惰眠
流れる日常、更に勢いを付けて垂れ流しています 私小説もここに振り分けていたりします
これまでに書いた創作小説をまとめています。 「創作」の綴りが無いものに関しては全てエッセイであるし、私の詰まらない生活の集約なので、小説を読みたい方は此方へ。
思考の分散体 まとまりが一切無いです 私自身と一緒で
suzuriで服を売っているので全人類買ってください。
お腹が減ったわけでもなければ、制御不能な食欲に襲われたわけでもない。眠る準備を済ませたのは、もうだいぶ前のことだ。けれどもせっかくの週末、ほぼ眠り倒して使われた…
「孤独」がまあまあ使いやすい言葉になってしまって、彼女だって彼氏だって、家族だって友達だっている上に一定の立場と金もあるような奴がこぞってその手の言葉を雑に振り…
生まれつき、「待つ」ことを激しく苦手としていた私にとって、テレビゲームという存在は底の見えない退屈そのものだった。起動ボタンを押してから、動き出そうとするまでに…
我が家にはピアノがある。私が生まれてから24年間、ずっと。私が生まれるよりもはるか昔から、立て付けの悪い場所に放り出されたままになっているそれは、10歳上の姉の為に…
テーブルの上に置かれた瓶一杯分のハチミツ。それこそが家の中に伝わる、唯一の愛情だった。 国内には凡そ4500種余りの蜂が生息する。そのうちミツバチと類する蜂は2種生…
" 新しい " を何と読む。元はと云えば 「あらたしい」と読まれていたものが江戸時代からの長きに渡る誤用で、「あたらしい」と読むようになったという。その証拠に " 新た…
「おじいちゃんによろしくね」 娘からの言葉を貰って改めて、私は人の親になり、私が父と呼んでいた人間は別の名前を授かっているのだと悟った。キャリーケースを慣れない…
年度当初から一切引き継ぎのない状態で仕事をスタートした。" 全て " がない状態から " 全て " を構築するのだから、ハンニバル将軍のアルプス越えに匹敵するくらい、無理…
雨の中で吸う煙草。その昔親族が集まる度に叔母の化粧ポーチからくすねた煙草と同じ味がする。この春から勤務地が変わって、出勤に要する時間が2倍に伸びることになっても…
少し前に購入した自家用車は生産から15年経っているオンボロ車で、外装の加工に縋って外面だけは新品同様、この年を生き延びている。純正品のカーナビは2006年を最期に時が…
熱々の湯が並々注がれた湯船に入ること。流れる日々の中で、ほんの少しだけ通りかかる幸福感は、何者にも変え難い。鼻をつまんで湯船に潜りながら、静かに膨らむ湯の音を聞…
1957年11月3日ーーー。 この日はソ連がスプートニク2号を打ち上げた日であり、世界初の人工衛星として大きな注目を集めた。搭乗していたのは人間では無く、一匹の犬だった…
「優しいばっかりが愛じゃないと思うんだよね、俺は」 そう友人に忠告された時点でもう遅く、彼女と別れてから早くも2年の月日が経っていた。ラストオーダーの時間も過ぎ…
体調を崩して何となく仕事を休みを取った。突発的に悪くなった、という訳ではなく、ピースが抜かれ続けてグラグラになったジェンガのように、少しずつ芯がなくなってきた頃…
椿の種は思ったよりも早く丈の低い紙皿を埋め尽くし、拾った種子たちの宛先を買ったばかりのコートの胸ポケットへと移した。外殻の硬い部分を指で撫で付けながら、ラグビー…
37℃の微熱。緩く挟んだ脇の隙間から、弱々しい電子音が聞こえる。長年付き合った彼が唯一忘れていった体温計もそろそろ寿命が迫っていると見えて、その音も随分と弱々しく…
2023年10月2日 01:19
お腹が減ったわけでもなければ、制御不能な食欲に襲われたわけでもない。眠る準備を済ませたのは、もうだいぶ前のことだ。けれどもせっかくの週末、ほぼ眠り倒して使われた時間に対しては堪えきれないやるせなさがあった。こんな夜中にアイスコーヒーを用意して、いつか食べ損ねたブリュレを食べ始める。明日は普通に仕事があるし、月初に提出しなければならない書類に手付かずのまま週末を迎えたから、明日は出勤をだいぶ早めなけ
2024年7月6日 02:47
「孤独」がまあまあ使いやすい言葉になってしまって、彼女だって彼氏だって、家族だって友達だっている上に一定の立場と金もあるような奴がこぞってその手の言葉を雑に振り回すものだから、いつからか孤独という二文字は本当にたった一人を指す最小単位じゃなくなってしまった。孤独が嫌ならあの時隣に居た人たちを突き放さなれければ良かったし、何としても埋めたいならそのふた足で歩き出せばいいのに、ただ身勝手に立ち止まっ
2024年6月26日 01:07
生まれつき、「待つ」ことを激しく苦手としていた私にとって、テレビゲームという存在は底の見えない退屈そのものだった。起動ボタンを押してから、動き出そうとするまでに必ず、相手側の都合で極めて無意味な猶予を与えられる。慣れている人たちはこの間を縫ってゲームの話をするなどして上手く遣り繰りするのだが、一方の私はと言うと、一定の周期でぐるぐると回るロード画面を見つめることがやっとで、それすら終わる頃には、コ
2024年6月8日 14:12
我が家にはピアノがある。私が生まれてから24年間、ずっと。私が生まれるよりもはるか昔から、立て付けの悪い場所に放り出されたままになっているそれは、10歳上の姉の為に招き入れられたものだった。一番古い記憶を思い返す。いつの日のことかなんて、もう覚えていないけれども、床に座り込んだ私の頭とピアノ椅子の座面が同じ高さであったことから辛うじて、幼子が見た景色であることが分かる。学校から帰るとよく、姉がピア
2024年6月6日 00:32
テーブルの上に置かれた瓶一杯分のハチミツ。それこそが家の中に伝わる、唯一の愛情だった。国内には凡そ4500種余りの蜂が生息する。そのうちミツバチと類する蜂は2種生息しており、原生種であるニホンミツバチ、外来種であるセイヨウミツバチがいる。アリ同様、巣内には厳重な社会統制が敷かれていて、ひとつの巣には女王バチを筆頭に数万の働きバチ、通称ワーカーが犇めき、繁殖道具としてのオスバチが数百、暮らしを
2024年6月5日 00:33
" 新しい " を何と読む。元はと云えば 「あらたしい」と読まれていたものが江戸時代からの長きに渡る誤用で、「あたらしい」と読むようになったという。その証拠に " 新たな " と書き付けたなら、「あらたな」という音が帰ってくる。間違いが長い時間をかけて正しくなってしまう。確かに「あたら」と読むより「あらた」と読むほうが遥かに耳障りが良いと感じるし、日常に飛び交う誤りを知りつつもまた少しだけ、知らな
2024年5月6日 14:19
「おじいちゃんによろしくね」娘からの言葉を貰って改めて、私は人の親になり、私が父と呼んでいた人間は別の名前を授かっているのだと悟った。キャリーケースを慣れない様子でゴロゴロと転がす娘が、段々と小さく、駅のホームへと消えていく。助手席に座る妻が少し寂しそうな顔をして、振り返らない娘に向かって手を振っている。一方私はというと、つきものが落ちたような感覚で、グローブボックスから煙草を取り出し、口に咥え
2024年4月30日 23:40
年度当初から一切引き継ぎのない状態で仕事をスタートした。" 全て " がない状態から " 全て " を構築するのだから、ハンニバル将軍のアルプス越えに匹敵するくらい、無理のあることだ。農地開拓に適さぬ荒廃した土地を前に、一度は絶望した屯田兵の気持ちが、今になれば分かるような気がする。まるで他人事のように会議内容を聞き流して、ふたつの会社から人数分の資料が届いたのは、仕事を始めてからしばらくのことだ
2024年4月16日 00:28
雨の中で吸う煙草。その昔親族が集まる度に叔母の化粧ポーチからくすねた煙草と同じ味がする。この春から勤務地が変わって、出勤に要する時間が2倍に伸びることになっても、相変わらず会議室に揺蕩う眠気は顔色を変えない。先の職場は禁煙という制約を掻い潜る術があり、これを以て立ち上る眠気を制していたが、何処から覗いても建屋の外見が蔑ろになるような造りが、やがて私の暗躍を無きものとする。昨年よりも仕事の量も一段と
2024年3月24日 20:36
少し前に購入した自家用車は生産から15年経っているオンボロ車で、外装の加工に縋って外面だけは新品同様、この年を生き延びている。純正品のカーナビは2006年を最期に時が止まっていて、4年前に開通した道路の存在を彼はまだ知らず、延々と田園地帯の上を走らせる。近隣にはその昔、由緒正しき日本家屋を基調とした割烹居酒屋が建っていた。まともな人間であれば確実に寝静まるような夜更けの街に、飴色の光を煌々と差し出
2024年3月13日 01:02
熱々の湯が並々注がれた湯船に入ること。流れる日々の中で、ほんの少しだけ通りかかる幸福感は、何者にも変え難い。鼻をつまんで湯船に潜りながら、静かに膨らむ湯の音を聞く。その昔は1分間水中に潜ることなどなんてこと無かったのだけれど、凡そ5年ほどに及ぶ不摂生な生活がもとで、今は55秒の時を数える頃にはじたばたと苦しい思いをする。昨日よりも一昨日よりも長く潜ることが叶う度に、まだまだ呼吸ができるのだと実感し
2024年2月20日 01:45
1957年11月3日ーーー。この日はソ連がスプートニク2号を打ち上げた日であり、世界初の人工衛星として大きな注目を集めた。搭乗していたのは人間では無く、一匹の犬だった。その名をライカという。ライカはもともとモスクワ生まれの野良犬で、数ある動物の中から適応能力の高い犬が選ばれ、数頭ばかり、宇宙への渡航を担われたうちの一頭だった。有人飛行を目指した地球の周回軌道を巡る旅行は当時の技術では片道切符
2024年2月19日 21:56
「優しいばっかりが愛じゃないと思うんだよね、俺は」そう友人に忠告された時点でもう遅く、彼女と別れてから早くも2年の月日が経っていた。ラストオーダーの時間も過ぎたグラスの中身も、氷がそのほとんどを埋め尽くす。中に注がれるのは烏龍茶のままで、至って素面にも関わらず、裏腹に顔が紅潮しているのが分かる。人が少しづつ散り散りに消えていき、その度に友人の声が繊細に耳を擽った。隣の宅に聳えていたジョッキの塊
2024年2月8日 01:50
体調を崩して何となく仕事を休みを取った。突発的に悪くなった、という訳ではなく、ピースが抜かれ続けてグラグラになったジェンガのように、少しずつ芯がなくなってきた頃、繁忙期前日を狙って休みを取った、ただそれだけの事である。週明けのどんよりとした空を見ながら、プツンと糸が切れる音がしたような気がして、震える手元を制御しながら、覚えのいい番号を入力した。静かな部屋の中で職場に電話を掛けたところまではよく覚
2024年2月4日 21:57
椿の種は思ったよりも早く丈の低い紙皿を埋め尽くし、拾った種子たちの宛先を買ったばかりのコートの胸ポケットへと移した。外殻の硬い部分を指で撫で付けながら、ラグビーボール様の塊と小石を丹念に分別する。間違えてドングリを4つばかり手にして、今日ばかりは用がないと暗がりに放った。一見見分けの付かない山茶花と椿の違いはその花の散り方にあるが、葉脈の構造も大きく異なる。しかし時は夕刻、途轍も無い勢いで落ちてく
2024年1月16日 01:23
37℃の微熱。緩く挟んだ脇の隙間から、弱々しい電子音が聞こえる。長年付き合った彼が唯一忘れていった体温計もそろそろ寿命が迫っていると見えて、その音も随分と弱々しく聞こえる。生まれつき脇で計る家系に生まれた私は、ただ彼が口腔で体温を計るという部分に拘って、付き合っている彼に倣って私もそうしていた。しかし数年前に離別してからというもの、元の鞘に立ち返り、脇で計ることに決めている。薄く柔らかに見える、