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【詩】三種の神器

面接の最後に採用担当者は尋ねた

君の三種の神器は何ですか

 

九回裏ツーアウト満塁のこの場面で 一打一発逆転を狙う僕は

投手の決め球がストレートで ここでそれを投げてくると

百パーセント確信していた

予想通り百五十キロの球がど真ん中に 迷わずバットを振り抜く

 

僕は即答した

それは赤青黄の三原色の信号でも

見ざる聞かざる言わざるの事勿れ主義でも

天地人を愛する詩人でも

飲む打つ買うが日常のノスタルジー的な男性会社員でも

走・攻・守をこなせるベースボールプレーヤーでもありません 

八咫鏡(やたのかがみ)・草薙剣(くさなぎのつるぎ)・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)でも ましてやありません

 

それはBタンアメ・酢昆布・あたりめです

Bタンアメは包み紙がオブラートでそのまますぐ味わえ あと一歩で辿り着けない甘さでどうしても二個目三個目が欲しくなる デスクワークの合間に食すれば能率が加速度的に上がります

酢昆布は酸っぱさが午後の疲れを癒す爽快感を呼び思考を柔軟にし 

あたりめは噛めば噛むほどに味が舌に蘇り そこには自分が海から生まれたという原点回帰による困難解決の手法を連想させ しかも粘り強い不屈の精神も思い出させます そして的に当たります

 

相手は打球の行方を追おうと視線を動かした

僕は打ったバットを放り投げると拳を突き上げ ダイヤモンドを回っていたが

最後にホームベースまで辿り着けると信じていた

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