少年プリズン85

強制労働が終了した。
 帰途につくバスの車内、吊り革に掴まりながら考えを整理する。ロンの語るサムライ、安田の語るサムライ。両者が知るサムライと僕が知るサムライとの開き。隔たり。埋まらない溝。とくに重要なのは安田の証言だ、東京少年刑務所副署長の安田は東京プリズンに来たばかりの頃のサムライを知っている。
 サムライは医務室に運ばれる最中も頑として手紙をはなさなかった。
 その事実が物語るものは?
 た

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少年プリズン84

「ここでなにをしてる」
 無感動な声に振り向く。
 「やべっ」
 尻に付着した砂をはたき落とし、ロンが腰をあげる。
 「先行くぜ。ちっ、思い出話に耽るなんて年寄りくせー真似しちまった」
 面映げに舌打ちしたロンが砂に足跡の窪みを残して走り去る。そそくさと退散したロンに遅れをとり、中途半端に腰を浮かせた姿勢で立ち尽くした僕はゆっくりと小屋の曲がり角に視線を流す。
 まず目に入ったのはよく磨きこまれた

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少年プリズン83

「おーいキーストア、だいじょうぶか」
 レイジの気楽な声と顔の前を往復するてのひらで我に返る。ヨンイルの告白、サムライにまつわるエピソード……すぐには衝撃から立ち直れそうもない。書架に片手をついてなんとか立ち上がった僕の鼻先にスッと一冊の本がさしだされる。
 「餞別や」
 ヨンイルが笑っている。ヨンイルが手にしているのは黒衣の男がメスを構えた表紙の漫画本。作者名は……手塚治虫?
 「いらない。きみ

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少年プリズン82

「ヨンイルは図書室のヌシなんだ」
 先頭を歩くヨンイルにレイジ、僕と並んで書架の間を進む。
 「しかも東京プリズンにきて長いからヨンイルが知らないことはねえ」
 「ほめてもなんもでえへんで」
 我が事のように自信ありげに豪語するレイジにヨンイルが苦笑する気配。縦一列に並び書架と書架の間を進んでいるとやがて二階最奥、蛍光灯の光も射さない薄暗い場所にでる。壁一面を巨大な書架が占めた行き止まりの手前で立

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少年プリズン81

東京プリズンにきて四ヶ月が経った。
 四ヶ月での目に見える変化といえば少し日に焼けたこと、少し背が伸びたことくらいだ。
 身長に比例して増えるはずの体重は減った。
 心境の変化として挙げられるのはここでの生活に馴染み、外のことをあまり思い出さなくなった点だ。
 強制労働中は頭を空白にし、シャベルの上げ下げだけに集中する。
 雑念を散らし、頭をからっぽにし、シャベルを握る手元に意識を傾けてひたすら単

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少年プリズン80

夜中に目を覚ますと今でも時折自分がどこにいるかわからなくなる。
 四隅に錆びた配管の走った低い天井。視界を圧迫するように頭上を塞いだ陰鬱な天井から壁に沿って視線をめぐらす。コンクリート打ち放しの殺風景な壁にはところどころどす黒い染みが浮き出している。壁の内部に埋め込まれた配水管から漏れた水が斑模様の痣にも見える暗色の染みを壁に浮き上がらせているのだ。
 痣。僕の体にあるのとそっくりな。
 そこまで

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少年プリズン79

その家は暗く湿った木造家屋だった。
 どっしりと太く貫禄のある黒光りする梁、威圧感のある重厚な骨組み。天井は開放的に高いが、日本家屋特有の採光の悪さから板張りの廊下の端々にはいつも闇がたちこめていた。
 森閑と静まった外廊を一人の男が歩いている。
 否、男というより少年と形容したほうが正しい。
 外見は十代半ばに見えるが、もう少し若いかもしれない。とても姿勢が良い。一足ごとに歩いていても少しも姿勢

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先生と豚16

紅林は思い出したようにこれまで疑問に思っていた事を柿崎にぶつける。
「そういえば、あの協力者って誰だったんだよ。金庫に来たとき顔の半分くらいしか見えなかったから結局誰かわからなかったし」
「さあねぇ」
 柿崎は首をかしげる。
「さあねって、先生は知ってんだろ」
「どうだろう?」
 にこにこと人好きのする笑みをたたえて柿崎は答える。
その反応に紅林は舌打ちした。
「隠さなきゃなんない人物なのかよ」

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嬉しいです〜〜!!!
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連載《魔法少女えりっこ×りょっこ》第1話

この小説は、投げ銭制です。
 1話につき100円に設定しています。

 面白そうだな、と思ったらぜひ投げ銭をよろしくお願いします。
 これからの創作活動の活力になります!

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 椿野恵璃子は戦っていた。真っ直ぐに切りそろえた前髪、腰まで長さのある美しい黒髪のポニーテールをなびかせ、白と黒を基調としたゴシック服に身を包み、剣を持った『魔術師』になって、迫りくる複数の人型の影と。
 恵璃

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ありがとうございます!秋田の空をお届けします☆
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連載百合小説《とうこねくと!》東子さまの知らない恋物語(2)

みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
 前回のお話に引き続き、今回のお話も私の高校時代の回想シーンです。

 ある日の放課後。この日もまた、誰もいない教室にふたりきりです。6時限目が体育だったこともあり、私たちは体操着のまま語り合っていました。汗をたっぷり吸った体操着はジメッと体温をこもらせて、独特の甘酸っぱい匂いを生ぬるく漂わせます。
「北郷ちゃんさ、好きな人いるの?」
 Tシャツの袖とハーフ

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ありがとうございます!国道285号線の自然をお届けします☆
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