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カットオーバー時のトラブル発生要因の検証(2)~ 情報システム部門の責務は果たされたか ②~

前回(第26回)、カットオーバー時にトラブルが露見したプロジェクト(新業務システムが計画通りに稼動できなかったプロジェクト) *1における「情報システム部門」としての取り組みについて、以下の3点から検証すべき観点を紹介しました。

【前回の要旨】 *2
 1.推進母体の明確化状況
  ・推進母体として、「情シス」なのか「現場統括部門」なのか
  ・現場統括部門が「受け身」になっていなかったか
  ・コンサル企業に、推進に対し過度に期待していなかったか
 2.改革対象現場統括部門との関係
  ・情報システム化計画に、十分な関与(巻き込み)、理解を促したか
 3.情報システム部門としての姿勢、関わり方
  ・契約ベンダーとの「役割・責任範囲」は、明確だったか
  ・現場統括部門との「役割・責任範囲」は、明確だったか
  ・不都合発生時において、是正処置のタイミング、方法は適切だったか
  ・PMO(Project Management Officer)に過度の期待をしなかったか

第27回の今回は、その(情報システム部門の)続きとして、以下の2点からの検証観点を紹介したいと思います。


【情報システム部門の検証ポイント】

情報システム部門は、プロジェクトの遂行における経営層を含めた関連社内部門や外部委託先との「内容理解とそこでの役割・責任範囲」について共有化し、明確な「共通認識」を得る行動が重要な役割の一つです。それが、プロジェクト推進において、相互の「信頼」に繋がることと考えています。

4.プロジェクト推進上の行動様式

■確定した「スケジュール類」の作業整合性(クリティカルパス)、実現性判断は適切だったか
・俯瞰的に、推進、検証し得るスケジュールが作られていたか。(進捗具合、責任者、無理のない期間、残業対応ありき)
・詳細スケジュールが出来たことで、安心していなかったか。
・スケジュール、担当者が決まったら「自発的に進めてくれるハズ」という思い込みは無かったか。

■定期開催の各種会議は、有効に機能していたか、させていたか
・報告事項を、鵜呑みにすることは無かったか。
・3現主義(現場・現実・現物)を徹底していたか。
・「遅れ報告」に対し的確(実行可能)な対応指示が出されていたか。
・該当担当者に、任せきりにしていなかったか。
・対策に対する「チェック、対応検証」を、確実、的確に行なったか。
・「指示したのだから、やるハズ」という思い込みはなかったか。
・他のグループに対し、相互に「モノ申す環境」は、醸成されていたか。(活動内容、進捗実績、遅れ対策、他グループとの関係性等)
・「モノ申す役割」として、PMOは効果的に機能していたか、させたか。(遠慮、配慮などは、無かったか)

■「推進者」「推進部門」という意味を、「真」に理解していたか
・情報システム部門としての「推進」の意味を吟味し、部門内で共有していたか。(正しく稼動させることに、全ての責を負っているということ)
・本プロジェクトに関わる全ての事象に関わり、実践する(させる)ことという自覚は、醸成されていたか。
・指示命令系統(特に、社内部門間)は、明確であったか、実践できたか。

5.開発、支援体制作り

■「3000拠点」におよぶ「一斉稼働方式」とすることの可否について、実現可能性を十分検討、検証していたか
・拠点数、利用者数に応じた「教育支援・問い合わせ体制」について、十分な検討、検証がされていたか。
・現場統括部門の役割、責任範囲として「委ねて」しまっていなかったか。(危惧していなかったか、任せきっにしていなかったか)
・利用者教育は充分であったか、見切り発車を許容していなかったか。
・現場統括部門に、言うべきことは発言してきたと言えるか。
・現場部門が「動けていないと分かった」際、経営層を巻き込んだか。

■情報システム部門内の体制は、十分な「リソース」を確保しえていたか
・現業(定常業務運用)との個々の関係性は、整理されていたか。
・現業との「兼務」を前提とした体制としていなかったか。
・個々人の裁量に委ねる構造になっていなかったか。(暗黙の依存体質)
・外部要員(コンサル、PMO)に関する位置づけは、明確であったか。
・実効性を担保しえる「事項」を、検討しつくしたと言えるか。


以上、情報システム部門観点での、プロジェクト推進上での検討・検証ポイントについて、2回に分けて紹介しました。

情報システム部門は、社内関係部門や外部委託先会社の方々に、嫌がられても、常に「現状進捗がどうか、遅れ対策はできているのか、できるのか」などについて、常に問い続け、それを明確にし、全体を掌握することが重要な役割であり、その実効性がプロジェクトの成否を握っているといっても過言ではないと考えています。
特に、日本人特有の「あ・うんの呼吸」「暗黙の了解」「空気を読む」といったような考え方は一切捨て、事後や発覚時に「そうだと思っていた」ということが無いように、プロジェクト関係者全員に意識付けし、徹底することが肝要です。

次回は、「経営層」と「現場統括部門」という観点から、紹介したいと思います。

*1:プロジェクト事例概要

【プロジェクト事例概要】
■対象業務及びシステム
・売場、モバイル販売会計システム(売上管理)、顧客サービス系仕組みの改革(サービス向上、業務効率化)
・現場(拠点)は、全国3000ヶ所以上(一斉稼働を目指す)

■プロジェクトの体制
実業企業 *3における「情報システム部門」を主体とした開発体制で推進。
①上流工程
・コンサルティング企業A社の下で、業務改革基本構想を策定した。
・その基本構想を基に、経営層・現場統括部門に業務改革事項を説明し、システム化の了解を得る。
・カットオーバーは、一斉とした。
②システム開発
開発にあたり社内推進体制の脆弱性を懸念し、外部に開発マネージメントを委託した(PMO(Project Management Officer)を情報システム部門配下で)。また、既存システムとの連携や構築システムの特性を考慮し、それぞれに担当会社を選定した。
・既存の稼動システムとの連携・・・既存ホスト構築・運用B社
・タブレット型業務システム(改革対象システム)・・・開発担当C社
・売上管理システム(所謂POS(レジ)システム)・・・担当D社
・PMO・・・担当E社
・自社の情報システム部門でも、一部開発を受け持つ。
③現場教育、業務運用面
・現場統括部門を設定し、全面的に推進を委ねる。
・情報システム部門は、システム面での協力・支援体制で臨む。

*2:前回(第26回)の記事

*3:実業企業




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