須和ムツオ

小説、エッセイ、自由律俳句などを書いています。深夜ラジオが好きです。

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最近の記事

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夏への渇き

最近、仕事帰りにヒトカラに行くことが多い。ヒトカラとはつまり・・・。そう、一人でカラッと歌いましょうやの略である。 梅雨が明確な終わりの合図を見せないまま、もう7月。空を不安げに見つめ、洗濯物を、干そうか干さまいか、いっそ何もかも放り投げて踊ってしまおうか。と、悩んでいる私たちを見てヤツらは楽しんでいるに違いない。 気温が30度を超える日が増えてきた。「夏ってこんなに暑かったか」と毎年思うが、まだまだこんなもんじゃない。むしろ夏の本気がこの程度なら、私は「もっと元気を出せ

    • 並行世界には行けなかったが、電気が止まったことによってレベルアップした件

      仕事が終わり、家に帰った私はいつものように照明のスイッチに手をかけた。 「あれ」 しかし、待てどもどうして部屋は明るくならない。指の角度を変え、再度スイッチを押し込んでみる。やはり、点かない。暗闇の中、黙考していると、頭の上で豆電球がぴかりと光った。 電気が止められた……。 私はその場で目を瞑り、電気が止まっていない世界線への移動を試みた。この技を試みるのは、中学以来だ。 当時は寝坊して、遅刻を回避するために試みたが失敗した。だが、私ももう大人だ。あの時とは比べ物にな

      • 思い出の缶ジュース

        子供の頃、自動販売機で毎日のように買っていたものがあった。それは飲むだけでなくエンターテイメント性に優れている飲み物だった。ここまでで勘のいい人はお気づきかもしれない。 そう、「振るタイプのゼリー」である。 最近はあまり見ないが、私の世代の少年少女はみな心を鷲掴みにされたはずだ。インターネットがさらに普及し(当時も普及していたが、小学生でスマホを持つのは珍しかった)、さまざまな娯楽で溢れた現代から見てみれば、「へーこんなのあるんだ」くらいの感想かもしれない。 しかし、当時

        • 【短編小説】深海を抜けると

          「絶対にあの場所へ行ってはいけない」 みんなは決まってそう言った。だから、あそこへは誰も近づかない。 「何で行ってはいけないの?」 僕がそう言うと、みんなは困った顔をする。明確な答えがあるなら、言い淀んだりせずにはっきりと答えられるはずだ。 「そういうルールだからだよ」 結局はその一言でうやむやになる。僕のもやもやはまだ収まらないが、大人たちはみんな次の質問をする前にそそくさと帰ってしまう。 「何でそういうルールがあるの?」 その疑問は長い間僕の中で燻っていた。

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          春から朝を走る

          桜が散り、春も深まる今日この頃。4月に入った途端、学生というモラトリアム期間は満了を迎えた。 この春を境にこれまでラジオを聴きながら夜を徹していた私のライフスタイルは大きく激変した。 まず、小鳥がさえずるよりも先に無機質なアラームの音で瞼を強制的に開かされる。ゾンビのように地面を這いつくばりながら、洗面台の前に立つと、鏡には生気のない顔色をした男が一人。漆黒に染まった瞳の主は、鏡の中で私と同じ動きをしている。 それからYouTubeの動画を見ながら、ネクタイを結ぶことを

          春から朝を走る

          春一番に想いを乗せる

          私が「この春チャレンジしたいこと」は、今までやってこなかったことを積極的にチャレンジすることである。と言っても、そんなに大々的なことをするというわけではなくて、「今まで入ったことのなかった近所の喫茶店に入る」というような些細なチャレンジを積み重ねていきたいと考えている。 早速、この文章を書いている数時間前に今まで入ったことのなかった近所の喫茶店に入り、ハヤシライスとコーヒーをいただいた。喫茶店のご飯って特別な感じがしてとても好きだ。久しぶりに食べたハヤシライスは懐かしく優し

          春一番に想いを乗せる

          【ショートストーリー】雪が降った日は走りたい気分

          僕の寒い日のおすすめは「貼らないカイロ」だ。 中には「そんな馬鹿な。カイロは貼るもんだろ」と思った人もいるかもしれない。実際、今、隣にいる友人はカイロを袋から取り出し、一向に貼る気配のない僕に怪訝な目を向けている。僕は人差し指をチッチッチッとメトロノームのように揺らしながら、彼女の手のひらにカイロを置いてみせた。 「なっこっこれは、貼っていないカイロなのに温かいわ! こんなもの持ってるなんてあんたの癖に生意気だぞ」 友人は特徴的な長い黒髪を揺らしながら感心していた。窓の

          【ショートストーリー】雪が降った日は走りたい気分

          ワールドカップ開幕!

          ワールドカップ開幕!

          ショートショート「秋も深まりそろそろコタツ」

          「ただいまー」 脱いだ靴を揃えて自分の部屋へ向かおうとすると家の中が妙な緊張感に包まれていることに気づいた。僕は怪訝に思いながらリビングを覗き込んだ。 「んー」 そこには何やら唸っている母の背中があった。目線の先には押し入れがある。僕はハッとした。一瞬にして冷たい汗が流れる。刹那、母の手が押し入れに伸ばされていく。 「母さん」 僕は咄嗟に叫んだ。すると母は「あら帰ってたの」と振り向く。 「母さん、今コタツ出そうとしたでしょ」 「だって今日寒いじゃない」 「だめ

          ショートショート「秋も深まりそろそろコタツ」

          自由律俳句8

          夏休み気分が抜けてない自動販売機 だって昨日はあんなに暑かったじゃん 押し入れの中から炬燵が呼んでいる もう少し寝ていたい街灯 真顔なカボチャ

          自由律俳句8

          自由律俳句7

          線香花火ももう最後の一本だ 夏休み最終日にしかできない宿題 スイカの種に向かって再会を誓う 二学期からはその髪型でいくらしい 制服姿に食パンくわえてまずは背伸びの運動から

          自由律俳句7

          小説「僕の城」【#2000字のホラー】

          「うっ」 自分のものとは思えないほどの低くくぐもったうめき声が聞こえてきた。 荒れ狂う嵐の中、懸命に一歩を踏み出そうとする。だが、横殴りの雨と強風によって視界は塞がれていた。背中に背負った80Lのリュックと手に持ったボストンバッグが鉛のように重たく、僕の心はもう限界を迎えていた。頭の中を支配しているのは、「もういいや」という言葉。僕はやがて早く楽になりたい一心で倒れ込み、そっと瞼を閉じた。 * 夢を見た。記憶の奥底にしまわれていた遠い昔の記憶だ。砂場で遊んでいるのは、

          小説「僕の城」【#2000字のホラー】

          ゲリラ豪雨に布一枚で立ち向かう

          今朝、家を出てバイト先に向かおうとしたところ、ポツポツと降ってきた。正直この程度なら傘はいらないだろう、と思ったが、念のため家に戻って傘を持って行くことにした。 バイト先は家から歩いて15分の距離なので、小雨程度の雨なら傘がなくてもそう濡れることはない。だが、今日は傘を持ってきて正解だった。なぜなら、傘を求めて家に戻った次の瞬間、大粒の雨が地面を叩き始めたからだ。 私は自分の危機察知能力の高さに酔いしれながらビニール傘を広げ、目的地へと歩を進めた。 しかし、道中の脅威は

          ゲリラ豪雨に布一枚で立ち向かう

          自由律俳句6

          せめてこのかき氷が溶けるまでは 陽炎に落ちる君の汗 けだるい昼下がりに蝉時雨 流すのはそうめんだけにして いつも瓶のコーラを探している

          自由律俳句6

          自由律俳句5

          どこからどう見ても綿菓子 今日は海よりも青い ピチピチと影が泳いだ 分度器を片手に月を眺める 金色のゼリービーンズを並べたときの静けさ

          自由律俳句5

          自由律俳句4

          祭りが終わった後に本を読む うさぎかと思ったら満月だった もう枕を投げる時間 コーラのボタンが押せないのは虫のせい 星を流す役

          自由律俳句4