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いがわうみこさんが好きです。

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     PORINがPORINとして、押井守が押井守としての日常を生きる『花束みたいな恋をした』の東京で、雨宮まみはちがう名前と性格を与えられていた。それでも彼女がモデルであるとはっきりわかるライターの死は、有村架純が演じる絹に衝撃を与える。菅田将暉が演じる麦との付き合い始めに訪れた江ノ島の砂浜を茫然と歩く絹のモノローグが伝える喪失感は、雨宮さんの愛読者が2016年に味わったものだ。

     寄る辺ない都市

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    スウィンギン・キャラバン

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     『男はつらいよ お帰り寅さん』は移人称の映画である。物語のラスト、主人公の満男(吉岡秀隆)が書いた小説を媒介にして、一気に彼のなかでフラッシュバックする記憶は、劇中には登場しない寅さんとマドンナたちだけのもので、話法としてはかなりアヴァンギャルドなのだが、観客のシリーズへの長年の想いがのりしろとなって全く違和感を与えない。高圧縮の『ザッツ・エンタテインメント』は山田洋次なりのサーヴィスで、かつ歴

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     王手またはチェックメイトを意味する「詰み」は、いささか響きが古風な割にはネットスラングに定着して久しく、「今月の電気代高すぎて詰んだ」「新学期3日目で便所飯とか詰んでる」というように、世代を問わずカジュアルに濫用されている。しかし、本当に詰んだ大人はそのことを口にする余裕も暇もなく、冷や汗をかきかきしながら何とか事態を収束させるべく走り回るしかない。金銭的に、社会的に詰んでしまうことの怖さ、惨め

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    ボクの流儀

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     昨年春にネットプリントでリリースされた「溺死ジャーナル711-023」で、松本亀吉は雨宮まみとの思い出について書いている。その文中には吉田豪の名前も登場し、『帰ってきた 聞き出す力』のラストに収められた彼女への追悼文はこう評されている。
    〈雨宮さんのスタンスを鋭く分析しつつ、温かく優しく正直で、追悼文のアンソロジーがあれば巻頭に収録されるべき名文だった〉
     先述の亀吉さんのエッセイがまさにそうし

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    祈りにも似た何か

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     天才鬼才もその昔は赤ちゃんである。よちよち歩きを記録したフィルムは、のちに名を為しでもしなければ埋もれてしまうのが当たり前であったのだが、YouTubeやTikTokの流行によって、まだ誰でもない私の表現を世界に向けて投げかけることが可能になった。「やってみた」というテンプレのエクスキューズに自己顕示欲を指摘してもしょうがない。慎ましさを装った狭量な価値観がこの十年でひとまず無効化されたことはプ

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    バタフライ・アフェクツ

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     のんがインスタグラムにアップする写真には岡村靖幸や満島ひかり、吉岡里帆、森川葵がよく「いいね」を押していて、そうしたシンプルなエールのかたちは、無言であるだけにひと際の感情が込もってみえる。『あまちゃん』を地で行くかのような彼女のキャリアは、たとえば大友良英や渡辺えりのように直接的にバックアップする者など様々で、ファンとしてはただただ心強く、うれしい。

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    子供は判ってくれな(くてもい)い

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     奇書とひと口にいっても『ドグラ・マグラ』や『家畜人ヤプー』のようなメジャーどころから、目録マニア垂涎の希少本など様々で、毎週末に全国各地で行われる古本市には朝も早くから書痴が詰めかける。私にとっての奇書はそんな彼らからすれば間違いなく興味の対象外だろうし、悲しいかな、出版社が想定した読者層にとっても同じだろう。そのタイトルは『感動する仕事!泣ける仕事!』といい、学研から出た児童向けの学習参考書で

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     松尾スズキが『宗教が往く』を書くにあたり、小説というフィクションの約束事を利用するために整えたアリバイは、自意識過剰の産物と言えばそうで、しかしその長いプロローグは含羞のほどをよくあらわすものだ。何様意識に敏感な彼はナンシー関と同い年である。私小説のマナーに則って描かれる初婚の妻とのライフスタイルは、まあヤクザ的であり、当の本人らも一般人に対して少なからずの優越感を覚えていることが見てとれる。そ

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    〈笑いは難しいが、いわばヒットエンドランのようなもので、うまくいけば好機に転じる(撃ち合いもね)。賭けである。最近誰かが「批評は賭けだ」などと偉大なことを言ったが、笑いもまた賭けだ。この賭け抜きでは作品は魅力的になってくれない〉(青山真治『宝ヶ池の沈まぬ亀』より)

     「ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー」で若木康輔のパートナーを務める大澤一生が開演の挨拶を済ませ、本日の主役を呼び込むと、カッ

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     橋爪功演じる絵里子はトランスジェンダーの美的生活者で、好き嫌いの感情がはっきりしている。日常で普段接する人間に対してもジャッジの目はきびしく、ウマが合わないと判断するや、速攻で心にシャッターを下ろす。川原亜矢子演じる主人公・みかげは絵里子のお眼鏡にかなったのだろう。両手いっぱ

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    夜がまた来る

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     『ラストナイト・イン・ソーホー』を観ながら『ソーホータラレバ娘』という邦題が頭に浮かんだので、感想文のタイトルもそれにしようかと思ったのだけれど、意味や語呂はともかくとして、映画のテイストとかけ離れ過ぎているし、何より日本人である私にとって、夜の闇に巣くう男たちの悪徳は、九〇年代の石井隆の諸作品を通じて馴染み深いものでもあるから、結局は『夜がまた来る』に落ち着いた。

     「もしも私がブロンドのパ

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    愛なき時代に生まれたわけじゃない

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     老いてなおプレイボーイたるウディ・アレンの作風を水道橋博士が『夢の砦』に例えて間もなく、彼はハリウッドを追放された。引用されたタイトルは、小林信彦の代表作のうちのひとつ。主人公の辰夫のキャラクター造形は『ヒッチコック・マガジン』の編集長だった著者の体験をベースとしており、セリフには氏のエッセンスが詰まっている。例えば「モラリスト」について。

    〈人間のあらゆる欠点を知り尽くした上で、なおかつ、自

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    オールド・ニュー

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     映画本なんかを読むと、著者の世代が上でも下でも、登場する固有名詞は、大体がおなじみのものだ。未見の作品ですら、なんとなくのイメージは浮かぶ。地方民がスクリーンで観られる映画の本数は、東京民にくらべて断然劣るが、ラピュタ阿佐ヶ谷の上映スケジュールを眺めてはギリギリと歯噛みできるだけの知識は備えていたりする。普段からプロデューサーや監督、脚本家、俳優等が著した本を読めば、映画史と人脈が自然と頭に入っ

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    アジアの純真

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     ヒッチコックときいて、まず思い浮かぶのはトリュフォーではなく宇多丸の世代で、頭のなかでは、岡村靖幸さらにRHYMESTERの「マクガフィン」が流れる。『北北西に進路を取れ』や『疑惑の影』、『知りすぎていた男』などのタイトルがリリックに織り込まれた傑作で、作曲の岡村ちゃんのペンも冴えている。マクガフィンを笠原和夫流に言い換えるならば「オタカラ」だろうか。敵味方のあいだで揺れ動く、物語のエンジン。

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    半透明な彼女たち

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     六〇年代の日本映画、とくに大映のなんかを観ていると、やたらに登場人物が「ドライ」という単語を口にする。努めてそうあろうとする青年たちは慎太郎刈りで、スーツを着た太陽族といった趣だ。多感な十代に『太陽の季節』や『処刑の部屋』のアンチモラルな世界に触れたおかげで、日本ならではの情緒的な人間関係を忌むべきものと信じて疑わない。ドライな身振りは旧来的価値観へのカウンターであり、父母世代の年長者が眉をひそ

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    ときめきに死なず

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     わたしの部屋は絵にならない。その時々の経済状態に応じてテキトーに買った収納にCDや本・マンガ、服を突っ込んでって今がある。雨宮さんの本のタイトルにならえば「自信のない部屋」です。

     POPEYEなんかで取り上げられるシティボーイズ&ガールズのていねいな暮らしを具現化したような日当たり良好の部屋はもちろん、それとは対照的な、佐々木敦の事務所や草森紳一の終の住み処だって、なんだかんだでカオティック

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