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【戯曲】無・じゅう・りょく22        未来のトンネル

風が冬を突き抜けていました
一人の青年がプラットホームに駆け込んで来ました

おお 危ない 乗り遅れるところだった
こっち こっち
やっと来たな ぎりぎりセーフっていうのは昔と変わっちゃいないね
僕は後ろで自分の役割はきっちり果たして来たぜ 君らも変わってないことを願うよ
ははは まあまあ ムキになるなよ ごめん 本当に久しぶりだな
そうだね 卒業してから十年か 早いねえ
こうやって 十年前と変わらない関係を続けているってすごくないか?
なら行くぜ 試合が始まる前にやったやつを
こうやって手を重ねて
円陣になって
アーパチアパチ アーパチアパチ
こらこら 違うだろ ゴーゴー イレブンフライだろ
すまんすまん もとい
(3人一緒に)ゴーゴーゴール イレブンフラーイ
懐かしいな そのセリフ
僕たちはいつも一緒だった 君はミッドフィルダー、そして君はゴールキーパー
君はフォワードだった
チームで一番上手いやつ三人
そう、チームのみんなは「三羽烏」って呼んでた
最後の決勝戦は凄かったな 君のあんなミドルシュートで終わってしまうなんて
いやあ 我ながらそう思ったよ
言うな そこは謙遜してさ
ところで今も僕たちは三羽烏じゃないのか?
そうかも 学生時代はチームの 今は社会の三羽烏になろうとしている
君は総裁の秘書
君は科学者でグロース企業の社長
そして君は世に出た詩人でしかも国際派
ゴールキーパーが詩人なんてカッコ良過ぎぎない 
フォワードが秘書っていうのは頷ける 野心丸出しだし
そのフォワードエースストライカーを支えるのがミッドフィルダーの
科学者兼起業家
こりゃどう考えてもこの世の三羽烏だ
僕たち 十年前にこうなるって予想できたかい?
いやあ 予想できたね
嘘だろ 未来なんか青臭い学生に見えるはずない
おっと 詩人さんのいう言葉じゃないと思うが
やっぱり君はミッドフルだー 前線がよく見えている
訛るなよ それより折角三人乗り合わせたのだから面白い実験をしようじゃないか
どんな もう一回手を合わせて誰がワインを最初に飲むかやるの?
違う 違う 実は…この列車は僕の会社の実験プラントなんだ
どんな? 超リニアモーターカーなら何年も前に実用化してるけど
もう少し走るとトンネルが有る そいつが目的です
へえ
さっき君達 コーヒーを飲んだだろ 実はその中に小さなナノカプセルを入れておいた
え?
え!
心配ないよ 軽い催眠剤だ 使用については仕様についても当局の承認済です で あと五分でトンネルに到達する そのトンネルが反光速で動く するとどうなるか?
半高速って
違う 反光速 つまりこの列車の真逆に光速でトンネルが動く
何だかわからないけど するとどうなるんだ
おっと 分かったよ 君は時間をいじろうとしているな
正解 難しい説明は抜きにして 結論を言うと 十年後が見える
つまり 未来のトンネルって訳か
そのとおり 仮説が正しければ でもまだ誰も試していないから
ははん つまり僕らは実験用モルモットってことかい
さよう 僕も含めて
こりゃ 格好の同窓会ネタになるな
本当だ 退屈しなくて済むぞ そろそろ暗くなってきた 近づいて来たのか トンネル
いいや 逆に明るくなったような
眠くなってきたぞ あああ

光が三人を抜けてゆきます 
トンネルの壁に彼らの姿が映し出されては消えますが
速いので全て繋がって見えました

やっと来たな ぎりぎりセーフっていうのは昔と変わっちゃいないね
僕は後ろで自分の役割はきっちり果たして来たぜ 君らも変わってないことを願うよ
ははは まあまあ ムキになるなよ ごめん 本当に久しぶりだな
そうだね あの同窓会から十年か 早いねえ
みんな忙しくしてたから
そして相変わらず 三羽烏ってか?
でも違う社会だし
来てもらったのはその件なんだよ
ミスターフォワードさん 官邸にまで呼び出して ご用件はなんでしょう あと一息で実用化できるエアーナノ…おっとこいつは企業秘密なので親友の君にも話せんな
ミスターゴールキーパーさん 君にも話があるから来てもらった
はいはい 閣下 いや総裁 こんな若い人が総裁になるなんて この国も進歩したもんだねえ 
まあまあ とりあえず一杯飲んで食事をしよう 腹が減ってちゃ楽しくないし 
十年分の話もしたいしねえ
そうそう そういうこと
じゃあ キックオフ前に アーパチアパチ
ははは しつこいやつがいるぜ 別のやつをやれよ

いやあ 毎日こんな飯を食っているのか 国民が知ったら蜂起するぜ
税金も放棄するあるよ
おい コーヒーを頼む さて
ほら 始まるぞ 
いきなりだが お二人に協力して欲しいのだ
聞きましょう
お聞きしましょう
ちょっと苦いコーヒーだったかな さて
某国の大統領が変わってから世界が動いている それは詩人の君がその大統領に呼ばれたことからも推察できる
彼はいい人間だと思う 人間としては 彼は側近と話す時は防弾チョッキも貫くような目つきだったけど 僕と話す時はとても柔和で純粋な青年の目をしていた
君の人徳と君の詩がそうさせるのだ 君が世界に呼ばれていることはよく知っている 君は 昔は名もない人間だったが今は違う 
いいや 昔から名前はあったよ 十年前もその十年前も僕は名前を所有していた
失礼 言い方が悪かったかな 僕は君にただ助けてもらいたい 某国だけじゃなく 世界におけるこの国の立場を優位にするためには 君の人格と主張が必要なんだ 銃を取れって言っているんじゃないぜ それは専門の人間に任せる 君には今の僕たちの国がいかに良い世界を目指すのか そこを君に詠ってもらいたい
何だって! 僕がリベラル国際派の人間だって分かっていっているのかい
まあまあ 結論を急がないで で ミッドフィルダーさん 君にも協力願いたい
ほら来た 答えは聞かなくても分かっているだろう?
先に話させてくれよ 超超伝導から始まった君の研究の到達点が 超鳥ナノ技術に発展して 今や世界でその最先端を競っているのは知っている それを政府の機関と共同でやらないか もちろん人も資金も必要なだけ出す
永年の友情のよしみでかい?
そう 僕らは今まで地上の三羽烏だった これからは世界の三羽烏になろうじゃないか?
無理だね 僕は無理だ 君が僕の開発したナノ鳥を使って世界を征服しようとしているのは見え見えだからね これは原子爆弾や水爆なんかとは次元の違う武器になる 気がついたらもう脳に入り込んでその人間をどうにでも操れるからな 
なら 君が密かにやっている量子力学鏡的アプローチと組み合わせて世界のどこかに対になるターゲットを探すこともできるのか?
なぜそれを? もうこれ以上話したくない アインシュタインの警告通りだった 君には協力できない
僕も君と政府のプロパガンダにはならない 君はもっと大きな人間だと思っていたのに 三人でやることはこんなことじゃないはずだ
そう 三人で世界の三羽烏になることさ
違う 世界を黒い翼で覆うのじゃなくて 三人で世界を平和な世界に戻すための戦わない世界にするのが本当の三羽烏さ
かつてはチームだった 今は地球なんだよ 僕達はそのために翼を与えられたと思わないか
そうだよ リベラル国際派として僕は人間に調和する自由を伝導したい こうなったら逆にフォワード君を説得する 新しい世界を取り戻す最初の晩餐会にしよう 
残念ながら 君らと僕の間に友情は成立しないかもしれない でも もうすこうし考えてみてくれ 今までの付き合いに免じて ミスターミッドフィルダー 実は 君が十年前に実験したように 僕も今 実験しようと思っている
え?
え!
すでに始まっているけどね さっき飲んだコーヒーは少し苦かっただろう? 数時間で効果が出る
まさか! 毒をもったのか?
慌てるな 学生みたいに騒ぐの止めようぜ 僕らは国という社会の一員じゃないか 当局のスパイの君の助手に頼んで 君の実験室の金庫からナノ粒子を少し借りてきた ミッドフィルダーさんもゴールキーパーさんも間もなくフォワード監督の指揮下に入る もしうまくいかない場合は 君たちの家族で試すことになる そこで改めて君たちに聞きたい 君達がイエスなら ナノ粒子の解毒剤を取りに行かせるが…
陰謀だ
陰謀どころか これが友情なのか
もともと友情なんて存在しないのか
そんなことはない これは社会的な友情だよ さて時間はたっぷりある ゆっくり考えたまえ 何ならコーヒーのお代わりを頼もうか?

トンネルを抜けると 風が止んでいました
間もなく終着駅に到着するとアナウンスがありました

何だったんだ 今のは? 夢か? 
そうだ 夢に違いない あの変な薬のせいだな
こんなの嘘っぱちだ 君の実験は失敗だった 僕達が見たのは十年後の未来なんかじゃない 単なる物語だ 
僕達って?
見ただろう 君が僕達の心を殺そうとしたことを
僕が君達をかい? そんな夢を見たのかい?
一緒にトンネルを通ったじゃないか だから同じ景色を見ているはずだ
そうだからそうだ
君達がどんな風景を見たのかは知らないが 僕は ミッド君の実験は成功したんじゃないかと思っている 僕は将来この国を背負ってみたい
僕が夢見ているあの研究の方向性が見えた ということは実験は成功なのか
それは恐ろしい現実を意味する正夢だ 
生涯 詩人として僕が生きてゆくのは間違いないとして あの大統領の使いが何度も打診して来ているのは確かだ いつか彼に会うことになるのか?
同床異夢なのか? 
同床同夢かも知れないよ 
もし実験が成功なら ここまで成功したなら 僕ら三人は友情どころか… 

同窓会の会場に着くと 手を振る受付嬢がいました

あーら、遅かったじゃない 三人ご一緒で 相変わらず仲良しで良かったわ もう皆さんお待ちかねよ スターが登場しないと物語は始まりませんものね 同窓会とは言っても あなた達がこれからどうするつもりなのかみんな知りたがってる 私もよ おや どうしたの みんな青い顔して 悪い夢でも見たみたい 三羽烏さんは一番前の円卓です これが座席表 実はね 私婚約しちゃったの 決勝戦の相手のエースと チアガールの格好で応援してたら 試合が終わってから強烈にアタックされちゃって もうそれからどうしようもなくて ごめんなさい 私ごとで

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