記事一覧

【映画感想】『オッペンハイマー』~ノーランによる査問会映画、誕生~

 クリストファー・ノーランの最新作『オッペンハイマー』を観た。本年度のアカデミー賞最多部門ノミネート&受賞、ということで知っている人も多いだろう。  ノーランと…

binx
3か月前
7

【読書感想】『一神教と帝国』~知っているようで知らない、イスラームの世界~

 マンガやアニメは、いまや日本が世界に誇るコンテンツであることは、周知の通りだろう。つい先日も、漫画家の鳥山明氏の訃報が、海外のメディアで大きく取り上げられてい…

binx
4か月前
3

【読書感想】『バスタブで暮らす』~社会から阻害されたすべての人たちに捧げる傑作小説~

バスタブで暮らす | 書籍 | 小学館 (shogakukan.co.jp)  本書の著者・四季大雅という作家を、どれくらいの人が知っているだろうか。  日頃からライトノベルをよく読ん…

binx
9か月前
4

【読書感想】『教育虐待』~現代日本の大いなる病の諸相を鋭く描写した好著~

教育虐待──子供を壊す「教育熱心」な親たち | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン (hayakawa-online.co.jp)  いい大学に入って、いい会社に入って、そして高い給料を…

binx
10か月前
5

【読書感想】『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』

  ・・・・・・どうやら、文学の場合、越えがたい言語や文化の壁というものはないのでしょう――――スタニスワフ・レム  あふれんばかりの情熱を持った人間に、不可能はない…

binx
1年前
7

【読書感想】『学校では教えてくれない生活保護』

「最後のセーフティネット」生活保護。しかし一方で「不正受給」というキーワードや「ナマポ」といった蔑称により、その制度そのものが強く不当な非難に晒されているのもま…

binx
1年前

【読書感想】『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』

 イタリア映画と聞いて、何を想像するだろうか。『ニュー・シネマ・パラダイス』や、『ライフ・イズ・ビューティフル』、昨年から続くロシアのウクライナ侵攻を機に上映さ…

binx
1年前
3

【読書感想】旅するモヤモヤ相談室

 本書は、様々な学者へのインタビューからなる、タイトル通り「相談室」のような本だ。  インタビューを受ける学者たちは皆、何らかの形でフィールドワーク研究を行って…

binx
1年前
5

【読書記録】メタバース、タリバン、般若心経

『メタバース進化論』  最近つとに話題のメタバース。メタバースについての解説本は毎週のように出ているが、本書はメタバースの住人である、バーチャル美少女ねむ氏が筆…

binx
2年前
2

倍速視聴、資本論、神話、ハレム

『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史、光文社新書)は、最近よく耳にする、いわゆる「倍速視聴」を習慣とする人たちの姿を浮かび上がらせる一冊。1.5倍速どころか2倍…

binx
2年前

【映画感想】『オッペンハイマー』~ノーランによる査問会映画、誕生~

 クリストファー・ノーランの最新作『オッペンハイマー』を観た。本年度のアカデミー賞最多部門ノミネート&受賞、ということで知っている人も多いだろう。

 ノーランといえば、今や押しも押されぬハリウッドの巨匠監督だ。そして、そんなノーランが今回、テーマに選んだのが、原子爆弾開発の中心人物・理論物理学者・ロバート・オッペンハイマーだ。

 公開前から随分と話題をさらっていた本作だが、この映画を観た感想を

もっとみる

【読書感想】『一神教と帝国』~知っているようで知らない、イスラームの世界~

 マンガやアニメは、いまや日本が世界に誇るコンテンツであることは、周知の通りだろう。つい先日も、漫画家の鳥山明氏の訃報が、海外のメディアで大きく取り上げられていた。フランスでは出版物の三分の一が日本の「マンガ」となっているという話も聞く。

 そんなアニメ・マンガの人気は、実は西洋に限った話ではない。トルコをはじめとした、イスラーム文明圏の国々でも、アニメ・マンガは大人気なのだ。そんな話題から始ま

もっとみる

【読書感想】『バスタブで暮らす』~社会から阻害されたすべての人たちに捧げる傑作小説~

バスタブで暮らす | 書籍 | 小学館 (shogakukan.co.jp)

 本書の著者・四季大雅という作家を、どれくらいの人が知っているだろうか。

 日頃からライトノベルをよく読んでいる、という人には説明は不要だろう。昨年『わたしはあなたの涙になりたい』で小学館ライトノベル大賞を受賞、規格外のクオリティのデビュー作として耳目を集めた。その後『ミリは猫の瞳の中に住んでいる』で電撃小説大賞の金

もっとみる

【読書感想】『教育虐待』~現代日本の大いなる病の諸相を鋭く描写した好著~

教育虐待──子供を壊す「教育熱心」な親たち | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン (hayakawa-online.co.jp)

 いい大学に入って、いい会社に入って、そして高い給料を貰って、幸せな人生を送って欲しい。自分のこどもに対して、そう願う親は多いだろう。

 では“いい大学”に入るためにはどうすれば良いだろうか?そのためには、いい高校に入らないといけない。だがそのためには、その前

もっとみる

【読書感想】『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』

 
・・・・・・どうやら、文学の場合、越えがたい言語や文化の壁というものはないのでしょう――――スタニスワフ・レム

 あふれんばかりの情熱を持った人間に、不可能はないのかもしれない。本書を読んで素朴に感じたのは、そういうことだった。

 とあるルーマニア映画に「辞書で頭をぶん殴られたような衝撃を受けた」著者は、それをきっかけにルーマニア文化にのめり込み、ルーマニア語の独学を開始、フェイスブックで

もっとみる

【読書感想】『学校では教えてくれない生活保護』

「最後のセーフティネット」生活保護。しかし一方で「不正受給」というキーワードや「ナマポ」といった蔑称により、その制度そのものが強く不当な非難に晒されているのもまた事実だ。

 そんな生活保護に対する偏見や無知を解きほぐし、より的確に把握するのに大きな役割を果たしてくれるのが本書『学校では教えてくれない生活保護』だ。

 例えば、この本を読むまでは筆者自身も、生活保護は車を持っていては受給できないと

もっとみる

【読書感想】『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』

 イタリア映画と聞いて、何を想像するだろうか。『ニュー・シネマ・パラダイス』や、『ライフ・イズ・ビューティフル』、昨年から続くロシアのウクライナ侵攻を機に上映された『ひまわり』、あるいは『鉄道員』等々、人によって想起する作品は色々だろう。

 そんな映画大国・イタリアの映画史をコンパクトにまとめてくれるのが本書『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』だ。

 サイレント時代からネオレアリズモ、そ

もっとみる

【読書感想】旅するモヤモヤ相談室

 本書は、様々な学者へのインタビューからなる、タイトル通り「相談室」のような本だ。

 インタビューを受ける学者たちは皆、何らかの形でフィールドワーク研究を行っている人たち。その語りを読みながら、読者は多種多様な文化について、その一端知ることができる。

 世界には、およそ想像もつかないような世界観を持った文化がある。そういった「異文化」の描写は、日本社会では「常識」とされていることを相対化する視

もっとみる

【読書記録】メタバース、タリバン、般若心経

『メタバース進化論』
 最近つとに話題のメタバース。メタバースについての解説本は毎週のように出ているが、本書はメタバースの住人である、バーチャル美少女ねむ氏が筆者となっている点が面白い。メタバースとは何か。その実態を、沢山のデータと共に解説してくれる好著。メタバース初心者の私にとって最適な入門書となった。

『おしえて!タリバンのこと』は、アフガニスタンのイスラーム組織、タリバンについて分かりやす

もっとみる

倍速視聴、資本論、神話、ハレム


『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史、光文社新書)は、最近よく耳にする、いわゆる「倍速視聴」を習慣とする人たちの姿を浮かび上がらせる一冊。1.5倍速どころか2倍速で映画を観る人々も珍しくない。なぜそのような習慣が流行るのか。それは「作品を鑑賞する」のではなく、「コンテンツを消費する」という姿勢だからこそ、とにかく効率よく摂取することばかりが重視されていくからだという。私自身は倍速視聴をしない

もっとみる