詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好…

詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好きばかりで毎日を過ごせたらいいなと思っています。

最近の記事

【詩】システム梗概

これはシステムという物語のあらすじです。 これは物語ですが、本当にあったお話です。 本文は至る場所に在り、万物の中に格納されているので、読むのに何億光年もかかる出来事です。 ですが、これはあらすじなのでこの原稿用紙数枚です。 正確には、主人公=僕が生まれてから死ぬまで耳に目にした四半世紀の一部を十枚に圧縮します。 こんなことを書いていても仕方がないので早速始めます。 目覚める スマートフォンを布団から伸びた手が掴む 今午前三時 昨日九時に寝たから六時間で目が覚める 毎日同じ

    • 初恋 第28(最終)話

       父の専門は遺伝子工学だったが、僕も同じ分野で活動している。そんな僕が、時々体育館に行くのは、お目当ての子がいるから。彼女はバスケットが堪能で、プロのチームから声がかかっている。何しろジャンプが人間離れしているのだ。体の柔軟性も俊敏さもずば抜けている。僕はいつもその子を一番上の席から観察している。赤い髪でそばかす。もう、お分かりだろうか。 彼女の名はラメラ——じゃない。高校生活での多くの人との出会いは、僕を彼女からいつの間にか遠ざけた。ラメラが、ピーターと別れたことは知って

      • 初恋 第27話

         さて、新型ペストは世界中でワクチンの反撃を受け、三年で普通のインフルエンザ並みの威力に格下げされた。もう、今では誰もそれに目鯨を立てるものはいなくなった。そしてあの新薬は使われなくなり、その後どこかへ消えていった。 新型ペストで減少したのは、六十歳以上の人間が殆どで、その結果某国は若返ったし、人口も半減した。そして、僕らのようなこれから社会を担う若者達がその国の舵をとるのは明白の理だった。  今思えば、あのアフリカ旅行の最後に起こった僕の誘拐未遂事件について、僕なりに

        • 初恋 第26話

           最後に言っておくと、——これは僕が大学生になってから知ったのだが——というのも僕が政府のある研究機関に数学の専門家として招かれた折に偶然知り得た——、ラストは国の極秘プロジェクトのメンバーだった。それは次のようなものだった。  この国と同盟関係にある某国では異常な勢いで高齢化が進んでいた。若い人たちは子供を産まなくなった。それは、経済的理由あるいは個人の自己実現のためだろうと言われた。逆に、医学の進歩で病気は駆逐され、ねずみ算式に老人が増え続けた。 これでは、あと数十

        【詩】システム梗概

          初恋 第25話

           時間は待つと長いのに、楽しむとすぐ経つのは何故だろう。ルイスもそうだろうか? マークも? ラストは? 猫のようで猫でない彼もそう感じるのだろうか? いや、やっぱり猫だろう。人間でないことは外見から確かだけど、中身は人間?  まあいいや。ルイスとマークは結婚式の会場をどこにするか、招待状を誰に出すか何やかやの準備に忙しかった。 (ようやくラストの失踪宣告が認められて、二人は晴れて結婚できるようになった。普通なら七年かかるところを、五年で認められた。) 僕も喜んで手伝った。

          初恋 第25話

          初恋 第24話

           一つだけ気になることがあった。それは、父のラストがいなくなってから入れ替わりのように彼が現れたことだった。 彼はとても親切だし、とても頼もしい。僕は彼が大好きだ。僕はできれば父として彼を迎えたい。(マークは別として。) でも彼にはどこか秘密めいたところがある。仕草が父に似ていて、父のように頭が良い。これが単なる共通点だと言えるだろうか?  ラストは一体何者なのか? 父の生前の異常な用心深さ、誘拐事件、添乗員の失踪——そういったことが何か一つの糸で繋がっているような気がする

          初恋 第24話

          初恋 第23話

           翌日、ルイスは僕を連れてラメラの家に謝罪に行った。ラメラの母親がすぐに帰宅しなかったら、僕は危ないところだったらしい。僕はお小遣いを召し上げられて花瓶と額縁の代金を半額弁償させられた。ラメラの家に訪問禁止のおまけ付きで。(なぜかピーターは許された。)それから不本意だけど、ピーターと仲直りの握手をさせられた。 夜、僕はラストに愚痴を言った。 「君の言うとおり、彼女と付き合おうとしたらこのざまさ。どうしてこんな目に?」  ラストは前足を頭の後ろで組んだまま僕を見ていた。笑って

          初恋 第23話

          初恋 第22話

           自転車で十五分走るとクリーム色の家が見えた。僕は頭の中で百通りくらい「君が綺麗だ」というセリフの言い換えをリハーサルしていた。ドキドキしながら呼び鈴を鳴らす。女の子の家に初めて行くのだ。ラメラが現れる。黄色いブラウスのフリルが風で揺れた。途中で買ってきた彼女の好物のドーナツを渡す。ラメラは嬉しそうな顔をする。 「上がって」  彼女の後に続いて階段を登る。彼女の長い足が僕の前を歩く。白い靴下にもフリル。部屋にはレースのカーテン。ピンク色のシーツのベッド。机の上にはたくさんの

          初恋 第22話

          初恋 第21話

           ラメラに、明日の放課後、家に来てと言われた僕は、彼女に負けた悔しさも有ったけれど、自分の意思を遥かに超えて身体が動いたのにびっくりしていた。あんなにジャンプできるなんて。バスケットの勝負をきっかけに彼女にもっと気に入られることを願ったが、負けた僕はそんな立場ではないような気がした。 結局、僕はカッコよく終われなかった。それからあの、僕を呼ぶ声が問題だった。長い間忘れ去っていた嫌な記憶を再び甦らせるそれは、僕に言いようのない不安を与えた。 家に戻った時、ラストがいつもの姿

          初恋 第21話

          【詩】大金持ちの詩人になる夢

          大金持ちの詩人になると決めたら 君はもう大金持ちだ Why because 時間をお金よりたくさん持っているから 見えないくせに 意識あるかぎり 使える財産だから 無意識でも 使える時間を使えるから だ・か・ら・ 君はお金持ちの大詩人になった

          【詩】大金持ちの詩人になる夢

          初恋 第20話

           勝負は一方的だと思われた。体育館のコートは日曜日で、がらんとしていた。学校のバスケットクラブのメンバーは試合に行って留守だった。一年上のケリーが審判をした。と言ってもそんな大袈裟なものじゃない。立会人みたいなもので、ラメラがドーナツ一個を餌に頼んだから来たのだ。彼女は上級生とも付き合いがあった。二十一ポイントをどちらが先に取るか。ゴールは一つで、ポイントごとに攻守が入れ替わる。 ラメラは余裕だった。僕が持っている動きの全てを最初の数ポイントで把握した彼女は、自由自在に動き

          初恋 第20話

          初恋 第19話

          「いい? 同じタイミングで飛ぶの。スリーツーワーン!」  ラメラが縄を高速で回し始めると、僕は縄の回転のリズムに集中した。彼女が跳ねるタイミングで飛んだ。しかし、縄が引っかからないためには、できるだけ彼女に身体を近づけなければならない。いきおい、二人は向かい合ったまま密着するような形になる。 ラメラの赤い唇や燃えるピンクの頬がすぐ目の前で上下した。僕の顔は、のぼせたように真っ赤になっていた。それが、縄飛びのせいか、心の動揺のせいかは不明だ。彼女の息や視線が僕の顔にかかると僕

          初恋 第19話

          初恋 第18話

           ここで僕は再び、「恋」に巡り会った。誘拐事件と父の失踪で記憶のボードから消し去られたあの言葉——「恋」——が再び僕の前に姿を現した。徐々に蘇るアフリカの記憶。クレジオとアメリのバスの中でのじゃれ合い。僕は夢の中でラメラに理科の補習をしていた。そうだ、旅行の前にはよく、ラメラが僕のところへ算数の問題を聞きに来ていた。あれはひょっとすると、彼女が僕に関心があったから? 算数は単なる口実?  今、僕の目の前に多くの恋の物語が広がっていた。それはかつてのように単なる言葉と想像だけ

          初恋 第18話

          初恋 第17話

           墓碑ができてから、僕は墓地公園へよく遊びに行った。公園は、東西に伸びる広い砂利道の両側に芝生が敷き詰められていて、離れ小島のように墓碑が配置されていた。東の端の南側の隅が父の場所だった。ピアノも椅子も大理石でできていた。僕は椅子に座り、父の好きだった『ケ・セラ・セラ』を弾いている振りをする。すると緑の芝生はアフリカの草原に早変わりした。 空はあのアフリカの空。日差しを遮る桜の木の影が伸びて、その縁からこぼれるピンクの花びらが、風で舞い上がると視界が過去を呼び戻す。湖面から

          初恋 第17話

          初恋 第16話

           一つだけ、変な出来事が有った。飛行機墜落事故の二日後、白い乗用車が家の前に泊まった。灰色のスーツを着た三人の男が、玄関のベルを押した。母が出ると、彼らは父の友人だと名乗った。 「大学の方?」 「ええ、実はちょっとお話ししたいことが……」  彼らは応接間に入ると、ルイスが進めるソファーには一人だけ座り、残りの二人は別々の椅子に分かれて座った。変だなと僕は思った。 「ラスト氏はあなたと空港で別れる前に、あなたに何か預けませんでしたか?」 「いいえ」 「重要なことをあなたに何か

          初恋 第16話

          初恋 第15話

           帰りの飛行機はルイスと二人だった。ラストは僕達と別れてスイスに向かった。旅行で全エネルギーを使い果たした僕はすぐに眠ってしまった。  夏休みが終わる前にラストは戻るはずだった。しかし、夏休みが終わってもラストは戻らなかった。彼の乗った飛行機が途中で墜落したのだ。 学会が終わって、これから帰るという連絡が入ったその日、彼がジュネーブからロンドンまで飛んだところまでは僕も母も知っていた。その後、乗り継いだ飛行機が何らかのトラブルに巻き込まれ、大西洋に沈んだというニュース

          初恋 第15話