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夜 yoru

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〈夜〉
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『明日もウジウジ』

『明日もウジウジ』

『明日もウジウジ』

君は言うんだ。それは、さぞ楽しいんだろう。私も言うんだ。だって、言わなきゃ、私が私を言わなきゃ、誰が庇ってくれるっていうの。

そんなんだから、可愛くないんだ。

ねぇ。可愛いって何。愛せる可能性ありってこと?それはつまり、五月蝿いお前は愛せないから、ぬいぐるみみたいに黙れってことー?ドールのように。?

あー、そんなことばっかり考えるから、あの子より睡眠時間が足りなくて、お

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『盲信駆けっこ』

『盲信駆けっこ』

『盲信駆けっこ』

走って行って気付いてた
手の中に何も無いこと
気怠い空気を変えられないまま
走ってた

光の粒が見える
それはまだ遠い先の信号みたいに
点滅したり消えたりしていた

強くなりたい
そう思ってた
強くなれば全て解決するんじゃないかって
甘く考えてた

見つけられると信じること自体が
心の支えになっていた
何を見つけたいかなんて
どうでもよかった

『僕のBGM』

テレビから流れる音楽に、ふいに意識が奪われる。聴き慣れた声だ。これは、僕が高校生から聴いていた、あの曲のあのバンドの歌声だ。だけど聴き慣れないメロディ。彼らの新しい曲とは友達になれないまま、僕はだいぶ昔に大人になった。あの歌声は誰のものか瞬時に分かる。分かるけれども、僕の知っている彼の歌声と微かに違う。彼の歌声は歳を取っていた。曲の温度に関しては好き勝手に共感できるのに、あの言語の意味は解らない。

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『言うな、って言ってみたい。』

「好きだって言ったら、それは言葉だけ残って、"時間"が全部奪っちゃうの。

だからさ、何も言えないんだ。」

って、君が言いそうなんだけどさ。

そんな程度なら"時間"が可哀想だ。罪を押し付けられてさ。君と僕にしか分からない秘密。変な色の組み合わせでできた絵。君と僕で紡いだ暗号だらけの物語。そのページ数を増やしてくれるのは確かに時間かもしれないけれど、物語の文字を考えて決めたのは、僕らなんじゃない

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『反対側を考えるのに飽きてきた夜』

「やだな」って言葉を使うのが嫌だなって思うのに、どうやっても「やだな」って言ってしまって、更にもやもやする夜。それとよく似合う夏の高温多湿なこの感じ。

空気の中身がすかすかになって乾き切っていた、半年前のあの冬が恋しい。もうすでに懐かしく思える。枯れたあの季節になれば、また心も変わるのかしら。悪循環の快調さに歯止めをかけたい。

冬になったらきっと、

きっと忘れるんだろうけど。

こんなどうで

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『心水に浸って酔っている君が嫌い』

『心水に浸って酔っている君が嫌い』

『心水に浸って酔っている君が嫌い』

いつだって浸水していく。君が嫌いだ。

見えすいた嘘を愛している、君が

本当に愛しているのは、何もないところ。

穴だらけですっからかんの、君が嫌いだ。

触れれば溶けそうな、君が嫌いだ。

穴に落ちそうだと可愛く叫んでいる、

君が嫌いだ。

『分岐するように伸びる可能性』

『分岐するように伸びる可能性』

『分岐するように伸びる可能性』

おいしい話にしたいから
透き通る血管を何度も分岐させた
何度も何度も収縮と膨張をして
張り巡らせた賜物
つまみ上げることのできる
その器用な指先

人口密度の高くない都会の無人駅
無機質な個体が息を取り戻している
もうここには月あかりも届かないから
遠くの航空障害灯だけが
時を刻むように瞬いている

日が昇ればまた繰り返される
僅かな資源の取り合いが
指先によって

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『健気な彼女はお菓子しか頭にない』

『健気な彼女はお菓子しか頭にない』

『健気な彼女はお菓子しか頭にない』

帰宅を待ってる犬より、疲れて帰って来ても散歩に連れていく私のほうが、けなげだ。

傍目から見れば、首輪なんて奴隷のようで犬が可哀想だろうが、実際のところは飼い主なんて、日差しを浴びながら貴婦人の隣で日傘を支え続ける、召使いみたいなもんだ。

だからマリー・アントワネットは、犬。

『サカナ』

『サカナ』

『サカナ』

わたしは今、魚。ヒレが脚になって、尻尾が引っこんで、目はもともと二つ、付いてるの。人魚なんて言葉があるけれど、それはだれの思想?人はずっと前からずっと、ずっとずっと魚だよ。魚だから魚も食べるし、海藻だった野菜も食べるよ。歯がまだギザギザしてるのも、口がまあるくて大きく開けるのも、ずっとわたしは魚を忘れていないから。血が鮮やかに色付いているのも、この海を生きている印だ。君が食べているそ

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『その球体の角度を教えて』

『その球体の角度を教えて』

そんなことを言ったって、の連続。我々は何を求められているのか。体はひとつしかないのに、あらゆる角度から、まるで私が球体の中心であるかのように矢が刺さる。やつらは選択肢ばかり増やしたがる。掴むのはいつだって一つ、なのにさ。指折り数えて目を閉じる日を待つなんて、どうやってもできなくて、ひとつしかない命をどこで捨てるか考えてる。丁寧に丁寧に、どこで拾われるか、目を血眼にして探っている。考えなくても簡単だ

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『君のためのラブレターならそれは本心じゃなくて全部嘘だ』

『君のためのラブレターならそれは本心じゃなくて全部嘘だ』

公私混同しないように、真面目にラブレターを書いてみようと思ったんだ。

ある日思いついたそれは、結局、便箋を買うだけにとどまって、書く言葉は思いつかなかった。

ちゃんと文字にしてみて、それで、好きだとかなんとかを書いて、それが何になるんだ。

ほんとうは、君の素敵なところを100個くらい書きたかった。君の、君にしかない、繊細な色や輝きを。

君に助けられたことや、救われたこと、君がいなければ今の

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『一晩でも君より延命希望』

『一晩でも君より延命希望』

『一晩でも君より延命希望』

一晩会わないで、次の晩に日付変わってから帰ってきたら、もう帰ってこないかと思ったみたいな勢いで必死に甘えてきた犬、可愛かったな。わたしが夜更かしして明かりを消さないでいたら、君は眠れず何も出来ずまた虚無になるのにな。君が小さいのは、わたしが抱え込むように君を抱き締められるからということにしておきたいよ。君の鼻が三角コーンの先みたいに尖っているのは、不器用な君のキスがぶ

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『天秤にかけられるか』

『天秤にかけられるか』



『天秤にかけられるか』

この中でこれだ、と確信を持って、掴み取れる色があったらいいのに。それを縫い合わせて、夢を忘れてしまわないように、この身に纏って微笑んでみせるわ。背中に羽が生えてなくたって、渡れるかどうかなんて気にしないの。

あったらいいなと探し続けるから、たくさんの色を知っている。

たくさんの色を知っているから、あったらいいなと探し続ける。

もしも、そんな色が本当に見つかったな

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