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デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
吉田戦車の『伝染るんです。』にこんなネタがある。子供がスーパーに卵を買いに行くと、〈観賞用のならあるよ〉と店員に言われ、素直にそれをひとパック買うことにする。
〈食べたら死ぬよ〉
というその卵は明らかに腐っており、茶の間のテレビの上に飾られる。カビの生えた畳や土壁の汚れも相まって、部屋の陰気な空気をより濃くしているが、ボロをまとった子供の両親の表情は明るい。
〈部屋の中に卵が飾ってあるだ
その日暮らしは止めて
労働に疲れた都市生活者の饒舌は半ば必然的に本質論めくことになる。岡村星の『ラブラブエイリアン』や岡崎京子の『くちびるから散弾銃』など、女子だけの宅飲みは即興的に生成される哲学の宝庫であるかのようだ。たとえそれらがダイアローグからコマ単位で切り離されたとしても、アフォリズムとしての訴求力が削ぎ落とされることはなく、今では坂元裕二のファンにも強くアピールするだろう。
『大豆田とわ子と三人の元夫』の
言いたいことはよくわかった
『ベアゲルター』のコンセプトとして、著者の沙村広明が〈中二テイスト任侠活劇〉とうたうのは、いかにも彼らしい韜晦だろう。裏表紙には〈叛逆ずべ公アクション〉との惹句が踊る。
その物語の舞台となる石婚島は主人公・忍の故郷で、かつては漁業を主要産業としていたが、ドイツの大手製薬会社・ヒルマイナ社と大手暴力団・関西慈悲心会ならびに下部組織である躁天会の手によって売春島に改造させられ、経済が潤い、財政難の
侯孝賢と私の台湾ニューシネマ
平田オリザのロボット演劇は当然ながらにその新奇性に注目が集まり、夕方六時のニュースで取り上げられるまでに至った。どこのチャンネルだったかは忘れたが、VTRを受けての男性アナウンサーのコメントだけは今もはっきりとおぼえている。
「いつかロボットが感情を持つ日が来るかもしれませんね」
残念ながらそういうことではない。セリフをインプットされたロボットたちが、顔の表情や声の抑揚に頼らず(頼れず)、ただ
スウィンギン・キャラバン
『男はつらいよ お帰り寅さん』は移人称の映画である。物語のラスト、主人公の満男(吉岡秀隆)が書いた小説を媒介にして、一気に彼のなかでフラッシュバックする記憶は、劇中には登場しない寅さんとマドンナたちだけのもので、話法としてはかなりアヴァンギャルドなのだが、観客のシリーズへの長年の想いがのりしろとなって全く違和感を与えない。高圧縮の『ザッツ・エンタテインメント』は山田洋次なりのサーヴィスで、かつ歴
もっとみるTOCKA〔タスカー〕
王手またはチェックメイトを意味する「詰み」は、いささか響きが古風な割にはネットスラングに定着して久しく、「今月の電気代高すぎて詰んだ」「新学期3日目で便所飯とか詰んでる」というように、世代を問わずカジュアルに濫用されている。しかし、本当に詰んだ大人はそのことを口にする余裕も暇もなく、冷や汗をかきかきしながら何とか事態を収束させるべく走り回るしかない。金銭的に、社会的に詰んでしまうことの怖さ、惨め
もっとみる子供は判ってくれな(くてもい)い
奇書とひと口にいっても『ドグラ・マグラ』や『家畜人ヤプー』のようなメジャーどころから、目録マニア垂涎の希少本など様々で、毎週末に全国各地で行われる古本市には朝も早くから書痴が詰めかける。私にとっての奇書はそんな彼らからすれば間違いなく興味の対象外だろうし、悲しいかな、出版社が想定した読者層にとっても同じだろう。そのタイトルは『感動する仕事!泣ける仕事!』といい、学研から出た児童向けの学習参考書で
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