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小説

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シソハムチーズトースト

シソハムチーズトースト

食パンにマヨネーズを塗る。その上にハムを乗っけて、シソの葉を1枚そっと乗せる。仕上げにとろけるスライスチーズを乗せてトーストする。
これで完成、シソハムチーズトースト。ポイントはシソの葉だ。コッテリとしたマヨネーズとチーズの間にシソの爽やかな香りがこんにちはする。
これが僕のお気に入りの朝ごはん。

このレシピは彼女の夏野れいが生み出したものだった。

はじめてれいの家に泊まった朝、れいはシソハム

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小3で書いた少年時代の処女作を自分で考察してみた

小3で書いた少年時代の処女作を自分で考察してみた

平成17年度第3学年創作物語集「ゆめの中の話」の中に火花少年の創作物語のデビュー作が記されている。タイトルは「おかしをぬすみに」だ。

僕はこの作品から文章を書くことの楽しさを学んだと思う。そのことは以前この記事にも書いている。

まずはその作品を改めて文字に起こした。

考察タイトルの「おかしをぬすみに」と登場人物の名前が焼肉の部位からして、火花少年は食いしん坊だと思われる。お宝ではなくておかし

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片道切符

「ねえ、俺たちはこの片道切符握りしめてどこへ向かってると思う?」

「地獄」

真っ赤なルージュのカレンは嬉しそうに答える。

そして、僕たちは闇夜に優しく佇む三日月に向かって乾杯した。

アリジゴク

アリジゴク

俺は巷ではアリジゴクと呼ばれているらしい。地獄などおぞましい言葉を名前につけられて、甚だ遺憾である。それにアリクイというそれはそれは大きな怪物もいるらしいではないか。俺だってアリを食べる。どうしてこちらの方が地獄だなんて言われなければならないのだ。なんだったら何百倍も大きいアリクイの方がアリにとったら地獄なのではないのか。そもそもなぜアリ主体なのだ。いつからこの世界はアリのものになったのだ。

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きんつば

きんつば

ホワイトデーのお返しが手作りのきんつばだなんて、花柳くんはやっぱり変わってる。しかも私は老舗和菓子屋の娘。和菓子にはうるさい。

「はい!みっちゃんホワイトデー!きんつばつくってみた!」

屈託のない笑顔で花柳くんはそう言って、私に不恰好にラッピングされたきんつばを渡した。

「すごいやん!自分でつくったん?でもなんできんつばなん?」

「なんでって、そりゃみっちゃん和菓子職人だからさ、みっち

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アーモンド

アーモンド

僕はアーモンド。

桜の花に似ているのに、みんなが綺麗だというのは桜ばかり。

桜より早く咲くのに、桜まだ開花しないねってみんなの頭の中は桜のことばかり。

学校近くの公園に咲くアーモンドをブランコに揺られながら見つめる。桜によく似ていて綺麗なのに、僕らはどうして桜ばかり追いかけるのだろう。

「俺はアーモンド好きだな。だってさ、アーモンドチョコレートうまいもん」

靴を飛ばしながらそう言

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【短編集】beautiful mess

【短編集】beautiful mess

beautiful mess

金木犀と線香花火

人間は運命や奇跡という言葉が好きだ。現実に起きた自分にとって都合のいい出来事を、全て運命と奇跡にするのだ。そして僕もまたそういう人間だった。

八月が終わり、空が少し高くなった気がする九月の初旬。もう夏も終わってしまったのかと言わんばかりのこの世界の雰囲気。アブラゼミが最期の力を振り絞り命の音を鳴らしている。

「翔、もう夏も終わりだな。」

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たねまき

たねまき

ある日、たぬきはきつねに出会った。

「きつねさん、何の種をまいてるの?」

「それが何の種か分からないんだよね」

しばらく月日が経ったある日、たぬきはきつねを訪ねた。

「きつねさん、このあいだの種は芽が出たかい?」

「それがね、芽が出てこないんだ」

きつねは悲しそうに水やりを続けた。そして別の種をまいた。

「こっちの種はなんだい?」

「これかい?それが何の種か分からないんだ」

しば

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黒猫のヨル

黒猫のヨル

ある春の日、黒猫のヨルは本当に美しいものを探しに旅に出た。

最初に出会ったのは桜だった。

初めて見る満開の桜は圧巻だった。

桜の花びらが散るのを見てヨルは綺麗だと思ったが、どこか寂しくなった。

次に出会ったのは虹だった。

その七色に光る橋を見てヨルは心を躍らせた。

しばらくして虹は消えた。ヨルは寂しかった。綺麗なものがまたなくなった。

次に出会ったのは花火だった。

花火の迫力と美し

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交換日記喫茶店#3選択

交換日記喫茶店#3選択

カツカツと革靴を鳴らすスーツ姿のサラリーマン。ランドセルを担いで駆けてゆく小学生。手を繋いで互いの愛を感じ合う大学生のカップル。
昨日も今日も明日も1日のはじめを告げる朝日が綺麗に思えない。
社会のどこにも属さない僕は、社会の全てが敵に見えた。

大学受験に落ちた。それは初めての挫折だった。中学までは成績優秀だった自分。高校受験はすんなりと上手くいった。どこかに慢心があったのだろう。当然の

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【#2000字のドラマ】金木犀と線香花火

【#2000字のドラマ】金木犀と線香花火

人間は運命や奇跡という言葉が好きだ。現実に起きた自分にとって都合のいい出来事を全て運命と奇跡にするのだ。そして僕もまたそういう人間だった。

八月が終わり、空が少し高くなった気がする九月の初旬。もう夏も終わってしまったのかと言わんばかりのこの世界の雰囲気。アブラゼミが最期の力を振り絞り命の音を鳴らしている。

「翔、もう夏も終わりだな。」

片手にガリガリ君という夏を持ちながら海斗は言った。

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交換日記喫茶店#1いい高タンパクを

交換日記喫茶店#1いい高タンパクを

いつまで思い出すのだろう。彼の匂いや声、瞳。1日の中で彼を思い出さなかった日がない。もう別れてから10ヶ月も経つのに。

別れはいつも突然だ。振られた理由は「他に好きな人ができた」だった。私はショックで2日間寝込んで仕事を適当な理由をつけて休んだ。そんな素振りはこの2年間1度も見せなかったのに。私の何がいけなかったのだろう。考えれば考えるほど体調が悪くなった。

「由里子、明日お休みでしょ?ちょっ

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交換日記喫茶店#2幸せのマインドマップ

交換日記喫茶店#2幸せのマインドマップ

「ねえもっと分かる人いないの?」

「申し訳ございません。只今の時間は私しかいなくて…、担当の者なら13時過ぎに来ます」

情けなかった。仕事なのに、仕事にならない。全てが分かるわけなんてないのに、客は店員が全てを知ってると思ってやってくる。でもこんなにたくさんのジャンルを扱ってるホームセンターで全てを網羅するのは困難だし、商品について研修する時間などどこにもない。みんな地道に知識を積み重ねるしか

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センタリング

センタリング

トップ下の一条にボールが渡った瞬間ピッチのサイドラインギリギリをダッシュで駆け上がる。スタミナのリミッターを外して風を切る。
空いたスペースに一条からボールを要求する。一歩目のトラップでドリブルを仕掛け、ワンステップで相手ディフェンダーをかわす。ゴール前にはトップの森が見えた。絶妙なタイミングでセンタリングをゴール前に上げる。
ボールは小さな弧を描き森の足元へ。ピッタリとタイミングが合ったボールは

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