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書評

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文学、芸術、歴史を中心に、書評だけでなく、そこから思い付く思想を展開します。
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記事一覧

<書評>『ラスコーの壁画』

<書評>『ラスコーの壁画』

『ラスコーの壁画 La Peinture Prehistorique Lascaux ou La Naissance de L’Art』 ジョルジュ・バタイユ Georges Bataille 出口裕弘訳 二見書房 1975年 原書はGeneve, Suisse 1955年

 原題を直訳すれば「芸術の誕生であるラスコーの原始絵画」。20世紀のフランスの哲学者であるジョルジュ・バタイユの名著の一つ

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<書評>『The Long Good-Bye 長いお別れ』

<書評>『The Long Good-Bye 長いお別れ』

『The Long Good-Bye 長いお別れ』 Raimond Chandler レイモンド・チャンドラー  Penguin Books 1959 ペンギンブックス1959年版を Reissued in this edition 2010 2010年に再版

 1888年にアメリカのシカゴで生まれたチャンドラーは、幼少時英国に移住したが、その後またアメリカに戻った。彼は20世紀の優れた散文の書

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<書評>『悲劇の死』

<書評>『悲劇の死』

『悲劇の死 The Death of Tragedy』ジョージ・スタイナー George Steiner 喜志哲雄 蜂谷昭雄訳 筑摩書房 1979年 原書は1961年

 本書の内容は、もちろん本文が中心なのだが、スタイナーによる最後の解説的な第10章とそれを補足する訳者の解説は、最初に読むべきだと思った。最初に読んでいれば、本文の感じ方がかなり異なった気がする。

 アメリカ人ジョージ・スタイナ

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<ラグビー及びエッセイ>『スワーブをきりながら(私とラグビーとの長い旅)』

<ラグビー及びエッセイ>『スワーブをきりながら(私とラグビーとの長い旅)』

 2024年4月4日、『スワーブをきりながら(私とラグビーとの長い旅)』というエッセイを、Amazonの電子書籍及びペーパーバックで出版しました。

 これは、私が大学時代にラグビーに出会ってから、その後社会人(国家公務員)となり、いろいろな海外で勤務をしながら、現地でラグビー、タッチフットなどをしてきたこと、そして息子の(全国大会出場経験のある)高校ラグビーの父兄としての経験など、40年にわたる

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<書評・芸術一般>『デュシャンの世界』芸術とは生きること

<書評・芸術一般>『デュシャンの世界』芸術とは生きること

 『デュシャンの世界 Entretiens avec Marcel Duchamp(フランス語原題を直訳すれば、「デュシャンとの談話」)』Marcel Duchamp マルセル・デュシャン、 Pierre Cabanne ピエール・カバンヌ、Pierre Belfond ピエール・ベルフォン 1967年 Paris パリ。日本語版は、岩佐鉄男及び小林康夫訳 朝日出版社1978年。

 20世紀最高

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<覚書>『現代思想 総特集 ウィトゲンシュタイン』

<覚書>『現代思想 総特集 ウィトゲンシュタイン』

『現代思想 総特集 ウィトゲンシュタイン』1985年12月臨時増刊 青土社

 いつものような書評ではなく、難解な哲学論文が多数入っていることもあり、その中から私の琴線に触れた部分を抜き書きしたい(特に私が重視した部分を太字にした)。特に、文学や芸術との関連は強く興味を惹かれたが、言語に関する論考も同じくらいに興味を惹かれた。

 なお、最後の日本の哲学者たち3人による鼎談において、ウィトゲンシュ

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<書評>『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

<書評>『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ Rosencrantz and Guildenstern are dead』 トム・ストッパードTom Stoppard 著 松岡和子訳 原著は1967年 翻訳は1985年 劇書房

 20世紀を代表する不条理を描いた劇作家の一人、チェコ人ながら英語圏で成長した英語作家のトム・ストッパードによる、シェイクスピアの『ハムレット』に名前だけ登場する人物二人

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<書評>『この人を見よ』

<書評>『この人を見よ』

『この人を見よ ―人はいかにして本来のおのれになるのか―Ecce Homo』フリードリッヒ・ウィリヘルム・ニーチェ Friedrich Wilhelm Nietzsche 手塚富雄訳 岩波文庫 1969年  原著は1894年

 晩年のニーチェが、『悲劇の誕生』、『反時代的考察』、『人間的な、あまりに人間的な 及び二つの続編』、『曙光』、『たのしい知識(または悦ばしき学知)』、『ツァラトゥストラ』

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<書評>『ヨブへの答え』

<書評>『ヨブへの答え』

『ヨブへの答えAntworr Auf Hiob』カール・グスタフ・ユング著 林道義訳 Carl Gustav Jung ラシェールフェルラーグ社、チューリッヒ Rascher Verlag, Zurich 1952年、日本語版は、みすず書房 1988年。

 旧約聖書の中で、最も報われない不幸の連続に遭う可哀そうな代表が、「ヨブ記」のヨブだ。なにしろ、ヨブは熱心に神を信仰するのだが、信仰が進むにつ

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<書評>『チャクラ・異次元への接点』

<書評>『チャクラ・異次元への接点』

『チャクラ・異次元への接点』 本山博著 1978年発行 宗教心理学研究所出版部

 ユング心理学とかオカルト文学などをやっていくと、自ずとヒンズー教やヨガ、そして身体の中心を構成するチャクラの概念に行くつく。私は学生時代、その直前まで行ったが、実際に修行することは選択しなかった。そんな経済的な余裕はなかったからだが、そのうちにオウム真理教事件が発生して、この関連情報は社会的なタブーとなり、またこの

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<書評>『プロメテウス ギリシア人の解した人間存在』

<書評>『プロメテウス ギリシア人の解した人間存在』

『プロメテウス ギリシア人の解した人間存在』 カール・ケレーニイ著 辻村誠三訳 叢書ウニベルタス 法政大学出版局 1972年

 20世紀最大の神話学者カール・ケレーニイが、ギリシア神話の中でも、特殊な神であるプロメテウスについて研究した初期の頃のもの。

 プロメテウスは、人類に火を与えたことでゼウスから永劫の罰を受けた反逆者である。その観点からは、神よりも人に近い存在だが、永劫の罰を受けても決

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<書評>『アラビアン・ナイト』(第10巻以降)

<書評>『アラビアン・ナイト』(第10巻以降)

『アラビアン・ナイト』全18巻及び別巻 前嶋信次(前島氏逝去後は池田修)訳 平凡社 東洋文庫 1966年7月10日第1巻初版発行 1992年6月10日第18巻初版発行

(以下、参考までに第9巻までをまとめたものの冒頭解説部分を再掲)

 「アラビアン・ナイ」、「シエラザード」、「千夜一夜物語」という様々な名前で呼ばれる、世界的に有名な説話集をアラビア語原典から全訳したもの。全訳完成までには、発行

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<書評>『教育術』

<書評>『教育術』

『教育術Eeziehungskunst Methodisch-Didaktiscehs』 ルドルフ・シュタイナー Rudolf Steiner 著 坂野雄二・落合幸子訳 1989年 みすず書房 原著は1939年発行

 神智学(人智学)のルドルフ・シュタイナーによる、副題にあるとおり、「1919年8月21日から9月5日にかけて、シュトゥットガルトにおいて開催された14日間の講演集」の速記録をまとめ

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<閑話休題>「オカルティズム」(「ユリイカ」別冊1974年)から

<閑話休題>「オカルティズム」(「ユリイカ」別冊1974年)から

 <書評>というものではないが、雑誌「ユリイカ」別冊のオカルティズム特集号(1974年)を読んでいて、面白かった、あるいは参考になったことが三ヶ所(以下に雑誌のページで表示)あったので、<閑話休題>として紹介したい(また、各項目の後段に私の感想を付けた)。

 なおこの特集は、文芸雑誌であるため、疑似科学のようにオカルティズムの具体的な方法や実例を面白半分に紹介するのではなく、オカルティズムと深い

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