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好きな記事、好きな小説、好きな文体

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個人的に好きな記事や小説や文体。個人的に注目している書き手、活動。
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記事一覧

【小説】 神様のことなんですけど、

【小説】 神様のことなんですけど、

 風に揺らされた草は乾燥が進んでいるように見えた。それが足首を撫でて痒かった。
 しゃがんで、指先でつまんで擦ってみる。砂のように粉々になると思ったのに、割れるみたいにして千切れた。さっきまで繋がっていた箇所からは、水分が滲み出ている。生きているワタシに何をするの、と怒られた気がして、思わず手を離した。
「あら田町さん、こんにちは」
 明るい声に呼ばれて、弾かれたように顔を上げる。アパートの門の内

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フィルモア通信 2022 余白の春

フィルモア通信 2022 余白の春

四十年経っても同じようなゴミあくたが散乱しているソーホーからチャイナタウンへと路を急ぐ。
冷えた身体を温めるために早足で見慣れぬ街を歩くのは散髪屋を探し当てるためだ。
アベニューやストリートのスペルには記憶があるのに広がる風景に覚えはない。先月か半年前に歩いたような気がしているが目にする景色は一変している。

ぼくの新しい生活は始まった。

「感動した!」と言ってもらえるぼくの料理には、圧倒的な戦略とロジックがある

「感動した!」と言ってもらえるぼくの料理には、圧倒的な戦略とロジックがある

はじめまして。鳥羽周作と申します。「sio」という代々木上原のレストランでシェフをやっています。

このnoteでは、ぼくがふだんどのようなことを考えながら料理づくり、お店づくりをしているのかをお伝えしていければと思います。



ただの「おいしい」ではなく「感動した!」と言われたいぼくが目指すのは、ただの「おいしい」ではありません。「感動」です。

日本に「おいしい」お店は無数にありますが、「

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ワイルドスピードを観てくれない人

ワイルドスピードを観てくれない人

表題のとおり。
映画「ワイルドスピード」を観てくれない人がいる。その人は、僕の大切な「ワイスピ」に興味を示してくれないのです。

ちょくちょく映画の話をするお友達がいて、お互いが観た映画や興味を持っている作品の話をしては楽しませてもらっている。そうした場だと当然の流れとしてこれ観た?どれ観る?あれまだ観てない?観たほうがいいよ、なんて話題が出るのだけれど、僕が「ワイルドスピード」の話を持ち出したと

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京都に来た友人に紹介したい飲食店5選

京都に来た友人に紹介したい飲食店5選

こんにちは、むなかたです。

今回は、京都に来た友人に紹介したいお店をいくつかピックアップしてご紹介します。間違いなし!のお店ばかりを選びました。これであなたも京都ツウ!参考にしてみてください。

1 インド食堂TADKA(タルカ)南インドカレー屋さんです。インドで1ヶ月放浪していた私でも、こんなに美味しいインドカレー料理食べたことありません。間違いなく、私のインドカレー人生ナンバーワンのお店です

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それぞれの味覚、それぞれのぬか床

それぞれの味覚、それぞれのぬか床

実家を出て従姉と二人、千葉県に住んでいた頃。私は、縁側で豆苗を育てていた。
育てるといっても、スーパーで買った豆苗の根の部分を残しておき、それを水に浸けて日に当てておくだけのこと。
たったそれだけでスイスイ伸びていく健気さが愛おしく、刈り取った豆苗で作ったお浸しもおいしく、私はとても浮かれていた。

浮かれポンチの私は、その豆苗を二回目に刈り取った時に、茎が以前と比べてかなり細いことや手触りが硬い

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そうだ 寿司、握ろう。

そうだ 寿司、握ろう。

 寿司。それは日本人の心。世界で通じる日本語にもなっている。寿司こそ日本のシンボル。寿司こそ力。

 日本人であれば寿司を握れて当たり前。日本人は毎日寿司を握っている。そんな外国人の期待を裏切ってしまった経験は無いだろうか。私は無い。
 しかし日本人であれば握れるようになっておきたい。まだ出会ったことのない全ての日本人が寿司を握れると信じている外国人のためにも。

 というわけで今回は寿司を握って

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5時

5時

夜よく眠れなかった時期があった。

0時を過ぎて、2時を過ぎて、4時を過ぎる。自分の頭のなかのごちゃごちゃは、自由にうごくけれども体はちっとも眠くならなくて、くらい室内にあるのは使いなれた身体ではなくて制御のできないごちゃごちゃだけ、みたいな感じがした。からだという入れ物を失って部屋じゅうにはみだしてゆくごちゃごちゃ。

「だいたい5時ごろ悟りをひらく」
というのが、眠れない人たちのあいだでの共通

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【検証】無人の物々交換所を設置すると、何が置かれるのか?

【検証】無人の物々交換所を設置すると、何が置かれるのか?

モノを買うとき、その価値も、決済手段さえも自分で考える必要があったら...人は何を支払うのか?無人の物々交換所を設置すると、何が置かれるのか? 検証しました。



先日、「超旅会談」という旅のトークイベントを主催しました。本物のヤギをゲストに呼んだりする一風変わったイベントだったのですが、そこでポストカードを販売することになりました。

登壇者がそれぞれ撮影した、イエメン、南極、トーゴ、硫黄島

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20|卵かけご飯は料理である

20|卵かけご飯は料理である

たまに学生を呼んで食事会をする。人を呼ぶときはたくさん料理をつくるので(これまた学生がびっくりするほど食べる)、「毎日こんな料理が食べられていいですね」と言ってもらえたりするが、普段はそんなふうにはつくらない。

最近は、平日は味噌汁と納豆とか、味噌汁と卵かけご飯とか、朝ごはんみたいな夕飯が多い。

それは、まったくもって手抜きではないと、確信している。

きっかけは、子供にご飯を食べさせるのに苦

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特別なアメリカじゃなくアメリカならどこにでもあるアメリカの日常

特別なアメリカじゃなくアメリカならどこにでもあるアメリカの日常

気軽なアメリカに触れたくなった。ちょうど東京駅に用事があって、ついでに「バビーズヤエチカ」に来る。

ランチがちょうどはじまる時間。お店の中はもうにぎやかで、遅い朝食を終えた人たち、これから昼食をとる人たちと、食卓の様子さまざま。
パイの並んだ入り口脇のショーケースを見る。
あった、あった。ボクの好きなピーカンパイも、タナカくんが好きだったバナナクリームパイもある。さてさて、食後に何をどちらを食べ

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書くということの根っこにあるもの

書くということの根っこにあるもの

編集者を長く続けている方とお話をしたことがある。
そのときあるベテラン作家さんの話になった。日本を代表する著名な作家で、本もたくさん書かれている。

「自分が書くエネルギーの源は、“怒り”なんだ」と、その方が言っていたそうだ。
その怒りこそが、書くという行為を長年続けさせてきたのだ、と。

「そういうもの、あなたにもありますか」
とその編集者さんは私に聞いた。自分がものを作りだす、書くという行為を

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田舎の不思議なパン屋で働いてみた

田舎の不思議なパン屋で働いてみた

2月に鳥取県智頭町にあるタルマーリーというパン屋さんで1ヶ月間インターン生として働きました。

タルマーリーは知る人ぞ知る有名なパン屋です。お店があるのは那岐という智頭の中でもかなり田舎の方。わざわざ足を運んでこないといけないのに、特に土日の昼間はコロナ禍にも関わらずお客さんが次々と来店し、パンを買い、カフェでゆっくり過ごしていく。

おそらくお客さん、そしてファンが多い理由はタルマーリーのオーナ

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嫉妬をしたら手をつなぐ

嫉妬をしたら手をつなぐ

いきなり抽象的な話になりますが、最近「自分」というものが邪魔になるなあと思うことが増えてきました。

「自分」というものがあるから、他者と比べてしまいます。「自分」というものがあるから、劣等感を感じてしまいます。「自分」というものがあるから、誰かと競争することになり、勝ち負けみたいなものが生まれてしまいます。

生まれてこの方、ずっと「自分」と付き合ってきました。

「自己肯定感をあげなさい」とか

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