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【ショートストーリー】雪が降った日は走りたい気分
僕の寒い日のおすすめは「貼らないカイロ」だ。
中には「そんな馬鹿な。カイロは貼るもんだろ」と思った人もいるかもしれない。実際、今、隣にいる友人はカイロを袋から取り出し、一向に貼る気配のない僕に怪訝な目を向けている。僕は人差し指をチッチッチッとメトロノームのように揺らしながら、彼女の手のひらにカイロを置いてみせた。
「なっこっこれは、貼っていないカイロなのに温かいわ! こんなもの持ってるなんてあ
ワールドカップ開幕!
小説「僕の城」【#2000字のホラー】
「うっ」
自分のものとは思えないほどの低くくぐもったうめき声が聞こえてきた。
荒れ狂う嵐の中、懸命に一歩を踏み出そうとする。だが、横殴りの雨と強風によって視界は塞がれていた。背中に背負った80Lのリュックと手に持ったボストンバッグが鉛のように重たく、僕の心はもう限界を迎えていた。頭の中を支配しているのは、「もういいや」という言葉。僕はやがて早く楽になりたい一心で倒れ込み、そっと瞼を閉じた。