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【ショートショート】沈黙

 私は正義感の強い自分が嫌いだ。SNSの巡回がやめられない。
「根拠はなんですか」
「ソースを示してください」
「権力にこびを売ってうれしいですか」
 書き込んだあとでしまったと思う。他人事だからほっておけばいいのに、なぜ私はいらない一言を書き込んでしまうのだろう。
 ある日、SNSを運営している会社から「正義官」の認証マークが送られてきた。
 このマークがついていると、発言力が強くなる。
 でも、人には嫌われる。
 フォローしているすべての人からブロックされた。私だって、友だちが正義官になったらブロックする。フォロワーもどんどん減ってついにゼロになった。
 孤立した私はネットから撤退した。
 すると、今度は、自治体から「正義官」バッチが送られてきた。いろいろな組織が個人情報を共有しているらしい。
 リアルの友だちも私から離れていった。
 スーパーでレジに並んでいたら、横入りする人がいた。スーツ姿の中年男性だ。きっと私が正義官だと知って嫌がらせをしているのだ。
 私はもう誰にもなにも言いたくない。
 悲しくなって涙がこぼれた。
「正義が泣いているぞ」
 と彼は大声で言った。
「正義が泣いてる」
「正義が泣いてる」
 まわりの人たちも囃し立てる。
 私はよけい悲しくなり、その場にしゃがみ込んだ。
 店からそっと出ていく正義官たちの姿が目に入った。

(了)

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