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歌、物語、街に人──。あらゆるモノゴトから受けた感動(Inspired)を、”中山かず葉”の視点で紡いだ作品集。”あなた”の視点が1mmでも柔らかくあたたかい方に変わることを祈っ…
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記事一覧

"I saw the moon"

"I saw the moon"

月を、見ていた。

煌々と輝き満ちている。
今回は二度目の山羊座満月だという。

「月が綺麗だよ」という友の声に合わせ、数人で夜空を見上げてそんな話を昨日もしていた。

他者から見て小さかろうが、粗末だろうが、こうした穏やかで大切な時間を私は「幸福」と呼ぶ。

それなのに今日はどこか物悲しい。

「寂しい」という感情が全身を埋めつくしているみたいだ。

それもきっと満月のせいなんだと思う。

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【散文】 対人関係=瞬間芸術

【散文】 対人関係=瞬間芸術

学年が上がると仲の良いグループが変わったり、ライフステージが変わると友人との関わり方も少しづつ変わっていくように、対人関係は「限られた期間内」で人生の一部を彩っている。

仮に契約を交わすような関係性(結婚や仕事など)だったとしても、一定の期間が過ぎると気持ちに変化があらわれるため、必ずしも同じ感情・付き合い方がずっと続くということはまずありえないだろう。

だからこそ、対人関係は瞬間瞬間を

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あなたに伝えたいことを、これからも

あなたに伝えたいことを、これからも

頭と右手の意思疎通ができずにいる。

取り留めのない思考が、まるで濃霧にのまれているかのように「書き記す」行為を遮断して行く手を阻む。

私にとって「感じること」は、すなわち生きること、だった。

だったはずなのに、ちょっとした不調がキッカケで鈍る感受性相手に、今はただ一抹の「やりきれなさ」と「無」しか抱けずにいる。

──寂しいやら、悔しいやら。



あなたに伝えたいことは山ほどあって、それ

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【#3行日記】 追憶

【#3行日記】 追憶

知らなかったはずの匂いが不意に鼻をかすめ

わたしは突然「懐かしさ」の惑星に飛んだ

あの美しい都だけを置き去りに

【詩】  桜流し

【詩】 桜流し

つんざくような桜流しに

いっそ打たれてしまえばよかった

花弁に絡みつくきみの香りが

いっときの喧騒を足早に

ぼくのからだをすり抜け

指先をかすめることもなく

知らない誰かの元へと

散り散りに舞い落ちてゆく

寒空の下で開いた心だけを置き去りにして

細い枝葉は苛烈な雨風に揺らぎ

青灰の春を迎えました

【#3行日記】 2023(+1)0328

【#3行日記】 2023(+1)0328

満ちゆく月に痩せた背中を重ねて手を伸ばす

この世界から消えてしまったあなたの名前を

僕らは今でも地球のどこかで呼びあっている

【短編】 「なにか」を求めて

【短編】 「なにか」を求めて

まだ蝉も鳴き始めない夏の日の朝。

私が生まれついたこの街は、「午後」に切り替わらないうちからうだるような暑さに占拠されるような所なのに、爽やかだった。

「爽やか」は、すごい。

停滞していたエネルギーがブワワワッ!と音を立てて流れ出すかのように、気づけば普段取らない行動にすんなりと身を委ねていた。

ただただ、歩く。「なにか」を求めて。



一体どれほど歩き続けたのだろう。

蒼く、時折緑

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【#3行日記】憧れが交じり合うところ

【#3行日記】憧れが交じり合うところ

僕らはいつだって互いの才能に両片想い

ふたつの唇からこぼれおちる「羨ましい」という音階だけを残したまま

言葉になりそこねた吐息ばかりが水平線の向こう側へと溶けていく

【プロフィール】自己紹介が苦手な私のセルフポートレイト

【プロフィール】自己紹介が苦手な私のセルフポートレイト

「自己紹介が苦手です」が私の常套句になったのは、一体いつからだろう。

学生時代から現在にいたるまで、
いざ自分のことを話そうとするとモゴモゴと口ごもって相手にうまく伝えられない。

それは文面に置き換えても同じで、
メモ帳にはスラスラと構成を作れるものの、いざエディタを開くとピタリと手が止まってしまうのが常だった。

それでも、ひとは書き手の”生き方”や”人となり”を知りたいものだと思うから。

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【202310(14)+X】 ”おとな”の居場所

【202310(14)+X】 ”おとな”の居場所

そう、マスターは言っていた。

話の脈略をたどると、それは友人に向けて放たれた文言だったのだけれど、そのフレーズはじんわり、ぽつーんと、たしかに私の胸にも光をともしてくれたのだった。

たったひと晩のできごとが、
今でも忘れられない。



▼ 1軒目
「おっす~!」

1年弱会っていないことがまるでウソみたいに、親友との再会はいつもどうりの軽やかな挨拶ではじまった。

進学・就職のために若くし

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2023年、”マチュア”な私へ。

2023年、”マチュア”な私へ。

こんばんは、中山かず葉です。
2月となりましたが、今回は本年の目標を書いていきたいと思います。

2023年の目標はずばり、
【マチュアな私に近づく】こと!

以下、詳しく書いていくので、気になる項目だけでも読んでいただけると嬉しいです。

”マチュア”との出会いマチュアという単語を知ったのは、2022年の終わり頃。美容家であるジュミ・ソンさんの著書『自分にあるものだけを見る』を読んだのがきっかけ

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今、この瞬間も”人生”だ──『今日の人生』益田ミリ

今、この瞬間も”人生”だ──『今日の人生』益田ミリ

ぼぉっとした状態で本を選ぶとき、やっぱり知っている名前の方に自然と視線が向かう。

益田ミリさんの『今日の人生』という本を手に取って、そんなことを考えていた。

それもまた、私の今日の人生。



普段、何気なく過ごしている私たちは気にも留めていないけれど、”私”が過ごした時間は私だけのものだ。

なーんのこっちゃ、と思う気持ちも分かる。

だって、私もこの本を読むまでは本気でなーんのこっちゃ、

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その言葉が響くのは、”あなたにしか言えない言葉”だから─『永い言い訳』

その言葉が響くのは、”あなたにしか言えない言葉”だから─『永い言い訳』

映画監督である彼女の作品を予告編で知ったからか、それとも彼女の姿をたまたま雑誌で拝見したからなのか。

これといった理由は忘れてしまったが、常に西川美和という名が頭の中の大きなスペースを占めていた時期がある。

図書館で見つけた『永い言い訳』という本に惹かれたのも、そこに見慣れた4文字があったからなのかもしれない。



妻を失った男、”こども”でいられた日々を奪われた子供、自ら望んで実の名を捨

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「あなたのように」が私をつよくする─鷺沢萠『眼鏡越しの空』

「あなたのように」が私をつよくする─鷺沢萠『眼鏡越しの空』

「あぁッ!」

図書館で『ビューティフル・ネーム』という小説を見つけたとき、もっといえば『眼鏡越しの空』という文字が目に入ったときに、つい小さく叫んでしまった。

大好きな歌と作家が一堂に会した瞬間、私は主人公である奈蘭と同様に「運命」を感じずにはいられなかったのだ。



初めて『眼鏡越しの空』を聴いたのは、14歳の頃だった。『ドォーモ』という九州の深夜番組で当時のエンディング曲に使用されてい

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