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毎日400字小説「くじ」

 二十年、足を踏み入れていなかった生まれ故郷に、風間美都子が足を踏み入れる覚悟を決めたのは、恋人の長瀬の作った借金のためだった。今日中に九百万返済しなければ、長瀬は殺される。までもないだろうが、現在取り立て屋に拉致られているのは事実なので、とにかくヤバい状況なのは確かである。三年前父親が死んだのは、弟から聞いていた。保険金がいくら下りたか知らないが、母親の通帳には、九百万ぐらいの金はあると踏んでいる。脅してでも取って帰ると意気込んで生まれ育った一軒家のドアを開けた美都子だったが、母親はおかしな宗教に入れ上げて、ほぼ全財産を失っていた。どうすんだよ。美都子は壁を殴った。天を仰ぎ、コートのポケットに手をつっ込んだとき、何かが当たり、出してみると今日が抽選日のロトくじだった。期待もせずスマホで調べてみて、手が震えた。一等六億が当たっている。何度も確かめて、家を出た。恋人の元には帰らなかった。

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