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ホロスコ星物語94

老執事を降ろした二人は、そのまま方向転換をして一度南進し、東地区の方へと馬車を進めます。

王都の構造は、西には庶民の店が立ち並び、生活の拠点として繁栄している一方、東には貴族御用達の高級店が並んでいて、中央の貴族街を軸に東西が分かれる形になっています。

この東地区に出るには、貴族街の南の大通りから東へ進むことになります。コエリはこの街を横断する通りに出る直前、南に見えてきた景色に、複雑な思いを抱きながらその様子を眺めやります。

王都においては、西の商業区、東の高級店街に対して、南はいわゆる開拓地、というのが世間一般での認識です。

この貴族の住宅地を軸に東西を分ける、という都市構造には、実は東側には余計な庶民が立ち入りにくいように、という貴族社会らしい理由が含まれていて、この都市構造を変化させるために、かつて小恵理が提唱した計画というものが以前はありました。

それが、このかつて多くの貴族の意図によって雑多な開発が行われ、様々な店が立ち並ぶことになった王都の南側に、新店舗街を作って、貴族と庶民の交流の場を作るーーというもので。一時期は立ち退きや区画整理なども進められていましたが、小恵理の死去が伝えられると共に、この計画は頓挫しています。その名残のような空白地帯が、この通りからも見えるのです。

「王子、この南部地域、今は何の予定もないのかしら?」

あまりに利権が絡み合い、雑多な開発が進んだため、ここにはスラムや違法賭博所、犯罪者の眠る巣窟など、警察組織が警戒を強めなければならない地区というものが少なくない数乱立しています。以前であれば、小恵理が犯罪者群を駆逐するなどして治安も回復していたはずですが、最近ではまた良からぬ噂も耳にするようになっています。

コエリに問いかけられた王子は、残念だが、と横に首を振ります。

「ここに住まう犯罪組織というのは、わかっているだけでも結構な危険分子が多くてな。小恵理のように桁外れの実力を持つ人間がいたからこそ犯罪者どもを駆逐し、開発を進めることもできたが、普通の騎士団や兵団では、迂闊に踏み込めばやつらの餌食になるのが必然、消耗戦になるのは避けられない。それでは他の地区の治安や保安にも悪影響が出る」

つまりこれは、貴族から見れば、一般市民のために騎士団に犠牲を出して犯罪者集団と戦ったところで、得られるものもなければ、自分達の貴族街の方の治安維持に悪影響が出るから手を出さない、と言っているようなものでーーコエリは皮肉な笑みを浮かべて、つまらない話だったわね、と息をつきます。

「治安を担当する全騎士団員の内、8割が貴族街勤務だものね。西地区は兵団が管轄しているし、こちらは経済活動の中心地だから保安活動を通して旨味もある、、けれど南は大きいのはリスクばかり、と。肝心の貴族がそんな考えでは、確かに小恵理くらいしか彼らにとっての救い主はいなかったのでしょうね」

かつて聖女と謳われた小恵理も、万人全てに受けが良かったわけではありません。人気があったのは特にこの混迷に住む南地区の住民たちからで、西地区からも経済的恩恵への感謝や、庶民のヒーロー的な人気はありましたが、貴族たちからはむしろあまり良くは思われていないケースも多々ありました。

貴族社会に恩恵を受ける、地位や名誉を維持することが目的の貴族にしてみれば、庶民だろうが貴族だろうが等しく恩恵を与える小恵理というのは、むしろ貴族社会を破壊し、自分達の既得権益を脅かす存在にもなりかねなかったわけで、、ジュノーも、それには、そうだな、と同意を示します。

「このままで良いとは俺も思っていないし、何か契機があればここに切り込むつもりもある。だが、我々王族も貴族の協力があって成り立っている面は否めない。称えるものなき王などただの置物だ。それを蔑ろにすれば、再び兄弟間での争いになる。自分達により利益のある王子を次期王へと選出するための、政争の道具、旗頭、傀儡とされてな」
「強欲なものね、、だから、ベツレヘムのような人間も出てくるのでしょうね」

コエリは一つだけ嘆息し、つまらない話をしたわ、と改めて謝罪し、難しい顔をするジュノーへ明るい声で、今日は楽しみましょう、と呼び掛けます。

馬車は南地区から遠ざかり、順当に東の高級商店街へと入っていきます。南との境には分厚い内壁が作られていて、貴族街とスラム街とは文字通り壁で仕切られています。この壁は高さも5、6メートルはあり、この内側には更に兵士の詰め所が複数拠点にありますから、ここを乗り越えて東地区へと犯罪者が入り込むことはまずありません。

東地区へ続く大きな門を抜けると、南とはうって変わり、馬車三台が並んでも余裕で通れる大通りに、上品で豪華な佇まいの店が、小さくない敷地を空けて立ち並んでいます。開放的ではあるものの遠すぎもせず、気持ち的にも物理的にも、余裕のある買い物ができる店構えとなっています。

コエリとジュノーを乗せた馬車は、しばらく行くと、一軒の店の横に馬車をつけます。この一軒一軒がわざわざ設けている敷地の広さは、要は買い物をしてから最短距離で荷物を馬車へと運び込めるよう、馬車をこうして店に寄せてしまえるように、余分なスペースと知ってて作られたものなのです。

この、馬車前提の買い物を想定している辺りが西地区との大きな違いよね、と先日の莉々須との買い出しを思い出して、コエリは思います。人が多く、僅かな土地でも有効活用しようと所狭しと店を並べた西地区でこんな店の構え方をしたら、周りの店からの顰蹙待ったなしというものです。

「足元に気を付けて」

ジュノーは先行してコエリの手を取り、手を引いて馬車から降りるエスコートをしてくれます。いつもは見ない優しさと紳士な振る舞いでしたが、さすがは王子、こうした所作も非常にスマートで様になっています。

コエリは素直に礼を言って、裾に注意をしながらゆっくりと馬車から出ます。

この店の構え方の利点としては、一つに貴族の馬車には一般に家紋が掲げられており、どの店にどこの家が買い物に来ているのか、先んじて知ることができる点が挙げられます。それによって入店するか否かを決めるわけです。

これは、店の側は由緒ある家に居心地の良さを提供し、贔屓にしてもらえればそれが大きな収入に繋がる点、貴族の側からは自分達の買い物をしている最中、親しくもない他家に邪魔されることなく買い物ができる点で利害が一致しており、これが東地区での特徴の一つになります。

東地区にはこうした特有のルールがいくつかあり、その一つがこの、買い物は相手の爵位に応じて行う、というもので、このルールを破ろうものなら、時には相手の貴族に喧嘩を売っていることと同義とも解釈されます。店によっては最悪、出禁にさえなりかねません。

勿論、これは主に爵位の低い者や、相手と利害の対立のある家が行う時に問題になるものであり、王家や公爵家が後から乗り込んだところで、基本的に問題になることはありません。ジュノーとコエリの二人は、先着して買い物をしている馬車の家紋だけ確認して、その目当てのアクセサリー店へと並んで入っていきます。

しかし、ジュノーは入店直後、すぐにコエリから離れ、店員の方へと足を向けます。

「コエリ、先に好きなものを見ていてくれ。先客へ挨拶をしてくる」

これも東地区のマナーの一つで、公爵家のような上級の貴族や王家であっても、先客がいた場合、そちらへ邪魔する旨は伝えておくのが礼儀とされています。コエリも心得たもので、待ってるわ、と応じて宝飾の類を見に行きます。

馬車から判断すると、先に店に来ていたのはダイモス子爵とエウロパ伯爵の二人です。身分こそ一つ離れてはいますが、この両家はどちらもいわゆるディセンダント公爵に与する血統派に所属しており、長年の盟友関係にもあります。小恵理の超党派同盟結成の際にも、二人が揃って真っ先に参加を表明してくれていました。

小恵理亡き後も超党派同盟自体は存続しており、今ではディセンダント公とジュノー王子が共同して同盟盟主の活動を担っています。形上、王子と二人は派閥は異なることになりますが、両者とも性格的には穏健で、同盟の会合を見る限りでは、長年の確執も今は昔のこととして、挨拶も穏便に済むでしょう。

店員の案内により、王子は店の奥の個室に向かっていて、そこに伯爵たちがいることがわかります。そこまでを見てとると、コエリは店員を捕まえてその隣の個室を使いたい旨を告げ、目ぼしい棚を三つほど指定して、何も持たずにその個室へと向かいます。

これは別に何も買う気がないとかではなく、これも東地区の一般的な買い物の仕方です。

個室は、店全体の4分の1程もありそうな広い空間に豪華な応接テーブル、革張りの椅子が置かれていて、コエリが奥の椅子に着くと、やがて制服に身を包んだ店員と、支配人らしき整った身なりの男性が、指定した棚を直接部屋まで移動させてやって来ます。

これはいわゆる、貴族間における体面への店側からの配慮というもので、どの貴族がどんな買い物をしたのか、店にやってきた他の貴族に知られないよう、特別室へと直接棚ごと持ってくるという方法を採っているわけです。そのため、棚は移動式で軽く、しかも座ったままでも見やすいよう背の低いものが使われています。

かつて小恵理はこれを無駄の多い、全く意味不明でまどろっこしいシステムと考え、こうした店での買い物は忌避してきました。また、莉々須もこれを成金趣味同然の面倒なシステムと考え、私は関わりたくないわ、なんて拒否反応を示していました。

けれど、きちんと貴族令嬢として生まれ、公爵家の令嬢として育てられていたコエリから見れば、非常に慣れ親しんだ馴染みの深い購入方法です。勿論普通に見てその場での購入もできますが、この高級店でのショッピングという部分については、現世組の二人とコエリの、唯一好みの合わない部分なのかもしれません。

コエリは棚から目ぼしい品物を見付けては、店員にテーブルへと運ばせ、それを用意された手袋を用いて、じっくりと堪能しては次のアクセサリーを、と持ってこさせます。この辺りの宝石の扱いも慣れたもので、他の棚から服飾の類も運ばせて、それに合うファッションなんかを選んだりもします。

「すまない、遅くなったな」

やがて、ジュノーが慌てた様子でこちらの個室へと入ってきます。確かに、コエリが入室してすでに5分以上が経っており、コエリは、何をしてたの? と詰問調にならないよう、穏やかに問いかけます。テーブルには既にコエリの選んだ品物が数点置かれていて、この中から何にしようか選んでいる最中でした。

ジュノーは、申し訳なさそうに急ぎ足でコエリの隣の席へと移動しながら、実はな、と答えます。

「ダイモス、エウロパ両名と情報交換をしていた。後でお前にも聞いてもらう」

勿論、この場では店員の目があるからです。コエリも承知していて、そう、と頷いて改めてネックレスを手に取ります。

「ところで王子、せっかく帰ってきたのだから一緒に選ばない? どちらが似合うかしら?」

コエリの手に取ったネックレスは、一つはトパーズの埋め込まれた金のネックレス、もう一つはルビーの埋め込まれたシルバーのネックレスです。どちらを身に付けてもコエリの白い肌には映えそうですが、ジュノーは大きく肩を竦めて、何を言ってるんだとばかりに口を開きます。

「お前が身に付けるんだろう? どっちも似合うに決まっている。だがまあ、強いて言うなら、、そうだな、こっちか?」

ジュノーはトパーズのネックレスの方を手に取り、コエリの首もとに広げてみます。そして、悪くない、と満足げに頷きます。

「お前の存在感は強烈に目を引くからな。ルビーなら存在感をより際立たせるが、普段使いならこちらの方が落ち着いた印象になって良いんじゃないかと思う」
「そうね、私もそう思ってたわ」

ルビーは、宝石自体は好きなのだけど、私の場合悪目立ちしそうよね、とコエリが微笑みかけ、ジュノーは、そんなお前も悪くはないがな、と笑顔で返します。予想外の切り返しに、コエリからも思わず、あら、と楽しげな笑い声が漏れました。

「ルビーが好きというなら、ルビーは指輪で良いんじゃないか? こちらならそんなに目立つ心配はないだろう」

ジュノーが提案し、今度は店員にルビーで指輪があるか尋ねます。店員がございます、と恭しく頷いて取りに出ていくと、ジュノーは悪戯っぽくコエリに笑いかけます。

「アセンダントの公爵令嬢の財力であれば、そんな慎ましく選んで買い物などせずとも、店ごと買い受けることさえできるだろうに?」
「いいのよ、そんな買い方をしても楽しくないわ」

これはデートなのだから、とコエリはどこか嬉しそうにトパーズのネックレスを見つめながら、けれど澄ました様子で指摘します。あくまでも思い出作りであって、楽しいことが大事なのだということです。ジュノーもすぐに理解をして、なるほどと頷きます。

「確かに、店ごと買うのはさすがに無粋が過ぎるな」
「ええ、自分で経営するつもりで買うならいいのでしょうけど、わざわざアセンダントがオーナーとならなくてもこの店は十分やっていけると思うわ」

それだけ満足度の高い接客だったのだとコエリが店員に微笑みかけ、支配人ほか店員たちは揃って礼を述べ、恭しく頭を下げます。

このあと、ジュノーも数点腕輪など見て、今度はコエリが見立ててあげて、いくつかを買って店を出ます。東地区の爵位ルールにより、公爵家が長々と居座っては、他家の客が入ってこられないのです。そこはこちらが気を使ってあげなくてはいけません。

馬車に戻ると、コエリは、それで、とジュノーへと自分から切り出します。

「ダイモス、エウロパの二人からは何を聞いたの? アルクトゥルスの事件に関係あるのでしょう?」

デート気分を害する話題なのは承知していますが、あくまでこのデートはコエリが我儘を言って成立した、という自覚はあります。ジュノーの仕事に関わるようなら、それを邪魔してはいけない、という思いも一応はあるのです。

少なくとも、何もなしにデートの最中に5分以上も話し込むなど考えられないはずで、、その程度のマナーは心得ているはずとコエリが尋ねると、ジュノーは、ああ、とやや躊躇いながら、一つ頷きます。

「実はな、二人はあのハウメア反乱の当日、王の下へと参内する予定があったらしい。戦場になっていると聞いてさすがに参内は中止し、場合によっては兵を率いて対処することも考えたそうだが、それはいいとしよう。その用件とは、ベツレヘムとの領地問題だ」

二人の領地は、この王都からは北東寄りにあり、エウロパ伯爵の方はベツレヘムと領地が隣接しています。そこで当時から数えて2週間ほど前に、領民同士の衝突があったと言います。

「2週間前ということは、小恵理が西の森で実験を始めた頃かしら?」
「ああ、そうだな。この衝突だが、理由の部分に大きな問題があってな」
「大きな問題?」

隣接する領民同士での喧嘩は、実際そこまで珍しいものではありません。特に他領にもかかわらず近い位置で複数集落がある場合、片方は税制も緩やかで平和に過ごす領民、もう一方は税制が厳しく、高額の税を取り立てられてツラく貧しい生活を強いられる領民といったように、同じような土地にあるのに生活に大きな差が出でしまうことがあります。そういった格差が原因で村同士の喧嘩になる、場合によっては山賊などの被害となって現れる、といったことはまま起こるのです。

重税で有名なベツレヘムですから、今回もその手のことが理由なのではないの? と問うコエリに、ジュノーは、それもあるが、と返します。

「確かに、二人の領地は比較的税は緩やかで領民は彼らを慕う者が多いし、ベツレヘムは領民を自分の所有する奴隷同然に考える男だからな、その手の苦情は確かによく受けている」
「でも違うのね?」
「ああ。いや、俺も最初はその手の話だと思ったんだがーーコエリ、お前も母から聞いているだろう。彼らはいくら生活に格差があっても、何の理由もなく相手を攻撃したりはしない。偶発的な衝突を除いて、彼らは必ずそれを正当化する理由を作っている」

いわゆる大義名分というやつです。こんな理由があったから彼らを攻撃したのだという、いわゆる言い訳めいたものです。
今回の衝突におけるその理由だが、とジュノーが声を潜め、コエリも自然とジュノーへと顔を近づけます。

「まず、仕掛けたのはベツレヘムの側の領民だ。この手の争いはよほどの性悪がいなければ、大体貧しい方から仕掛けるものだから、これは分かりやすいと思う。
その肝心の理由なんだが、エウロパ伯の方の領民が、ベツレヘムの方の領民について、ある噂を流したからだとされている。その名誉回復のため、村をあげて抗議に行った際、エウロパ伯の領民に反撃され、喧嘩に発展してしまったのだと」
「ある噂?」

コエリは勿論、当時まだ外を飛び回っていた小恵理も、人の噂にはとても疎いものですから、全く思い当たるものがありません。首をかしげるコエリに、ジュノーは深刻そうな顔で頷きます。

「ああ、その噂というのが、ベツレヘムの領民は魔族と繋がっている、という噂だ」
「ーーーー」

それは、、喧嘩にもなるわね、と思うと同時に、何故エウロパ伯の領民は、わざわざそんな噂を流したのかが気になります。

これが、さっき豊かな方で問題になる場合に挙げられた、エウロパ伯の領民がよほどの性悪で、例えば、あんな貧しい生活をしているのに餓死者が出ていないのはおかしい、魔族と繋がってでもいて、陰で食料でもわけてもらっているのではないかーーなんて悪評に端を発する噂なのであれば、そこまで気に留める必要はありません。エウロパ伯に忠告を与えさせれば済む話です。

けれどーーこれが、もし魔族の往来を目撃したとでもいうような、事実に端を発する噂であるのなら。それはこちらにも大きな問題が生じてきます。

「そういえば、ハウメアは魔族を二体従えていたけれど、その魔族がどこからやってきたのかについては誰も言及したことがなかったわね、、」

レグルスという、先に王都へ侵入していた魔族がいたため、誰も気にも留めませんでしたがーーもしハウメアがそういった面でもベツレヘムと協力していて、ベツレヘムが領内にいた魔族を調達させて、あの場へと連れていたのなら。それはもはや知らぬ存ぜぬでは通りません。完全な共犯です。

いや、それどころか、、もしかして、とコエリは問いかけるような目線をジュノーへと向けます。

「王子、そもそものところーーレグルスは一体どうやってこの王都へと侵入していたの? この王都は全域を覆う結界が張ってあって、それをどうにかしなければ王都内へも魔族は侵入できないのではないの?」

コエリの指摘に、ジュノーは渋面を作って大きく頷きます。まさにそれが問題なのだと。

「これは仮説だが、、もしベツレヘムとハウメアがもっと古くからの顔馴染みで、レグルス侵入すらハウメアが仕掛けた罠なのであれば、レグルスの来襲に合わせてハウメアが結界を弱め、警報を解除、レグルスを侵入させ暴走させようとしたものの、小恵理を排除する計画が失敗したため、新たにもう二体の魔族を、再度結界を弱めて今度は城内まで侵入させた、、という流れが想定できる。そしてこの可能性は決して低くない」
「ーーやってくれたわね、、」

コエリの瞳に、怪しく危険な光が宿ります。

ハウメアが小恵理を排除しようと画策を始めたのが、実際のところいつからなのかはわかりませんが、、少なくともレグルスを暴走させようという意図がハウメアのものであったことに違いはありません。ならば当然、レグルスを侵入させたこと自体から、既にハウメアの意図が働いていた可能性も十二分にあるのです。

もしこの仮説が正しければ、ハウメアはいつからベツレヘムと繋がっていて、どこまでベツレヘムは絡んでいるのか、、ハウメアの話では、この二人の接点は超党派同盟結成後であるはずですが、その真偽、特に魔族との関わりについては、是が非でも全貌を明かさなければならないでしょう。

そして、もう一つ気になるのがこの、いつから、の部分なのですがーー
コエリは、こちらも深刻な顔を作って、王子、と呼び掛けます。

「王子、、レグルスが最初に王都に侵入したのは、三年前、なのよね、、」

あの時、セレスの館での騒動でもレグルスは王都へと侵入を果たしていて、けれどこれが、どうやって侵入していたのかもまた、全く知られてはいなくて。

ジュノーは一つ舌打ちして前髪をかき上げ、どうしてこんなことに誰も疑問を抱かなかったのかと、今更と知りながらも大きなため息をつきます。
そして、僅かな思案で顔を上げ、コエリの目をまっすぐに見て、決然とした面持ちで語りかけます。

「デートの最中にすまない、少し時間をもらう。噂の真偽の確認も進めなくてはならないが、先にこれからレターで各部署へ通達し、レグルスを探させる。帰城し次第ハウメアへの尋問も再開する」

これはまた、厄介な裏が現れてきたものね、と、コエリもまた目を伏せ、重いため息をつくのでした。


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