってくるもの」

           高瀬里奈はがんばっていた。二歳と五歳、二人の子供を自転車の前と後ろに乗っけて保育園に送り、その足で会社まで二十分、猛スピードでがんばった。自転車で出勤するようになったのは時間の調整がしやすいからで、帰りに電車の遅延でお迎えに間に合うかどうかやきもきするストレスはなくなったが、雨の日も風の日もチャリ通というのは、電気アシスト付きとはいえ、四十三歳の身体には単純にしんどかった。もちろんお迎えのあと、料理をして食べさせて風呂に入れて寝かしつけて、そうしてる間に残業から帰ってきた夫

          毎日400字小説「降ってくるもの」