アーモンド
僕はアーモンド。
桜の花に似ているのに、みんなが綺麗だというのは桜ばかり。
桜より早く咲くのに、桜まだ開花しないねってみんなの頭の中は桜のことばかり。
学校近くの公園に咲くアーモンドをブランコに揺られながら見つめる。桜によく似ていて綺麗なのに、僕らはどうして桜ばかり追いかけるのだろう。
「俺はアーモンド好きだな。だってさ、アーモンドチョコレートうまいもん」
靴を飛ばしながらそう言ったのは同じクラスのハルヒトだ。
そうこいつはクラスの桜。
ハルヒトは誰もが認めるイケメン、陸上部のエース、成績は学年3位。クラスの女子はハルヒトに釘付けだ。
幼なじみの僕はいつだってハルヒトに負けていた。陸上を初めたのは僕の方が早かったが、中学に上がった頃からハルヒトに勝てなくなった。大きな差なんてないのに、いつも勝てない。勉強も僕は学年5位でハルヒトは3位。少しの差なのに、僕は大きな差を感じた。ハルヒトみたいな桜になりたい。みんなに愛されるような。憧れられるような。
桜は愛されるくせに、すぐに散っていく。
去年の春の終わり、ハルヒトは転校した。ハルヒトにはお父さんがいなく、お母さんと暮らしていたのだが、再婚することになったらしい。再婚相手はハルヒトの義理のお父さんになるということになるが、そのお父さんの都合で東京に引っ越すことになったらしい。
最後に会ったのは、アーモンドの花が咲くあの公園だった。そしてアーモンドの花はほぼ散っている。
「カズト、お前はさ、桜じゃなくてアーモンドみたいになれよ。桜はすぐに散るけどさ、アーモンドは散っても、実として活躍する。花が咲いたときに誰かに気付かれなくても、実がみのったときに大活躍するようなやつになれよ。そんでもってアーモンドの花言葉は希望なんだぜ」
まるでアーモンド大使のようにハルヒトはアーモンドを語った。そしてそれは僕の心臓に響いた。
「ハルヒトはアーモンドになりたくねえの?」
「なりたくねえ、だって新しいお父さんアーモンドアレルギーなんだってさ、笑うよな」
ハルヒトの飛ばしたスニーカーと笑い声が天高く舞った。その笑い声にはどこか新しい生活への不安が感じられる。
桜が散った後の春はとても寂しい。僕はハルヒトがいなくなってから、一段と頑張った。陸上も勉強も。アーモンドが実をみのらせるように。
ハルヒトに言われたあの言葉を大切に胸にしまって生きている。
そう僕はアーモンド。
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