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なんとなくいいな、の世界
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#創作大賞2024

とんかつエレジー

とんかつエレジー

家を出る前から、今日の夕飯はあの店で食べると決めていた。

昔、近所に住んでいた頃に、家族3人でたまに通っていたあのとんかつ屋さんのことだ。

東京の有名店ののれん分けのお店だから、味はもちろん間違いないけれど、それ以上にひたすらおいしいとんかつを揚げることに集中しているいかにも職人気質な無口のおやじさんとひとりひとりのお客さんの様子を見ながら本当に必要な時にだけ本当に絶妙なタイミングで声をかけて

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タクトト

タクトト

ノート。

君がまだ3歳の頃、かかは君を連れて家を出た。場所は知らされなかった。

その場所に君のおもちゃはあるのか?

それが真っ先に気になった。家には君のおもちゃが散らかったままだった。

その1週間後、ファミレスで君と会える可能性があると告げられる。

僕は古本屋に走り、君が好きな乗り物やキャラクター、動物の本をたくさん買った。その絵をハサミで切り取って、のりで貼り付けて1つのノートを作り始

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短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

 妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。
 わかっているんだ。家族の誰もが。だけど何も言えやしない。
 傷ついても、恥ずかしくても、怒っても、どうしたって、妹の頭は大きくなって、その成長を止めることは出来ない。

 (一)

 妹は僕の八つ下で、ぼくにとっては目に入れても痛くない存在だった。だけど、そんな例えですら口にするのも憚られるくらい、妹の頭は大きくなっていた。
その始まりはた

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親孝行、させてくれてありがとう。

親孝行、させてくれてありがとう。

私事ですが、先週、父が他界しました。
個人的な価値観として、死というものに対して、全く悪い感情を持っていないことや、孫まで含めた家族全員の見守る中で、父が最期を迎えられたこと、もう三年以上、透析治療や認知症の症状を抱えながら、ほぼ寝たきりで父が過ごしてきたこと……などから、いまは、父が清々しく自由になったという感覚のほうが強く、心穏やかに毎日を過ごしています。

氣分転換も兼ねて、noteもちょく

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ある日の美しい夕焼け空を、ここで一緒に眺めていきませんか?

ある日の美しい夕焼け空を、ここで一緒に眺めていきませんか?

最後にゆっくり空を眺めたのはいつですか?

昨日?先月?それとも1年前?

最近、夕焼けが綺麗な日が多いんですよ。
晴れていて長く夕焼けが見られる日なら
今の時期なら18:50〜19:30位まででしょうか。

わたしは、できることならこの時間帯は
ずっと空を眺めていたいくらいです。
綺麗に見える場所を探したりして。笑
ほんの20〜30分ほどの間に刻々と色が変わり、
夜に移り変わっていくのを眺めてい

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クズは払込用紙をコンビニに持っていくことすらできない

クズは払込用紙をコンビニに持っていくことすらできない

 クズ。それはしばしば倫理観の欠けた人間に向けて投げかけられる罵倒である。かくいう私も「クズだね」と罵ったこともある。もちろん、どんな時でも私は「クズ」を言う側であり、言われる側ではないことは言を俟たない。
 そう思っていたのだが、つい最近全然クズらしいことをしていないのにもかかわらず、友人に「クズが」と言われた。
 まだ、(納得はしないけれど)クズは許せる。しかし、「が」は本気でそう思っていそう

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すっかり忘れてしまっていた、水と油だった母と私、とお雛様。

すっかり忘れてしまっていた、水と油だった母と私、とお雛様。

昨日みなさんが、
記事や、記事の内容に関係なくても
見出し画などを「お雛様」にしていて
突然思い出したんです。

わたしが幼い頃、
実家には7段のものすごく豪華な雛人形があった

ことではなく、

わたし、すごくちっちゃなお雛様持ってる!

ということを。

その昔、もともとうまくいかない
関係だった母と決定的な仲違いをし縁を切り、
当時わたしは離婚した直後でしたが、
実家を出ました。

その後1

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議論で愛💝を語るな!

議論で愛💝を語るな!

 この度、「議論で愛を語るな!」(わたしの現代新書)という本を上梓した。

 課題が山積する現代ほど、多様な議論が必要とされる時代はない。
 しかしながら、「人に優しい」「癒される」「共感できる!」ことばかり追求して、物事の本質に迫る徹底的な議論というものが欠如している。
 
 議論は喧嘩ではない。殴り合いでもない。人を論破して打ちのめすためにあるのでもない。
 議論とは、絶対的な真理に近づいて行

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小説家になる夢はアダルトビデオを観て諦めた

小説家になる夢はアダルトビデオを観て諦めた

 十年経っても忘れられない思い出がある。それは私が中学生か、高校生の頃だっただろうか。夏の夜、友人数人とアダルトビデオを見る機会があった。
 経験のない私達は練習の一環としてその儀式(?)を行い、来るべき日のために知識を共有、ひいては自身に落とし込む必要があった。今考えれば正気の沙汰ではないし、勿論大人数でする必要はない。一人でやればいい。ただ、当時の私達はそう考えるには些か若く、視野が狭かった。

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言葉より大切なもの

言葉より大切なもの

息子と2人で釣りに行くのは、なんとほとんど3年ぶりだった。

でも、その間、一時はもう二度と行けないのではと思っていた時期もあったくらいだから、むしろ再開できただけでも嬉しかった。

ちなみに今回の釣りスポットとなる多摩川の下流の汽水のある場所の近くには大きなお寺があったから、まずは神頼みだよね、という話になって、そこでお参りをした。

いつも以上に時間をかけてお祈りする彼の横顔を永遠に見つめてい

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短編小説 | Message~私はあなたを許す~

短編小説 | Message~私はあなたを許す~

どこかの、やさしい、だれかは
わかっているよ。

あなたが、こどもをあいせなくて
くるしんだこと。
そのことを、だれにも、うちあけられずに
くるしんだこと。

こどもから、にげるように
トイレにこもったこと。
SNSにいぞんして、げんじつから
にげていたこと。

ゆうがた、なきさけぶ、こどものこえに
みみをふさいで、ないたこと。

こどもの、ねがおに
なきながらあやまった、ひび。

どこかの、だれ

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魔法を信じ続けるかい?

魔法を信じ続けるかい?

うちはこれまで毎年、クリスマスには必ずサンタクロースが来てくれて、息子の欲しいプレゼントを届けてくれていた。

ちなみに、直近の戦績(?)は以下の通りである。

2020年(7歳): 釣り竿セット
2021年(8歳): 任天堂Switch
2022年(9歳): 緑色の自転車

しかし、今年、彼から欲しいものを聞かされたとき、これはさすがのサンタでも無理かもしれない、と正直、思ってしまった。

だっ

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いい子になる方法

いい子になる方法

落ち込んでいた夜

一人で寝るのが寂しいなぁ、と思っていたら、僕の部屋のドアを開けて、枕を抱えた息子が入ってきた。

優しい子だから、僕の気持ちを察して来てくれたのかなと思ったら、なんてことはない。

彼も僕と同じかそれ以上に落ち込んでいたのだった。

暗闇の中、その落ち込みの理由について、いつもの調子とは違う頼りないボソボソとした声で息子は語り始めた。

「最近、お母さんがイライラしたり、すぐ怒

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