詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好…

詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好きばかりで毎日を過ごせたらいいなと思っています。

記事一覧

【詩】心が自分のものでない

心が自分のものでないのは 自分が 他人だから 心を止めれば 私たちは 軽くなる 心の重さを測るには 時間がかかる から  季節は 秋が良い  時間にも質量があって …

詩と少年
5日前
3

蝉の断章の記憶 第10(最終)話

 急に眩暈がした。その声は目の前の男ではなく、遠くの方から——地の果てから、あるいは地中の奥深くから聞こえるようだった。男が差し出した万年筆を手に取ると、催眠術…

詩と少年
6日前
2

【詩】どうしようもなく

どうしようもなく生まれたこの世界で どうしようもなく生きてゆくのは どうしようもなく奴隷的で どうしようもなく自分が止まっても どうしようもなく人も世界も動き続ける…

詩と少年
7日前
1

蝉の断章の記憶 第9話

        『セミの断章の記憶』  最初に目に飛び込んだ文字にどう反応すべきか? やはり、誰かがわたしと同じタイトルを使っていた。でもそれは、ひょっとしたら…

詩と少年
7日前
3

蝉の断章の記憶 第8話

「お久しぶりですな。いやあ、全く」 男は右目が義眼であることには変わりなかった。しかし、男がわたしの顔を覗き込むように見ると頭がくらくらした。蛇に睨まれた蛙が感…

詩と少年
8日前
1

蝉の断章の記憶 第7話

 全集を読み終えると季節は夏だった。強い陽射しが朝の窓から入り込む。蝉の合唱が始まって蒸し暑くなった。あれから自分の作品のことはすっかり忘れて、読者として人生を…

詩と少年
9日前
2

【詩】時・か・ん・

時・か・ん・ 都会から田舎へゆくと 感じられるもの 時・か・ん・ 悲しくなると 考えたくなくなるもの 時・か・ん・ 嬉しくなると 抱きしめたくなるもの 時・か・ん…

詩と少年
10日前
4

蝉の断章の記憶 第6話

 明け方の弱い光が樹葉の隙間から漏れ。それは幹に張り付く蝉の幼虫の背中を立体的に見せた。父とわたしは息を潜めてじっと見ていた。幼虫の背中が音もなく割れた。時間が…

詩と少年
11日前
2

蝉の断章の記憶 第5話

 本は部屋に並べると宝物みたいにキラキラと輝いた。ウッドの香りがほんのりと漂う。部屋の明かりを暗くすると、林の中にいる気分になった。わたしはリラックスして椅子に…

詩と少年
12日前
2

蝉の断章の記憶 第4話

 そこは古書を扱っている店だった。外から見るよりずっと広かった。店内は外の明るさとは対照的に、暗くひんやりしていた。それに何十年も前から有るようにカビ臭い匂いが…

詩と少年
13日前
2

【詩】危ない

あの目は危ない 開いているが何も見ていない あの耳は危ない すましているが何も聞こえない あの鼻は危ない 嗅いでいるが何も匂わない あの口は危ない 開いているが何も…

詩と少年
2週間前
4

蝉の断章の記憶 第3話

 わたしの孤独な性格は、大人になるまで変わらなかった。孵化してから成虫になるまで無変態の生き物みたいだった。 どんな人間にも出会いはある。わたしも例外ではなく、…

詩と少年
2週間前
9

【詩】カオス

カオスな顔 カオスな夢 カオスな人生 カオスな通りで 地番のない歩道が工事中 踏むと沈む 商店街に立つ灯籠が 夜に笑う Y字路は毎夜赤く点滅 歩くとできる道  足跡は…

詩と少年
2週間前
4

蝉の断章の記憶 第2話

(* 過激な表現が有ります。)  中学校では、部活動をきっかけに何人かの男子や女子のグループに分かれた。あるいは、隣同士で友達に。だが、わたしはクラブに入らず、…

詩と少年
2週間前
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【詩】三種の神器

面接の最後に採用担当者は尋ねた 君の三種の神器は何ですか 九回裏ツーアウト満塁のこの場面で 一打一発逆転を狙う僕は 投手の決め球がストレートで ここでそれを…

詩と少年
2週間前
3

蝉の断章の記憶 第1話

 世渡りな下手で孤独な性格のわたしは、暗い人生を送っていた。そんなわたしの唯一の楽しみは、本だった。やがて、リストラで会社を去ったわたしは、ふとしたことから本の…

詩と少年
2週間前
7
【詩】心が自分のものでない

【詩】心が自分のものでない

心が自分のものでないのは
自分が 他人だから

心を止めれば
私たちは 軽くなる

心の重さを測るには
時間がかかる

から  季節は 秋が良い 
時間にも質量があって 夏は 瞬間に破裂する

風が吹いて 
  日差しが神の視線に変わる時
    蝉は 天まで 飛んでゆき
      星に止まる

午後の栄光と夜明けの残光
ペンと線の影 窓から
飛来 額に当たる 蜂

は もう一度 自分の行き先

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蝉の断章の記憶 第10(最終)話

蝉の断章の記憶 第10(最終)話

 急に眩暈がした。その声は目の前の男ではなく、遠くの方から——地の果てから、あるいは地中の奥深くから聞こえるようだった。男が差し出した万年筆を手に取ると、催眠術にかかったようにわたしはその本に上半身を傾けた。意識がぼんやりして……万年筆が、不安定な体勢のわたしを支えるように動いて手を引っ張った。いつの間にか、わたしは自分の名前でなく次作のタイトルを書き始めていた。

       『○○の冒険』

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【詩】どうしようもなく

【詩】どうしようもなく

どうしようもなく生まれたこの世界で
どうしようもなく生きてゆくのは
どうしようもなく奴隷的で
どうしようもなく自分が止まっても
どうしようもなく人も世界も動き続けるので
どうしようもなく逃避するか
どうしようもなく何も考えないか
どうしようもなく刹那的になるか
どうしようもないから立ち上がるしかない
空は今日も青い
どうしようもなく青いから
どうしようもない希望を見つけて
どうしようもない感動を追

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蝉の断章の記憶 第9話

蝉の断章の記憶 第9話

        『セミの断章の記憶』

 最初に目に飛び込んだ文字にどう反応すべきか? やはり、誰かがわたしと同じタイトルを使っていた。でもそれは、ひょっとしたらそうかもしれないと予想していた結果だった。タイトルがわたしの創作と同じなのは、偶然が重なっただけだとわたしは結論づけた。

次のページに、文字が並んでいるが透けて見えた。落丁本でない完全なやつが見つかったのだな。どんなふうに始まるのだろう

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蝉の断章の記憶 第8話

蝉の断章の記憶 第8話

「お久しぶりですな。いやあ、全く」
男は右目が義眼であることには変わりなかった。しかし、男がわたしの顔を覗き込むように見ると頭がくらくらした。蛇に睨まれた蛙が感じるような無感情な視線の呪縛。わたしは半歩下がった。
 男はしゃべり始めた。

「あの折は良いものを手に入れられましたな。どうですか。その後、何か変わったことは? 無かった? いや、きっと有ったでしょう。分かりますよ。あなたの顔にそう書いて

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蝉の断章の記憶 第7話

蝉の断章の記憶 第7話

 全集を読み終えると季節は夏だった。強い陽射しが朝の窓から入り込む。蝉の合唱が始まって蒸し暑くなった。あれから自分の作品のことはすっかり忘れて、読者として人生を満喫した。

しかし、ただ漫然と日々を過ごしていたのではなかった。読んだ本には文字の形をした原石が埋もれていた。それを採集し、記憶の標本箱に陳列し、時々、出しては眺めた。飽きると、公園のベンチで太陽の光を浴び、好奇心で近づいてくる小鳥に微笑

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【詩】時・か・ん・

【詩】時・か・ん・

時・か・ん・
都会から田舎へゆくと 感じられるもの

時・か・ん・
悲しくなると 考えたくなくなるもの

時・か・ん・
嬉しくなると 抱きしめたくなるもの

時・か・ん・
寂しくなると 忘れたいもの

時・か・ん・
旅行していると キラキラと輝いているもの 

時・か・ん・
会いたい人を待つと 鼓動を激しくさせるもの
 
時・か・ん・
芝生に寝転んで空を見ていると 掴める気がするもの

時・か・ん

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蝉の断章の記憶 第6話

蝉の断章の記憶 第6話

 明け方の弱い光が樹葉の隙間から漏れ。それは幹に張り付く蝉の幼虫の背中を立体的に見せた。父とわたしは息を潜めてじっと見ていた。幼虫の背中が音もなく割れた。時間が静止する。驚きがわたしの内部一杯に満ちた。

裂け目が縦に広がって、少し揺れてから、それは見えない扉を開けるように頭を出した。世界を伺うように。初めて試す呼吸。純白な二つの目。汚れていない神秘が初めて触れる世界。その目はまだぼやけていて何も

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蝉の断章の記憶 第5話

蝉の断章の記憶 第5話

 本は部屋に並べると宝物みたいにキラキラと輝いた。ウッドの香りがほんのりと漂う。部屋の明かりを暗くすると、林の中にいる気分になった。わたしはリラックスして椅子にもたれた。読破するのにどの位かかるだろうか。二ヶ月? いや、三ヶ月? あるいは半年?  まあ、どうだって良いじゃないか。もう時間に追われることはないのだ。そのために今まで我慢して働いて来たのだから。そして今、ここに自由がある。

「ど・れ・

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蝉の断章の記憶 第4話

蝉の断章の記憶 第4話

 そこは古書を扱っている店だった。外から見るよりずっと広かった。店内は外の明るさとは対照的に、暗くひんやりしていた。それに何十年も前から有るようにカビ臭い匂いがした。入れ替わりに客が出ていったので、店には、奥で背中を丸めて座っている店主以外誰もいなかった。

コの字型に配置された本の壁の中を、わたしはゆっくりと見て回った。文庫本や新書が綺麗に並べられていた。美術書や学術書、絵本、画集、漫画、雑誌、

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【詩】危ない

【詩】危ない

あの目は危ない
開いているが何も見ていない

あの耳は危ない
すましているが何も聞こえない

あの鼻は危ない
嗅いでいるが何も匂わない

あの口は危ない
開いているが何も語らない

あの手は危ない
握っているが何も掴まない

あの足は危ない
歩いているがどこへも行かない

あの神経は危ない
感じているが反応しない

あの脳は危ない
記憶しているが何も考えない

あの心は危ない
暖かいが何も感情がな

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蝉の断章の記憶 第3話

蝉の断章の記憶 第3話

 わたしの孤独な性格は、大人になるまで変わらなかった。孵化してから成虫になるまで無変態の生き物みたいだった。

どんな人間にも出会いはある。わたしも例外ではなく、高校時代に、女の子に声をかけられ、デート(?)に誘われた。気難しい本好きの、殆ど笑わない人間も、好奇心の対象としては価値があったのかも知れない。わたしの初めてのデートは、百貨店を一周しただけで終わった。二回目、別の女の子とのデートは映画館

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【詩】カオス

【詩】カオス

カオスな顔
カオスな夢
カオスな人生

カオスな通りで
地番のない歩道が工事中
踏むと沈む

商店街に立つ灯籠が
夜に笑う

Y字路は毎夜赤く点滅
歩くとできる道 
足跡は消える

見ないと聞こえる
描かないと動く

カオスな風の 議論
雨の模索

答えのない笑い
聞こえないリズム

時間を食べる猫が
小さく笑うと泣く子犬

青い雪 黒い雲の願望
命が掛かる老いから逃走する時間を追いかける記憶が死

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蝉の断章の記憶 第2話

蝉の断章の記憶 第2話

(* 過激な表現が有ります。)

 中学校では、部活動をきっかけに何人かの男子や女子のグループに分かれた。あるいは、隣同士で友達に。だが、わたしはクラブに入らず、誰とも話が合わず、相変わらず一人だった。休み時間に一人で本を読んでいた。縮れ毛のリョウは空手が得意でいつもそれを見せびらかしていた。いきなり、わたしの机に片手を撃ち下ろすと小さなヒビが入った。彼は唇を歪めながら、
「なあ、金貸してくれない

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【詩】三種の神器

【詩】三種の神器

面接の最後に採用担当者は尋ねた

君の三種の神器は何ですか



九回裏ツーアウト満塁のこの場面で 一打一発逆転を狙う僕は

投手の決め球がストレートで ここでそれを投げてくると

百パーセント確信していた

予想通り百五十キロの球がど真ん中に 迷わずバットを振り抜く



僕は即答した

それは赤青黄の三原色の信号でも

見ざる聞かざる言わざるの事勿れ主義でも

天地人を愛する詩人でも

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蝉の断章の記憶 第1話

蝉の断章の記憶 第1話

 世渡りな下手で孤独な性格のわたしは、暗い人生を送っていた。そんなわたしの唯一の楽しみは、本だった。やがて、リストラで会社を去ったわたしは、ふとしたことから本の全集を買うことになる。白紙の最終巻に景品の万年筆で触れると、突然、物語の着想が浮かび、作品が出来上がった。自分の才能に目覚め、世に出るチャンスを掴んだと小躍りしたわたしだったが、突然本を売った男が現れ、驚くべき事実を告げられる。

    

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