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ゲリラ豪雨に布一枚で立ち向かう

今朝、家を出てバイト先に向かおうとしたところ、ポツポツと降ってきた。正直この程度なら傘はいらないだろう、と思ったが、念のため家に戻って傘を持って行くことにした。

バイト先は家から歩いて15分の距離なので、小雨程度の雨なら傘がなくてもそう濡れることはない。だが、今日は傘を持ってきて正解だった。なぜなら、傘を求めて家に戻った次の瞬間、大粒の雨が地面を叩き始めたからだ。

私は自分の危機察知能力の高さに酔いしれながらビニール傘を広げ、目的地へと歩を進めた。

しかし、道中の脅威は雨だけではなかった。そう、風も強かったのである。まるで巨人の溜息のようなダイナミックな風が街路樹を大きく揺らしていた。

雨と風が融合し作り上げられたハーモニーが私の持っていた傘の効力を限りなく低くする。風によって縦横無尽に吹き荒れる雨粒が私の服と靴を襲った。

どす黒い雨雲が地平線の先にまで広がっている目の前の現実に私の心は折れそうになっていた。しかし、サッカー部時代に鍛えられた鋼の精神力によって、何とか目的地であるバイト先に着くことができた。

「雨に打ち勝ったぞー」

達成感を胸にドア越しに外を見ると、私は目を見張った。先ほどの嵐が嘘みたいに静まっていたのだ。雨は依然として降っているものの小雨である。つまり、この豪雨は私が家からバイト先に向かう僅かな間に現れ、去っていったのだ。

「ちくしょー」

理不尽な現実に私は心の中で叫んだ。そして、脳裏にふとある日の記憶が蘇ってきた。



あのときも今日と同じように空が荒れていた日だった。私は駅から大学に向かう道中、強い風に傘を飛ばされないよう懸命に歩いていた。

そこで、少し前を歩いていた一人の人物が目に留まった。その人物は、周りが傘を指している中で、一人傘を差さず、雨の餌食となっていた。傘の代わりのつもりなのか、頭の上に白いミニタオルを乗せている。そのタオルを風で飛ばされないよう両手で押さえていた。

その人物は私と同じ学科の友人だった。私が急いで傘に入れてあげると、彼は「助かったぜ」と笑顔を浮かべていた。だが、服や髪はもうすでにずぶ濡れだった。

どうやら、天気予報を見ずに家を出たため、傘を持ってこなかったらしい。そして、傘は地味に高いので、持っていたタオルで雨を凌ぐことを決意したとのことだった。確かに私もできれば余計な出費は抑えたいタイプなので、気持ちはよくわかる。とはいえど、ほとんど役目を果たしていない頭の上のタオルには、しばらく笑わせてもらった。

そんな過去の記憶が蘇り、何だか少し楽しい気持ちになった。今度またゲリラ豪雨にあうことになったときのために、傘だけではなくタオルも持って歩くことにしようと思う。もちろん、傘としての役目ではなく、濡れた髪を拭くために。

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