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読みたい本や観たい映画、行きたいところ

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ジタバタした先にあるもの。|中川正子「みずのした」ブックレビュー

ジタバタした先にあるもの。|中川正子「みずのした」ブックレビュー

中川正子さんの新著「みずのした」を読んだ。

この本は、10年以上前から正子さんがつづってきた言葉に、みずから返事を書くような構成になっている。時にやさしく、時に厳しく。

そのころの自分のジタバタを、冷静すぎる視点で観察して、読んでいて痛くなるくらい精細に描写する正子さんを、なぜだか「めちゃくちゃカッコいい」と感じた。

水の上では優雅にカッコつけて、水の下ではジタバタとしている白鳥。
そうやっ

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本を売るだけじゃ書店は回らない。命綱の「書店イベント」を徹底解剖【売上は全体の約2割】

本を売るだけじゃ書店は回らない。命綱の「書店イベント」を徹底解剖【売上は全体の約2割】

東京・蔵前にある「透明書店」。2023年4月に開店して以来、さまざまなイベントを実施しています。イベントは、店舗経営における重要な収益軸。その反面、集客に苦戦したり、企画に労力がかかったり……何かと悩みが尽きないのもリアルなところ。今回は、透明書店の代表を務める岩見俊介が、イベントコーディネーターの川内イオさんと一緒に、書店イベントの意義やコツについて考えていきます。聞き手は、ライターの安岡晴香さ

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「積ん読」を晒そうと数えたら89冊あったので、いったん全て紹介します。

「積ん読」を晒そうと数えたら89冊あったので、いったん全て紹介します。

本を年間130冊ほど読むこと早数年。読むペースよりも面白そうな本が出るペースが早くて、どんどん積ん読が増えている。特に単行本の増え方が異常。

よく読むのは、歴史、社会学、哲学、社会思想あたりの本と、海外文学、ミステリ。あと心理学や認知科学、進化論の話とかもすき。

わたしにとって本とは、小説や文学は非日常を味わせてくれる人生のスパイスだし、学術書や実用書はわたしのちっぽけな脳にはとても詰め込めき

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行ってみたかったぁ!佐賀 ①

行ってみたかったぁ!佐賀 ①

春から計画していた九州の旅、夏休みを秋に持ち越して(お金を貯めてw)「ぜひぜひ行ってみたかった」憧れと前のめりのワクワクとで、いざ出発。
東京生まれの私達ですが、夫は幼少期を北九州、黒崎で過ごし、私は独身時代に博多へ友人を訪ねた以来、本当に久しぶりの九州です。11月だというのに夏のような日差しで、地図を帽子代わりに、半袖Tシャツでの眩しい秋の旅行になりました。

佐賀空港は新しく近代的でしたが、駐

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秒速5センチメートルが心に残る理由を、聖地に行って考えてみた

秒速5センチメートルが心に残る理由を、聖地に行って考えてみた

ゆきが積もるタイミングで行きたい場所がある。

家からは距離にして40km、車で1時間。それほど遠くはない。

その場所とは、アニメ映画『秒速5センチメートル』の聖地のひとつ、栃木県にある岩舟駅。

岩船駅は、佐野ラーメンで有名な佐野市のとなりの栃木市にある。

電車の数は1日に上りと下り各6本(2021年1月)。

通勤と通学にしかほぼ使われないような田舎によくある無人駅だ。

『秒速5センチメ

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僕が言いたいのは永遠

僕が言いたいのは永遠

『千葉ルー』

エッセイ『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』(済東鉄腸、左右社、2023年、以下『千葉ルー』)には、そのタイトルが示すように、大学生活や就職がうまくいかず自宅にこもっていた著者が一本のルーマニア映画に出会ったことからそれまで縁もゆかりもないルーマニア語に目覚め、書籍や映画、そしてインターネットを通じて同国から遠く

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ジャック・ラカンの入門書を読んだら、わかりやすすぎてびっくりした話

ジャック・ラカンの入門書を読んだら、わかりやすすぎてびっくりした話

先月、ジャック・ラカンの本を読んだ。詳しくは下記のnoteに書いたが、まあこれが意味不明だった。わたしはそれまで精神分析に触れたことはなく、門外漢も門外漢だった。なので知識不足なのもあっただろう。でもなんというか、日本語として「???」という感じで全然何を言っているのか分からなかった。

そして「いつかこの人の書いたものを理解したい」と思っていたところ、ラカン入門書である『疾風怒濤精神分析入門』が

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2023年に読んだ133冊から、特に面白いor印象的だった本をいくつか紹介させてください

2023年に読んだ133冊から、特に面白いor印象的だった本をいくつか紹介させてください

今年もたくさん読みました。今年読んだ本は133冊(12月26日時点)。そのなかから「これは!!」という気づきがあった本や、とりわけ印象に残っている本を選びました。気軽に読めるものも気軽と対極にあるものもありますが、どれもすっっっっごく面白かったので、ご興味のあるものがあればぜひ読んでみてください。

千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になっ

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2023年出会えてよかったnote

2023年出会えてよかったnote

今年もたくさんの出会いがありました。

勇気づけられたり…、優しい気持ちになれたり…、癒されたり…、学びになったり…、今日は読ませていただいて出会えてよかったnoteをご紹介させていただきます。

コメントしたものもあれば、サイレント好きを贈り続けたものも含めて、心が震えたオススメの20作品、ぜひお楽しみくださいませ。

1 日野笙さん

「 がんばんなさいよ 」

歳老いていくことも美しいと

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勉強するために勉強してる|作業療法士・橋本和樹|私が学ぶ「私的な」理由

勉強するために勉強してる|作業療法士・橋本和樹|私が学ぶ「私的な」理由

2000年代のインディーズ音楽シーンを彩った京都発オルタナティブロックバンド「dOPPO」のボーカル・橋本和樹さん。バンドは2017年に惜しまれつつ解散しましたが、その後もソロアーティストとしてマイペースに活動を続けています。

橋本さんにはもう一つ、医療従事者としての顔があります。普段は作業療法士として患者のリハビリを行っており、その技術研鑽などを目的に、2022年9月に渡仏。現在はパリ第8大学

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冒頭写経するマイブーム

冒頭写経するマイブーム

時々、なにかに取り憑かれたように、好きな作家の文章を「写経」してしまう。そしていつもため息をつく。
なんでこんなふうに書けるんだ、とぼう然とする時間も写経の醍醐味である。

多くの人が言うように、良い文章にはリズムがある。声に出して読めばリズムがわかりやすいのは当然ながら、不思議なことに、タイピングをしてもそれを感じることができる。その感覚がたまらなくて、むしょうに写経したくなるのだ。

昨日、そ

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クリームイエローの海と春キャベツのある家(1/4章)/小説 #創作大賞2023

クリームイエローの海と春キャベツのある家(1/4章)/小説 #創作大賞2023


プロローグ. ほんの些細なことで、
 見えてた世界の色がガラリと変わってしまうことってある。

 たとえば、今朝のはなし。
 永井 津麦が降り立ったのは、陰気な駅だった。蛍光灯の灯りが3つに2つくらい消えていて薄暗い。ホームから改札へあがるのに、エスカレーターはない。みな下を向いて兵隊みたいに一定の速度で階段を上がって、改札を出て行く。津麦も、その列に無心で加わった。
 線路沿いの道は、でこぼこ

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伊藤野枝が100年前に燃やした炎を、心に抱えて生きようと思った話

伊藤野枝が100年前に燃やした炎を、心に抱えて生きようと思った話

今年、関東大震災が起きてから100年が経った。ということは、わたしが日本史上一番好きなひとが死んでから100年だ。彼女の名は伊藤野枝(いとうのえ)。明治・大正を生きたアナキストだ。

平塚らいてうらが発起人となって起こした青鞜社で執筆活動を行ったり、同じくアナキストでありパートナーの大杉栄とも雑誌を創刊したり、労働運動に参加したりしている。

私生活では親の決めた相手と結婚するも気に食わずに逃げ出

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学芸大学駅とストーリーズ

学芸大学駅とストーリーズ

この街とも、気づけば長い付き合いになりました。若き日、大失恋した夫が1人暮らしをしていたのが、ここ学芸大学駅。徒歩17分、環七沿いの5階まで階段で上がる、エアコンもなくカーテンもない部屋は、直射日光であり得ない暑さに。窓を開ければ車の騒音で何も聞こえない、電話するのも大変だった。
数少ない同期、同じ頃に会社を辞めた仲間で、あの頃は若さだけ。先行きも見えない、本当に何もなかったなぁ。

当時の夫は、

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