「足跡」~青ブラ文学部「#はじめて切なさを覚えた日 」
晩夏の夕暮れ、「足跡」は赤褐色に染まった隅田川を左に見て遊歩道を歩いていた。散歩する老婦人、並んで走る若い男と女、虫取り網を持った親子連れ。ふと足を止めると排水口に一匹の干からびた蝉の死骸があった。
「足跡」は飛ぶ。子供の頃よく遊んだドブ川へ。油くさく廃棄物にまみれた川に降りる坂道の途中に蝉の死骸が落ちていた。同時につい一月前、明け方の蝉の合唱に癇癪を起こした母の姿を思い出した。一月も待たずに終わった蝉の一生。あのときの切なさを超える感情は以後見つからなかった。一生が短い