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エッセイ他

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長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
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#毎日note

救済が死にしかなくてもいい

救済が死にしかなくてもいい

 漫画でもアニメでもゲームでも、死によってしか救われないような不憫なキャラクターが好きだ。最終的に「殺してくれ……」とか言い出すような。どう足掻いても報われないタイプの。

 そんな自分の性質を恥じた。自分も含め現実の人間にはもっと救いがなければならない。救いのない人生を好む悪趣味、人の不幸を喜ぶ下劣。

 でも本当にそうだろうかと疑い始める。みんなが幸せであるほうが良い、努力は報われたほが良いけ

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「本当に役に立つ仕事」がしたい

「本当に役に立つ仕事」がしたい

 宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』、そのアニメ映画版を何となく観た。登場人物が二足歩行の猫のやつ。

 飢饉に追われるようにして街に出たブドリは言った。

「どんな仕事でもいいんです」

 続けて、

「とにかく、本当に役に立つ仕事がしたいんです」

 全然どんな仕事でもよくない。人(猫)を食い物にするような詐欺まがいの仕事だったら、飢えていたってきっとブドリはやらない。役に立つ仕事でなければし

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伝わらないタイプの対人不安

伝わらないタイプの対人不安

 落ち着いてるねと言われることが結構あった。他人からそう認識されているということは自分は落ち着いた人間なのかなと漠然と思っていた。

 心の中を覗いてみれば不安と葛藤が渦巻いて波立っていることも多いのだが、比較対象となる他人の心を覗くことはできないから、自分の波が平均よりも高いのか低いのかわからない。これが落ち着いているということならば、他の人はもっと激しい嵐の中にいつもいるのだろう。もっと大変な

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実写は怖いのでアニメを観る

実写は怖いのでアニメを観る

 テレビドラマの中の世界では、現実世界にいるような姿形をした人たちが、現実と同じく肉体と不可分に紐付いた声で、現実の人々に似せた話し方をしている。そうしたリアリティの持つ鈍器のような硬さに耐えられない時がある。

 日常系のほのぼのしたドラマを見つけ、これなら心穏やかに観られるだろうと思っていた。大きな波乱もなく物語は進んでいたのだが、最終回付近で一度だけ、主人公が声を荒げるシーンがあった。時間に

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恋愛ソングが苦手な人のための音楽をクリスマスシーズンに向けて紹介してみる

恋愛ソングが苦手な人のための音楽をクリスマスシーズンに向けて紹介してみる

 冬の歌といえばクリスマスソング。クリスマスソングといえば恋の歌。つまり冬になると理解できない歌が増える。

 いや、まぁ、歌詞の意味は言葉としてわかるが、ロマンス的な感覚がピンと来ないのであくまで他人事。ハッピーラブソングなら良かったねと思うし、失恋ソングなら大変だねと思う。共感はできない。

 こんな自分でも音楽は好きだ。何を聞いているかというと、だいたいアニソンかゲームミュージック。というわ

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恐怖していた、被害妄想だったとしても

恐怖していた、被害妄想だったとしても

 何だか知らないが疲れている。注意力散漫でさっきまで何をしていたかすぐ忘れるし、口の粘膜が荒れて口内炎が次々にできる。どこにも行きたくないし、何もしたくない。手持ち無沙汰になるとゲームをしたりYouTubeを流したりして何となく時間を潰す。停滞、あるいは縮退。途切れた道の続きを探すのも面倒で、快適でもないがそこそこ安全な藪の中にだらだらと留まっている。

 急に訪れた秋に鬱っぽくなっているのか、猛

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僕は土になりたい

僕は土になりたい

 生命の循環する土に還りたい。

 そして何か美しいものを育みたい。

 僕に根を下ろして善いものを吸い尽くし、輝かしい花を咲かせてほしい。

 僕が花になることはできない。代わりに光を蓄える。朽ちて大地を豊かにできるように。

 土壌になるために書いている。

 自分で自分を耕して、掘り起こし、混ぜ返し。

 死んで腐った僕の残骸から、あなたの根が養分を探し当てられるように。

 まだ足りない。

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妄想から願望を探る

妄想から願望を探る

 子供の頃から同じような内容の空想を繰り返し描いている。

 主人公は自分自身ではないが、自分を仮託できるキャラクター。舞台や登場人物はその時に気に入っているフィクション作品から借りてくる。

 主人公は愛する者の遺体を抱いている。死の記憶は消し去られ、彼にとって愛する者は生き続けている。既存のキャラクターで言うと『魍魎の匣』の雨宮が近い。愛する者を決して喪わない彼は幸福だ。

 遺体が朽ちようが

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毎日が修行であってほしい

毎日が修行であってほしい

 修行という言葉は魅力的だ。修行と名付けられた瞬間、苦難はただの苦しみではなくなる。避けるべき苦痛が、乗り越えるべき試練に変わる。耐え抜くことに意味が与えられる。

 出口があると知っているから陰気なトンネルも歩いて行ける。報いがあると信じられるから努力できる。

 楽しいばかりではない日々を生き抜くことが修行だとしたら、到達点はどこだろう。この山を登った先に何があるというのだろう。道は霧に消えて

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喪失をこれ以上知りたくない

喪失をこれ以上知りたくない

 ずっとペットロスを拗らせていた。今ではマシになったと言えるものの、乗り越えたと言えるようなものではない。死者の思い出を笑って話せる日が来るとはなかなか想像できない。

 ずっとずっと悲嘆している。人格の形成過程で悲嘆を中核に取り込んでしまった。

 八歳の時、三歳の頃から一緒に育った犬が目の前で野犬に噛まれ、手術も虚しく数日後に死んだ。次に来た犬は家の前に撒かれていた毒餌を食べて死んだ。生後一年

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社会性ないけど一人は嫌

社会性ないけど一人は嫌

 一人暮らしのアパートは壁が薄かった。

 話し声や足音はもちろん、ちょっとした生活音が聞こえてくることもあった。夜、現実から気を逸らすためにつけていた今時見ないような分厚いテレビを消し、ロフトの上に敷いた布団で横になっていると、誰かのスマホのバイブ音が静かに伝わってきた。

 顔も知らない上階の住人が帰宅する音に救われていた。同じ住処を共有する他人が戦闘態勢を解いて誰の目も意識せずに生活を営む気

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仲間にしか伝わらない

仲間にしか伝わらない

 抗議の言葉は本当に伝えたい相手には伝わらない。

 変わってほしい相手は変わりたいと願っていない。変わらないために耳を塞ぎ、あなたの口を塞ぐ。

 あなたは鏡を掲げて相手の醜い部分を見せようとしている。だが相手の防衛本能が像を歪める。鏡を見ない理由も、醜さを美しさに変換する論理も、いくらでもひねり出すことができる。思考は気付いていない、自らが感情の奴隷だということに。

 相手は傷を隠している。

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立ち上がらない自由

立ち上がらない自由

 傷付いても弱っても生き延びられるというのは幸せなことなのだろうか。

 現代日本でそう簡単に人は死なない。怪我や病気をしても高度な医療がある。福祉がある。様々なサポートをする職業の人がいる。

 人を助けたいという思いは尊い。救われる人もたくさんいる。心身共に健康で「普通」の人しか存在を許されない世の中よりも、色々な人が抑圧されずに生きられる世の中のほうが良い、けれど。

 支援があるからこそ、

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母を助けたかったんじゃない、母に助けてほしかった

母を助けたかったんじゃない、母に助けてほしかった

 もしも母が僕の背中に手を添えて慰めようとしてきたら、僕はその手を叩き落とすだろう。今更優しい振りをするな、もう騙されない、と。昔の母なら、せっかく気遣ってやったのにとキレ散らかすだろう。今ならどうかわからない。

 僕の反応は明らかに過剰だ。母は軽く手を触れただけ。非のないはずの温もりが過去を呼び起こす。僕は過去に怒っている。かつて表現することも持つことさえも許されなかった怒りを、胸の深い空白か

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