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「ほんもの」だけを愛する人

「ほんもの」だけを愛する人

Facebookをスクロールしていたら、1月14日からスパイラルでやっている
向田邦子さんの没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」
についての、婦人画報の紹介記事が出てきた。

もう、亡くなられて40年も経つのか、と思った。
台湾で航空機事故で亡くなられた時、私はいくつだったのだろうと、自分の年齢から40を引いてみた。
電話が鳴って、父が大きな声を出したのを覚えている。
当時、新聞記者だっ

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「さわる」ように読む

「さわる」ように読む

「さわる」ように読む。
この言葉に衝撃を受けた。
ただ、感じるのではなく、さわってみるとは、どのようなことか。

私の家の近くには、修道院や教会が点在している。
そのせいか、駅前の本屋さんの一つの棚には、興味深いものがある。

「目からウロコ 聖書の読み方 レクチオ・ディヴィナ入門」
という女子パウロ会の書を見つけた。

私はクリスチャンではないが、西洋美術史の授業は好きだった。
西洋美術と聖書は

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うたかたの日々(日々の泡)

うたかたの日々(日々の泡)

「泡沫」。
「うたかた」と読む。
水面に浮かぶ泡。
儚く消えやすいもののたとえ。

ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」。
肺の中に睡蓮が生長してしまう奇病にかかったクロエと、恋人のお話。

毎年、冬に風邪をひいて咳が胸のあたりから出ると、
「肺に睡蓮の蕾がね・・・。」
曇った空の色に、モネの「睡蓮」の薄紫色が思い浮かんで、
そんな風に冗談を言っていた。

しかし、今年はそんな冗談は言えない。

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モデラート・カンタービレ

モデラート・カンタービレ

人生は儚く、うたかたのよう。
という、フランス人作家、ボリス・ヴィアンの小説。
先日、「うたかたの日々(日々の泡)」について書いたものが、#音楽の記事で、うれしいお知らせをいただきました。

スキを押してくださった皆様、ありがとうございました。

うたかたについて・・・生きている時間について考えてしまいます。
焦る気持ちもありながら、

「時間を得ては時間を失い、時間に逆らって生きる」

という、

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真珠の首飾り A STRING OF PEARLS

真珠の首飾り A STRING OF PEARLS

母の形見の中に、バロックパールのネックレスがある。
歪な形であるがゆえに暖かみや優しさを持つような気がして、歳を重ねるほどに使用する回数が増えた。
真珠の白い柔らかさで、顔まわりが明るくなるような気がする。
もしくは、グレーのバロックパールを白いシャツの襟を大きめに開けてするのも素敵だ。
そんなお洒落は、若いうちは似合わない。
大人の特権だ。

私は、服も持ち物も、できるだけシンプルなものを選んで

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ささやかな日常

ささやかな日常

昨年の今頃は、何をしていただろうか。
ささやかな日常に大きな変化が起きてみると、その大切さに改めて気付かされる。
自分の生活のルーティンが、普通に続くと思っていた日常が、コロナの影響で変わってしまった。

もう、マスクのない日常は、しばらく戻ってこないだろうし、人と簡単に物理的な距離を縮められなくなってしまった。
ハグしようにも憚られるし、握手でさえもできない。

人間同士の結びつき方が変わってい

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心配は「揺り木馬」

心配は「揺り木馬」

気がつくと、同じことを繰り返し何度も考えていることがある。
ある本に、こんなことが書いてあった。

心理学者によると、平均的な人間は1日に六万個の思考を頭の中にめぐらせるそうです。残念なことに、この思考の95%はあなたが昨日考えたことの繰り返しなのだそうです。そしてそれは、そのまた前日に考えたことと同じです。要するに、あなたの頭の中にめぐっている思考のほとんどは、生産性がないおしゃべりで、なんの役

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菫の砂糖漬け

菫の砂糖漬け

森茉莉「私の美の世界」に菫の砂糖漬けが出てくる。

薔薇、菫、なぞは見ても綺麗、
香り(におい)も素晴らしいし、
色も綺麗で、
漢字で書いても素敵である。
それに薔薇も菫も食べても美味しいのである。

薔薇と菫。
漢字で書くと浪漫を感じる。
森茉莉の世界は甘美で、ヨーロッパの香りがする。

以前、2月にスミレ祭りがあるというフランス南西部トゥールーズのお土産に、菫の砂糖漬けをいただいたことがあった

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『おしゃれの平手打ち』

『おしゃれの平手打ち』

『おしゃれの平手打ち』という本を、20代の頃に何度も読んだ。
引越しの度に本を整理したけれど、ずっと手元に残している。

映画評論、随筆、翻訳でも活躍された秦早穂子さんの本だ。
秦早穂子さんは、1950年代のヌーヴェル・バーグ誕生の瞬間に立ち合い、まだ、撮影中だったゴダールの『勝手にしやがれ』を世界で最初に買い付けた方である。

マレーネ・ディートリッヒ、キャサリン・ヘプバーン、ローレン・バコール

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イザラ・ヴェルト 色遊び

イザラ・ヴェルト 色遊び

イザラ・ヴェルトという、雪割草のリキュールを、初めて知った。

行きつけのシャンゼリゼのカフェで、イザラ・ヴェルトに出会う。アルプスの雪の下に咲く雪割草から作るリキュールで、ヴェルト(緑)と、ジョーヌ(黄色)の二種類あるという。年老いたガルソンの妙になめらかな説明に半信半疑ながらも、雪の下に咲く白い花を空想して、イザラ・ヴェルトを注文。エメラルド・グリーンの液体が、小さくて厚ぼったいリキュール・グ

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『豊かに生きる』という本

『豊かに生きる』という本

お正月の記事が、#絵でお知らせをいただきました。
読んでくださったみなさま、ありがとうございます。

お正月からのnoteを読んでいると、「生きる」というワードをよく見かけるような気がします。
コロナ感染が拡大する中で、生死について、否応なく考えるようになったのかも知れません。

お知らせをいただいた記事には、40代で他界した父について書きました。
やりたいことは、できたのだろうか・・・。
まだ、

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「肉眼の思想」

「肉眼の思想」

大岡信の『肉眼の思想』が出てきたので、ページをめくってみた。

最初に読んだのは、高校3年生の時だったと思う。
確か、芸術の評論に関する小論文が美大の受験にあったので、誰かに勧められたのだ。

古すぎて、もう、紙が茶色くなっているこの本を、パラパラとめくってみる。

現代芸術は今大きな過渡期の瀬を渡っている。その瀬の荒い流れ、大小さまざまな波にもまれつつ、自分の位置を確かめ、全体の展望を得ようと努

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ルーシー・リーの器

ルーシー・リーの器

夏の夕方だった。千葉市美術館の閉館に間に合うように走った。
急いで千葉モノレールに乗って見に行ったのは
「没後20年 ルーシー・リー展」。
久しぶりに図録を開いて見たら、当時のパンフレットと葉書が挟んであった。

美しいフォルムと色。
特に、薄いピンク色。どうやって出すのか・・・。このピンクに青が絶妙なバランスで組み合わされる。

ルーシー・リーの作品には、テーブルウェアが多い。
花器、壺、ティー

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