友直

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    思ったこと、読んでる本のことなど、つぶやきです。

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400字小説、毎日書きます。

他の人の記事を見るためだけに登録していましたが、投稿することにしました。というのも、昨年夏、いろいろあって小説に集中するために退職し、小説のことだけに使える日々を手に入れたのですが、一年経っても結果は出ず、ただ毎日、ひたすら自分とだけ向き合って、自分しか読まない物語を綴り続けるのが、非常に、精神的に、辛くなってきてしまったためであります。 何年か前に練習で書いていたのを思い出し、ここに載せてみようと思いました。毎日、その日に書いた分をアップしますが、もしかしたら、ズルして、

    • 毎日400字小説「来訪者」

       平日の昼間、部屋で一人、本を読んでいると、ピンポンとチャイムが鳴って、何か届く予定だったかなと思って出ると、細い二本足で、ハシビロコウが立っていた。じっとしてる、大きな嘴ででっかい魚を食べる、絶滅危惧種……ハシビロコウについて知っている事柄を頭の中に思い浮かべてみたが、今、そいつがここにいる理由がわからない。てか野生? 日本に? 頭の中がハテナでいっぱいで固まってしまう。ハシビロコウも動かないので、ただただ見つめ合ってしまう。「えーと、なんでしょう」「私と一緒に来てください

      • 毎日400字小説「青春」

         終業式の後クラスの女子に呼び出された。「なんでだよ」唇を尖らせ、そっぽを向いた山田孝則だったが、南校舎の四階の踊り場に向かいながら胸を膨らませていた。きっと木崎だ。孝則は呼び出しに来た女と仲のいい女子を思い浮かべ、にやにやと口元が緩んでくるのを自覚する。色白で目鼻立ちの整った、奇跡のようにかわいい子だった。だけでなく、他の女子みたいに化粧をしたり制服を着崩したりすることもなく、真剣に授業を聞き、苦手な体育も一生懸命やる真面目な子だった。汗で髪の毛をおでこに張り付け、ひたむき

        • 毎日400字小説「小説家」

           来ると思っていた電話が来なかった。これでまた一年棒に振った。池上猛は皺だらけの手で、頬を擦った。ずっと小説を書いていた。四十歳の時に初めてある小さな賞の最終候補に残り、これはいけるかもしれないと思い仕事を辞めた。どうやって生活するの。家族は当然反対した。一番下の娘だけが「パパ有名人になるの」と言って喜んでいた。小説家とテレビの中の戦隊ヒーローとの区別もつかないような年齢だったその娘が、今年、猛が仕事を辞めた年になる。が、猛はまだ小説家になっておらず新人賞への応募も諦めていな

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          毎日400字小説「母になってはいけない人」

          「これでJの愛を独り占めできる」と、印の浮き出た検査薬を当たりくじのように握りしめた愛奈は、一カ月後、浮気癖の治らない、というか、愛奈が多々ある浮気のうちの一つだった男に、ゴミ屑のように捨てられた。「この子が生まれたら変わるかもしれない」だんだん膨らんでいく腹を愛おし気に撫で暮らして九カ月、生まれたばかりの赤ん坊を抱いて、ストーカーまがいにつけ回して迫った復縁は、しかしもちろん叶わなかった。途方に暮れる愛奈を支えたのは我が子の笑顔だ。温泉を掘り当てたがごとく沸き上がる母性に加

          毎日400字小説「母になってはいけない人」

          毎日400字小説「わたしのママ」

           植町あかりの妊娠に最初に気づいたのは品管の来栖だった。「なんかでかくない?」そう言われてみると事務服はボタンが止まっているのが奇跡ぐらいにパツンパツンで、だけど元々太っていたから、「餅、食い過ぎたんじゃね?」とか言っていたのだけど、日増しに腹は膨れてゆき、サイズがなくなったのか、そのうちよく似た色のポロシャツを着るようになったので、俺たちは驚愕した。四角四面という言葉があるけれど、植町あかりは極端にそういう女だった。いつもむっつりと黙ってパソコンを操作し、書類のミスは断じて

          毎日400字小説「わたしのママ」

          毎日400字小説「言い訳」

           コンビニバイトをしてた頃の話だ。ある貧しそうな子供に、いつも廃棄弁当をあげていた。髪の毛はぼさぼさで手も顔も垢だらけ。かわいそうなぐらい瘦せぎすで、腹を空かせているのが一目でわかる。「欲しいの」ゴミ袋を掲げ、訊いた。ほんとはあげちゃいけないと言われてた。そういうのが集まってくるからって。だけど、見てられなかった。ある日その子が俺の帰りを待って、俺の家までついてきた。内心困ったなあと思いながら、上っ面はいいので、「ごめんな、今日は弁当なくて」なんて言っていた。部屋のものを何か

          毎日400字小説「言い訳」

          毎日400字小説「知りたくなかった」

           生後一週間もしないうちに、俺は捨てられていたらしい。「毛布の中に一緒に包まれていたの」俺を引き取ってくれた養護施設の先生が、そう言って大事そうに包みを開け、手渡してくれたのは、ブルーグレーの、デジタル式大音量目覚まし時計だった。もしかしてあれか、心音の代わりに時計の音を聞かせたつもりだったかと思い、絶句した。デジタルて。俺は俺に流れる血のバカさ加減にうんざりする。まさか、赤ん坊の目を覚まさせるつもりだったわけではあるまい。しかも大音量、かつ暗証番号を入力しないと止めることの

          毎日400字小説「知りたくなかった」

          毎日400字小説「ももかん」

           風邪で寝込んで何も食べられなかったとき、桃の缶詰を持ってきてくれたのは、大学時代に付き合っていた人だった。何度も鳴っていたスマホに応えることもできないほど弱っていた由那を心配して、コンビニの袋を提げてやって来てくれた。スポーツドリンクや栄養ゼリーを飲ませてくれ、汗に濡れた服を着替えさせてくれた。だけど、由那は朦朧としてロクに相手も出来ず、いつしか眠ってしまい、次に起きた時には彼は学校に行って、いなかった。ようやく空腹を感じて冷蔵庫を開けた。そこに桃の缶詰はあった。「子どもの

          毎日400字小説「ももかん」

          毎日400字小説「・・・」

          「お世話様。とっても気持ちよかった。あなたにやってもらうと、本当に気分がいいわ」入浴介助のあと、ふくふくとした頬をほんのりピンク色に染めながら、にっこりと笑ってアイさんが言うのを、多田は後ろめたい気持ちで受け止めた。というのも、介助中の多田はひたすら心を無にして、早く終わらせるため、痛がっているのも気づかないふりをして雑に扱ってさえいたからで、アイさんの評価に値するようなことは何もしていないからだった。アイさんがオーバーに感謝してくるのは、そうしなければケアを受けられない、も

          毎日400字小説「・・・」

          毎日400字小説「誕生日」

           三十を過ぎると年を取るのもそうめでたくはないし、祝ってくれる恋人がいなければただの日だ。そう思いながら、しかし朝、家を出るときアマネは、確実に自分がそわそわしているのを感じて恥ずかしくなる。ただの日だと思えば思うほど、誕生日なんです、じつは、わたくし、となぜか上品な口調で思ってしまう。朝日を反射しているいつもの駅舎が、妙に輝いて見えたりする。が、そんなことも会社に着くまでで、仕事が始まってしまえば頭の大部分は取引先からのメールの返信、クレームの処理、報告書の作成、プレゼンの

          毎日400字小説「誕生日」

          毎日400字小説「くじ」

           二十年、足を踏み入れていなかった生まれ故郷に、風間美都子が足を踏み入れる覚悟を決めたのは、恋人の長瀬の作った借金のためだった。今日中に九百万返済しなければ、長瀬は殺される。までもないだろうが、現在取り立て屋に拉致られているのは事実なので、とにかくヤバい状況なのは確かである。三年前父親が死んだのは、弟から聞いていた。保険金がいくら下りたか知らないが、母親の通帳には、九百万ぐらいの金はあると踏んでいる。脅してでも取って帰ると意気込んで生まれ育った一軒家のドアを開けた美都子だった

          毎日400字小説「くじ」

          毎日400字小説「夜明け前」

           玄関を開けると、親父が落ちていた。狭い靴脱ぎに片足を残し、ダイイングメッセージでも書いていそうな格好で腕を伸ばしてうつ伏せに転がっている親父を、トゼウは爪先立って跨ぎ越して中に入ると、冷蔵庫から出した麦茶で喉の渇きを潤す。たった二間の片隅には、母親が転がっている。トゼウはそれに背を向けて、高校の制服を脱ぐ。日に晒された室内は三十五度をとうに超す暑さだが、父も母も起きる気配がないのは、ブラジル人だからだろうか。トゼウは、空になった麦茶の瓶に水道水を入れながら考える。二人が帰っ

          毎日400字小説「夜明け前」

          毎日400字小説「流行りのバッグ」

          「まいったな、またバッグ買わされちゃうよ」と太田課長がうれしそうに言うのを、吉村は信じられない思いで聞いた。トラブルで急な出張が入り、約束していたディナーが流れるお詫びに奥さんの機嫌を取らないといけないということらしいが、ブランド物のバッグを買える財力があるということの誇示のつもりなのか、奥さんケアをしている素敵な人間ですよと言いたいのか、意図が分からない。「いいじゃないですか。奥さんあれだけ美人なんですから」先輩社員がそう合いの手を入れているのも耳を疑った。吉村にしたら、奥

          毎日400字小説「流行りのバッグ」

          毎日400字小説「おじさんの生態」

           焼き鳥は塩がおいしいと出会ったときの耕太は言っていて、当時、スーパーの総菜コーナーで売られているたれのからまったねぎまぐらいしか焼き鳥というものを食べたことのなかった千尋は、煙のもうもうと上がる焼き鳥屋で耕太の勧めるそれを食べた時、ぷりっとしまった身や、噛んだ時に迸る透明な脂、そして舌を刺激する粒だった塩に、脳内に電流が走るほどの感動を覚え、耕太は物知りだな、すごいなと心酔した。一事が万事その調子で、映画、音楽、コミック等、一年前まで田舎の高校生だった千尋に耕太の勧めるもの

          毎日400字小説「おじさんの生態」

          毎日400字小説「事件のあと」

           K市の新興住宅地で、一家惨殺事件が起こったのは、日曜の午前中のことだった。返り血を浴びた犯人は刃物を持ったまま近隣のショッピングモールへ逃走、一時、付近は騒然となったが、一時間も経たないうちに捕まった。亡くなったのは守山和彦(四十一)とその妻、そして小学四年と一年の兄弟の計四人。犯人の男は守山の勤める警備会社の元契約社員で、契約を打ち切られたことからの怨恨が原因だった。守山家のあった区画は、ひと月ほど、警察やマスコミの取材、それから野次馬で騒がしかったが、次第に消えてゆき、

          毎日400字小説「事件のあと」