惰眠

諦めと徒労の連続

惰眠

諦めと徒労の連続

マガジン

  • 日記というにはあまりにも

    流れる日常、更に勢いを付けて垂れ流しています 私小説もここに振り分けていたりします

  • 小説

    これまでに書いた創作小説をまとめています。 「創作」の綴りが無いものに関しては全てエッセイであるし、私の詰まらない生活の集約なので、小説を読みたい方は此方へ。

  • 書き散らし

    思考の分散体 まとまりが一切無いです 私自身と一緒で

  • All'd BLUE

    suzuriで服を売っているので全人類買ってください。

最近の記事

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朝が来るなら / 創作

お腹が減ったわけでもなければ、制御不能な食欲に襲われたわけでもない。眠る準備を済ませたのは、もうだいぶ前のことだ。けれどもせっかくの週末、ほぼ眠り倒して使われた時間に対しては堪えきれないやるせなさがあった。こんな夜中にアイスコーヒーを用意して、いつか食べ損ねたブリュレを食べ始める。明日は普通に仕事があるし、月初に提出しなければならない書類に手付かずのまま週末を迎えたから、明日は出勤をだいぶ早めなければならないことになっている。生まれ持っての過眠体質で、9時間くらい眠らなければ

    • きっと、誰も読まないのだから

      年度当初から一切引き継ぎのない状態で仕事をスタートした。" 全て " がない状態から " 全て " を構築するのだから、ハンニバル将軍のアルプス越えに匹敵するくらい、無理のあることだ。農地開拓に適さぬ荒廃した土地を前に、一度は絶望した屯田兵の気持ちが、今になれば分かるような気がする。まるで他人事のように会議内容を聞き流して、ふたつの会社から人数分の資料が届いたのは、仕事を始めてからしばらくのことだった。幸い、異動先の人間がこれを引き取ってくれたことで事は落ち着いたのであるが、

      • 震える指先、脈を攫って

        雨の中で吸う煙草。その昔親族が集まる度に叔母の化粧ポーチからくすねた煙草と同じ味がする。この春から勤務地が変わって、出勤に要する時間が2倍に伸びることになっても、相変わらず会議室に揺蕩う眠気は顔色を変えない。先の職場は禁煙という制約を掻い潜る術があり、これを以て立ち上る眠気を制していたが、何処から覗いても建屋の外見が蔑ろになるような造りが、やがて私の暗躍を無きものとする。昨年よりも仕事の量も一段と減り、どう動いたら良いのかなんていうことを考えさせられるようになった。大昔の人間

        • 欠落

          少し前に購入した自家用車は生産から15年経っているオンボロ車で、外装の加工に縋って外面だけは新品同様、この年を生き延びている。純正品のカーナビは2006年を最期に時が止まっていて、4年前に開通した道路の存在を彼はまだ知らず、延々と田園地帯の上を走らせる。近隣にはその昔、由緒正しき日本家屋を基調とした割烹居酒屋が建っていた。まともな人間であれば確実に寝静まるような夜更けの街に、飴色の光を煌々と差し出していたことをよく覚えている。誘蛾灯に吸い寄せられるように店先まで辿り着いたかと

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        朝が来るなら / 創作

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          揮発

          熱々の湯が並々注がれた湯船に入ること。流れる日々の中で、ほんの少しだけ通りかかる幸福感は、何者にも変え難い。鼻をつまんで湯船に潜りながら、静かに膨らむ湯の音を聞く。その昔は1分間水中に潜ることなどなんてこと無かったのだけれど、凡そ5年ほどに及ぶ不摂生な生活がもとで、今は55秒の時を数える頃にはじたばたと苦しい思いをする。昨日よりも一昨日よりも長く潜ることが叶う度に、まだまだ呼吸ができるのだと実感して、この辺りで抜群の " 生 " たるものを確認するのだった。 職場にて年甲斐も

          Beluga. / 創作

          1957年11月3日ーーー。 この日はソ連がスプートニク2号を打ち上げた日であり、世界初の人工衛星として大きな注目を集めた。搭乗していたのは人間では無く、一匹の犬だった。その名をライカという。 ライカはもともとモスクワ生まれの野良犬で、数ある動物の中から適応能力の高い犬が選ばれ、数頭ばかり、宇宙への渡航を担われたうちの一頭だった。 有人飛行を目指した地球の周回軌道を巡る旅行は当時の技術では片道切符に等しく、打ち上げから4日後に狭い船内で息を引き取る。それから100日あまりして

          Beluga. / 創作

          やさしくない / 創作

          「優しいばっかりが愛じゃないと思うんだよね、俺は」 そう友人に忠告された時点でもう遅く、彼女と別れてから早くも2年の月日が経っていた。ラストオーダーの時間も過ぎたグラスの中身も、氷がそのほとんどを埋め尽くす。中に注がれるのは烏龍茶のままで、至って素面にも関わらず、裏腹に顔が紅潮しているのが分かる。人が少しづつ散り散りに消えていき、その度に友人の声が繊細に耳を擽った。隣の宅に聳えていたジョッキの塊もひと息に下げられたところで、そろそろ店を出るべきなんだ、そう思う。ただ、足だけ

          やさしくない / 創作

          インソムニア

          体調を崩して何となく仕事を休みを取った。突発的に悪くなった、という訳ではなく、ピースが抜かれ続けてグラグラになったジェンガのように、少しずつ芯がなくなってきた頃、繁忙期前日を狙って休みを取った、ただそれだけの事である。週明けのどんよりとした空を見ながら、プツンと糸が切れる音がしたような気がして、震える手元を制御しながら、覚えのいい番号を入力した。静かな部屋の中で職場に電話を掛けたところまではよく覚えている。ただそこでどんなやり取りをしたのかというところまでは、あまり記憶にない

          インソムニア

          Camellia

          椿の種は思ったよりも早く丈の低い紙皿を埋め尽くし、拾った種子たちの宛先を買ったばかりのコートの胸ポケットへと移した。外殻の硬い部分を指で撫で付けながら、ラグビーボール様の塊と小石を丹念に分別する。間違えてドングリを4つばかり手にして、今日ばかりは用がないと暗がりに放った。一見見分けの付かない山茶花と椿の違いはその花の散り方にあるが、葉脈の構造も大きく異なる。しかし時は夕刻、途轍も無い勢いで落ちてくる陽光を前にすると、そんなものを丁寧に確認するほどの猶予は残されていない。長い時

          Async / 創作

          37℃の微熱。緩く挟んだ脇の隙間から、弱々しい電子音が聞こえる。長年付き合った彼が唯一忘れていった体温計もそろそろ寿命が迫っていると見えて、その音も随分と弱々しく聞こえる。生まれつき脇で計る家系に生まれた私は、ただ彼が口腔で体温を計るという部分に拘って、付き合っている彼に倣って私もそうしていた。しかし数年前に離別してからというもの、元の鞘に立ち返り、脇で計ることに決めている。 薄く柔らかに見える、37.7の横文字。少しづつではあるものの、家から程近い停留所に着いた頃からぐんぐ

          Async / 創作

          不健康だが文化的な、最低の生活

          足元がびしょびしょになった小便器を見つめながら、来世は女性がいい、と思う夜がある。ネットを開いて下スワイプを繰り返すと、振袖の着付けにあえぐ若い子たちの呟きがこちらまで漏れてきた。このことについて毎シーズン、一瞬でも頭を巡らせたかと思えば一瞬でこれらの労苦を忘れている気がする。安易に " 女性になりたい " なんて言うものじゃないかもしれない。きらきらと光る人の塊を目に入れる度に、成人の日をすごく遠くに感じるのは、今も昔も感覚としては変わらない。私が先輩だと思って見つめていた

          不健康だが文化的な、最低の生活

          2023

          箱根駅伝の特集が組まれているということ、即ちそれは年末を意味する。昨年もこうしてボサボサの頭を放置しながら箱根の特集を見ていた。高校野球児に向ける眼差しによく似て、未だ画面に映る彼らを歳上と思う感覚が抜けない。大掃除次いでに台所で長い間眠っていた珈琲豆を手動ミルで丹念に挽き、ドリップしたものを飲む。舌先で受け取る酸味が時間の経過を教えてくれる。どれだけ生活が煩雑になろうとも、日常の中に潜むこうした手間を大切にしている。少しずつではあるが、豆によって異なる食味やコクといった感覚

          破壊的価値創造

          飲まない人間による忘年会の二次会出席ほど有益性の無いもの、この世界の何処を探してもそうそうない。一次会ではまだ人間だった同僚達も、二次会会場の暖簾を潜る頃にはすっかり人間では無くなっている。日頃真人間らしく世の中を渡り歩いている大人達がたちまち、音を立てて壊れていく様子を冴え渡った目で見ることが、飲み会に出席する上での一種の通過儀礼と化している。先程訪れた店でそこそこの量の食事を摂ったと思っていたのは私だけで、アルコールが染みた者たちは風の速さで割り箸を2つに割ったかと思えば

          破壊的価値創造

          暗夜に手向け / 創作

          日の入りとともに表が騒がしくなり始めた。既に閉じられているカーテンを改めてレールギリギリまで閉め直すと同時に、テレビの音量を上げる。こうすると喧騒も幾らか薄まるような気がする。 毎年この時期になると、表の幹線道路はどこもかしこも車でいっぱいになる。特にクリスマスから年末年始、足がけ2週間に及ぶ期間は酷いもので、数ブロック先に横並びになった国道の激しい往来を避ければこの道こそ空いているのではないか、と同じことを考えたもの同士でたちまち片側二車線の道路がごった返すのだった。然しな

          暗夜に手向け / 創作

          その一瞬のかがやき

          この日のために、一年待った。使い古したカーペットを物置にしまって置いたのも、こんな時間からヒートテックに袖を通したのも、この夜のためだ。夕飯は早くに食べたから、今しがた消化が始まると中途半端に腹が減る。デスクチェアの上でクルクルと廻りながら空を眺めていても、一向に雲がそこを退かなかった。仕事のみを生きがいにしてそうな同僚も、堅物な先輩も、「流星群」と1度は呟いて家へと帰った。 半分ほど開いた小窓に向かい、窓の外へと吹き流すように煙を吐いた。縛れるような寒さのお陰で、この頃は

          その一瞬のかがやき

          あのこの髪の毛 / 創作

          フックの2段目にシャワーのヘッドが掛けられているのを見て、大きく溜息をついた。こういう所が嫌いなんだ、そう思いながらシャワーヘッドをもとの位置に戻す。箸の持ち方が何だかおかしくて、居酒屋ではネギトロ巻きを頼みながら 「ネギが嫌いなんだ〜」と言いながら箸先で丹念にネギだけをつまみとったかと思えば、醤油差しの端っこにネギを擦り取り残骸もろとも口に運ぶ。終電の計算というものがなく、サークルに私を誘った、という交だけを頼りに、転がり込むようにして駅からほど近い家に泊まる。二人で眠ると

          あのこの髪の毛 / 創作