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140文字小説

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Twitterで日々投稿している140文字小説をまとめたものです。
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2021年8月の記事一覧

僕は待つ (140文字小説)

僕は待つ (140文字小説)

 改札口から人が流れてくる。

 たくさんいる。

 顔馴染みもいる。

 知る人は手を振ってくれる。

 今日も駄目なのかな。

 僕は項垂れ、踵を返し家に戻る。

 ご飯を食べて、床についた。

「ハチ。もう先生はいねえんだよ…」

 彼はなんと言っているのだろう。

 人の言葉がわかればと、僕はいつも思う。

クイズ王にも勝つ! (140文字小説)

クイズ王にも勝つ! (140文字小説)

 指が強張る。

 集中だ。

 耳を研ぎ澄ませ。

 目を見開け。

 さあ来い。準備は万端だ。

 今の俺の集中力なら、間違いなくクイズ王にも勝てる。

 ガチャ。合図が鳴った。

 ハラリ。なんの音だ。

 カーテンの隙間に集中しろ。

「ベランダにぶら下がっている男!降りて来なさい!」

 ちっ!ここで脱落か。

雨を歩く (140文字小説)

雨を歩く (140文字小説)

 パラパラと雨が鳴る。

 雨粒達が軽快に窓を叩く。

 こんな日は、傘を持たずに外に出たいと私は思う。

 自然のシャワーにからだを洗われるけど、水溜まりにも足を落としたくなる。

 雨は人間みたいだ。

 いないと生きられない。

 けれど度が過ぎれば災いもある。

 それでも、私は雨の中を歩くのだ。

ままならないことばかりだ (140文字小説)

ままならないことばかりだ (140文字小説)

 ままならないことがある。

 たとえば親の転勤。

 ガキの俺は、当時、抗う力がいなかった。

 ─20歳になったら会おうね。

 引っ越しの日の、あの子との約束。

 約束の場所に、大人のあの子?が来た。

 あなたが…君?

 あの子は死んだの。私は伝言係。

 好きでした、約束守れずごめんね。

 だそうよ。

約束はただの保険 (140文字小説)

約束はただの保険 (140文字小説)

 約束は保険だった。

 お互い、三十まで独身なら結婚しようぜ。

 同僚の酒の席での戯言。ただの保険だ。

 でも保険を使う歳になってしまった。

 しかし約束を履行する直前、同僚の海外転勤が決まった。

 約束はご破算だ。

 の、はずだったのに…

 約束は守る、とあいつは会社を辞めた。

 本当、バカ…

前略、旦那さま (140文字小説)

前略、旦那さま (140文字小説)

 前略、文雄様。

 今日は奏太の七歳の誕生日です。

 はやいものです。

 貴方と別れて、五年が経ちます。

 奏太は、近ごろ貴方のことをよく訊ねます。

 その度、私は答えに窮します。

 天国より私達を見守ってください。

 追伸

 貴方とあの女は、まだ発見されておりません。

 私が隠した、山の中です。

僕は不純でしょうか (140文字小説)

 今日も同じ顔が並んでいる。

 6:55。停留所の光景は固定だ。

 学生服の男子。スーツの男性。

 そして、彼女。

 今日も、彼女はシトラスだ。

 爽やかで酸味のある香りが、今日も僕の鼻をくすぐる。

 凛とする彼女の仕事はなんだろう。

 彼女の職場に就職したいと思う僕は、動機が不純でしょうか。

モ○スターハンターSAGI (140文字小説)

モ○スターハンターSAGI (140文字小説)

 目覚めると、大型モンスターが歩いていた。

 俺は、巨大な剣を扱うハンターとして生きることにした。

 今日のクエストは相棒の弓使いとだ。

 くっ、手強い奴だ!

 ぐわっ!

 突如、身体が痺れた。

 これは麻痺ビンか?

「こいつら異世界人が大好物でね、悪いけど囮になってね!」

 だ、騙された~!

娘の魂胆 (140文字小説)

娘の魂胆 (140文字小説)

 とんとん、ととん。

 リズミカルに肩が跳ねる。

 娘が珍しく、叩いてくれている。

 なにか魂胆があるのだろう。

 五千円まではねだられてやるか。

「ねぇ、お父さん」

 来たな。

「なんだい?」

「お願いがあるんだけど」

「いくら欲しいんだ?」

「十万!」

「十万!?」

「うん。堕胎費用で」

嘘つきは、好きだよのはじまり (140文字小説)

嘘つきは、好きだよのはじまり (140文字小説)

 君が死ぬまで、毎日好きと言うよ。

 そう言っていたのに。

 嘘つき。

 遺影を見ると、私は顔を上げていられない。

 初七日も終わり、絶望は増すばかり。

 突如、携帯が通知を奏でた。

「好きだよ」と、彼のアカウントからのメッセージ。

 彼は、ベッドで一生分のメッセージを予約していたのだ。

風になれ (140文字小説)

風になれ (140文字小説)

 歓声は心地よいBGMだ。

 鼓動と重なり、身体のギアを一段ずつ上げてくれる。

 地に膝を立て、首を起こす。

 ゴールが見える。

 号音が競技場を翔ると、およそ十秒後には結果が決まる。

 これほど、競技時間とトレーニング時間のコスパが悪い競技もない。

 さあ、初の決勝だ。

 楽しんで、風になれ。

償いと涙 (140文字小説)

償いと涙 (140文字小説)

「さよなら」
 俺の腹に生えたナイフを見下ろし、彼女は静かに呟いた。

 一年前、告白された。
 戸惑ったけど、俺はOKした。
 でも、彼女の秘密はわかっていた。
 それでも、俺は──

 ごめんよ、俺が君のお父さんを轢いてしまったから。

 ──君に償いたかった。

 涙?
 どうして君が泣くの?

嫉妬の権力(ちから) (140文字小説)

嫉妬の権力(ちから) (140文字小説)

「俺とつき合え」

 校内一のイケメンに、廊下で壁ドンされた。

 女子達が鬼の形相で私を睨んでいる。

 受験も近いのに、面倒事はご免だ。

 彼がいるから、とやんわり断った。

「今日、廊下でイケメンに告白された」と、彼に報告。

「あいつの内申書に細工しとく」

 イケメン、面倒事になったね…

bath (140文字小説)

bath (140文字小説)

 私がこの世で一番好きな場所はお風呂だと思う。

 ほかほかの湯の船にからだを浸す喜び。

 細かい水の粒にからだを叩かれる心地よさ。

 全身をしっとりと包むふわふわとした泡。

 全てが癒しで、ここにお布団も敷きたいと、私は思う。

「お姉ちゃん早く出て!毎日四時間もお風呂占拠しないで!」