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毎日400字小説「わたしのママ」

 植町あかりの妊娠に最初に気づいたのは品管の来栖だった。「なんかでかくない?」そう言われてみると事務服はボタンが止まっているのが奇跡ぐらいにパツンパツンで、だけど元々太っていたから、「餅、食い過ぎたんじゃね?」とか言っていたのだけど、日増しに腹は膨れてゆき、サイズがなくなったのか、そのうちよく似た色のポロシャツを着るようになったので、俺たちは驚愕した。四角四面という言葉があるけれど、植町あかりは極端にそういう女だった。いつもむっつりと黙ってパソコンを操作し、書類のミスは断じて許さない。仕事以外の話はしたことがなく、真っ黒の、ヘルメットみたいなおかっぱ頭も変わったことがない。デカい固太りの女、それが植町あかりだ。もちろん、結婚しているという話は聞いたことがない。「誰の子供? もしかして課長?」じゃんけんで負けた俺が訊ねた。彼女は真っ直ぐに俺を見て、言った。「わたしの子供だ」悔しいけど、神々しかった。

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