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毎日400字小説「言い訳」

 コンビニバイトをしてた頃の話だ。ある貧しそうな子供に、いつも廃棄弁当をあげていた。髪の毛はぼさぼさで手も顔も垢だらけ。かわいそうなぐらい瘦せぎすで、腹を空かせているのが一目でわかる。「欲しいの」ゴミ袋を掲げ、訊いた。ほんとはあげちゃいけないと言われてた。そういうのが集まってくるからって。だけど、見てられなかった。ある日その子が俺の帰りを待って、俺の家までついてきた。内心困ったなあと思いながら、上っ面はいいので、「ごめんな、今日は弁当なくて」なんて言っていた。部屋のものを何かやって帰ってもらうしかないかと諦めていたら、少年が言った。「施しできて、気持ちよかったでしょ。だからそのお礼に、あなたの大事なものもらいます」それは、ものではなかった。
「以来、好きという気持ちがない」これが女を振るときの俺の常套句だった。彼女は言う。
「一瞬納得しかけた自分が怖い」俺は笑った。
「しかけたんだ」ちょっと好きになっていた。

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