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歌、物語、街に人──。あらゆるモノゴトから受けた感動(Inspired)を、”中山かず葉”の視点で紡いだ作品集。”あなた”の視点が1mmでも柔らかくあたたかい方に変わることを祈っ… もっと読む
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記事一覧

【#3行日記】 追憶

【#3行日記】 追憶

知らなかったはずの匂いが不意に鼻をかすめ

わたしは突然「懐かしさ」の惑星に飛んだ

あの美しい都だけを置き去りに

【詩】  桜流し

【詩】 桜流し

つんざくような桜流しに

いっそ打たれてしまえばよかった

花弁に絡みつくきみの香りが

いっときの喧騒を足早に

ぼくのからだをすり抜け

指先をかすめることもなく

知らない誰かの元へと

散り散りに舞い落ちてゆく

寒空の下で開いた心だけを置き去りにして

細い枝葉は苛烈な雨風に揺らぎ

青灰の春を迎えました

【#3行日記】 2023(+1)0328

【#3行日記】 2023(+1)0328

満ちゆく月に痩せた背中を重ねて手を伸ばす

この世界から消えてしまったあなたの名前を

僕らは今でも地球のどこかで呼びあっている

【短編】 「なにか」を求めて

【短編】 「なにか」を求めて

まだ蝉も鳴き始めない夏の日の朝。

私が生まれついたこの街は、「午後」に切り替わらないうちからうだるような暑さに占拠されるような所なのに、爽やかだった。

「爽やか」は、すごい。

停滞していたエネルギーがブワワワッ!と音を立てて流れ出すかのように、気づけば普段取らない行動にすんなりと身を委ねていた。

ただただ、歩く。「なにか」を求めて。



一体どれほど歩き続けたのだろう。

蒼く、時折緑

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【#3行日記】憧れが交じり合うところ

【#3行日記】憧れが交じり合うところ

僕らはいつだって互いの才能に両片想い

ふたつの唇からこぼれおちる「羨ましい」という音階だけを残したまま

言葉になりそこねた吐息ばかりが水平線の向こう側へと溶けていく

【プロフィール】自己紹介が苦手な私のセルフポートレイト

【プロフィール】自己紹介が苦手な私のセルフポートレイト

「自己紹介が苦手です」が私の常套句になったのは、一体いつからだろう。

学生時代から現在にいたるまで、
いざ自分のことを話そうとするとモゴモゴと口ごもって相手にうまく伝えられない。

それは文面に置き換えても同じで、
メモ帳にはスラスラと構成を作れるものの、いざエディタを開くとピタリと手が止まってしまうのが常だった。

それでも、ひとは書き手の”生き方”や”人となり”を知りたいものだと思うから。

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【202310(14)+X】 ”おとな”の居場所

【202310(14)+X】 ”おとな”の居場所

そう、マスターは言っていた。

話の脈略をたどると、それは友人に向けて放たれた文言だったのだけれど、そのフレーズはじんわり、ぽつーんと、たしかに私の胸にも光をともしてくれたのだった。

たったひと晩のできごとが、
今でも忘れられない。



▼ 1軒目
「おっす~!」

1年弱会っていないことがまるでウソみたいに、親友との再会はいつもどうりの軽やかな挨拶ではじまった。

進学・就職のために若くし

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2023年、”マチュア”な私へ。

2023年、”マチュア”な私へ。

こんばんは、中山かず葉です。
2月となりましたが、今回は本年の目標を書いていきたいと思います。

2023年の目標はずばり、
【マチュアな私に近づく】こと!

以下、詳しく書いていくので、気になる項目だけでも読んでいただけると嬉しいです。

”マチュア”との出会いマチュアという単語を知ったのは、2022年の終わり頃。美容家であるジュミ・ソンさんの著書『自分にあるものだけを見る』を読んだのがきっかけ

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今、この瞬間も”人生”だ──『今日の人生』益田ミリ

今、この瞬間も”人生”だ──『今日の人生』益田ミリ

ぼぉっとした状態で本を選ぶとき、やっぱり知っている名前の方に自然と視線が向かう。

益田ミリさんの『今日の人生』という本を手に取って、そんなことを考えていた。

それもまた、私の今日の人生。



普段、何気なく過ごしている私たちは気にも留めていないけれど、”私”が過ごした時間は私だけのものだ。

なーんのこっちゃ、と思う気持ちも分かる。

だって、私もこの本を読むまでは本気でなーんのこっちゃ、

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その言葉が響くのは、”あなたにしか言えない言葉”だから─『永い言い訳』

その言葉が響くのは、”あなたにしか言えない言葉”だから─『永い言い訳』

映画監督である彼女の作品を予告編で知ったからか、それとも彼女の姿をたまたま雑誌で拝見したからなのか。

これといった理由は忘れてしまったが、常に西川美和という名が頭の中の大きなスペースを占めていた時期がある。

図書館で見つけた『永い言い訳』という本に惹かれたのも、そこに見慣れた4文字があったからなのかもしれない。



妻を失った男、”こども”でいられた日々を奪われた子供、自ら望んで実の名を捨

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「あなたのように」が私をつよくする─鷺沢萠『眼鏡越しの空』

「あなたのように」が私をつよくする─鷺沢萠『眼鏡越しの空』

「あぁッ!」

図書館で『ビューティフル・ネーム』という小説を見つけたとき、もっといえば『眼鏡越しの空』という文字が目に入ったときに、つい小さく叫んでしまった。

大好きな歌と作家が一堂に会した瞬間、私は主人公である奈蘭と同様に「運命」を感じずにはいられなかったのだ。



初めて『眼鏡越しの空』を聴いたのは、14歳の頃だった。『ドォーモ』という九州の深夜番組で当時のエンディング曲に使用されてい

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シティーとローカルを繋ぐ3分間のラブストーリー

シティーとローカルを繋ぐ3分間のラブストーリー

魅力的な楽曲を初めて聴いた衝撃は、恋に落ちた瞬間とどこか似ている。

『丸ノ内サディスティック』『ラブ・スコール』『水の星へ愛をこめて』『Flashdance…What A Feeling』『All the Young Dudes』『Take Five』……。

そう、見ての通り私は惚れっぽい。

素敵な殿方とデートを重ねるよりも、気に入った曲をリピートして聴く回数の方がはるかに多い。音楽とは常に

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誕生日には、私なりの花束を

誕生日には、私なりの花束を

「この人に出逢えてよかった」

心底そう思える人と生涯でどれくらい出逢えるのだろうか。時々、そんなことを考える。

私、といえば、「あの時、この人と出逢えて本当に良かった」と全身で感じられる方々と巡り合えた経験が多い方だと思う。

恩師や友人ら実際に会える面々はもちろん、大好きな作家さんや役者さん、はたまた楽曲や作品など形を超えて「出逢えて良かった」対象に常々心充たされている。

そして、私はこう

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心の中に、ダイアモンドを。

心の中に、ダイアモンドを。

「かっこいい」という単語を、これまで
どれくらい口にしてきただろうか。

それは時に「かっけぇ!」「格好いい」
「うわー!何じゃこれー!」といった姿に
カタチを変えて、幾度となく使用してきた。
数える方が難しいんじゃないかとさえ思う。

私はこの「かっこいい」という言葉が口から
発せられる少し前の、魂が震える瞬間
というものがたまらなく好きです。

目が釘付けになる、という表現がありますが
心を、

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