万条由衣

小説が好き。たぶん純文学と思われるものを書いて、文芸誌に応募中。Amazon Kind…

万条由衣

小説が好き。たぶん純文学と思われるものを書いて、文芸誌に応募中。Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)より『赤いドレスをめぐる、あなたと私の狂想曲/鳥神奇譚』を出版。新潮新人賞、群像新人文学賞予選通過作品を収録。

最近の記事

日々の雑感

モカ。すごい酸味。苦味より好きだから選んでるけど、ここまで酸っぱいとなんか違うなあと思いながら、コーヒーをすする。数十年ぶりに服用したパブロンSゴールドWがわずかながら効力を発揮しているのを感じている。 誰かが撮った文フリ会場の写真を見かけた。お目当てのブースに辿り着くばかりか、息を吸うのも大変そうな混み合い。「会いたい」より少し距離がある「会っておきたい人」の顔ともすれ違いで無駄足になり、あれ、と思っていた1冊が手に入らず、残り1冊!と見知らぬ人に声かけられてお金を渡した

    • 純文学に挑み続ける(私と答え合わせをしませんか)

      純文学とは何かーこの問いに答えを与えるために、私は小説を書いている気がする。新人賞に応募し続けていると、どうしてもそれらしきものを探り、それらしきものに寄せようと試行錯誤するからだ。文体に凝ったり、具象から抽象をねらったり(またその逆もあり)、人称や時制を駆使したり、人間ドラマを書いたり……挑み方は人それぞれ、そのときどきだろう。 セルフ出版した作品の、とくに『赤いドレスをめぐる、あなたと私の狂想曲』を書いているあいだは、その物語が必然的に要する文体はどんなものになるのか考え

      • 「心的現実」と幻想小説ー小砂川チト『猿の戴冠式』に寄せて

        精神分析学を創始したS.フロイトは、無意識の精神過程では、客観的現実が無視され、心的現実に置き換えられているとした。心的現実とは、他人が聞いたら嘘に思えるようなことでも、その人の中では実際に起きたと認識され、そう信じていることを言う。 この「心的現実」という言葉は私の中で、カウンセリングの過程を知る上で重要な現象のひとつ、といった程度の知識だった。ところが、ある日それは私自身に体験された。 その日、友人と言うには深過ぎて、知人というには浅過ぎるくらいの「大学のスクーリング

        • 第170回芥川賞候補作品についてー受賞予想と感想ー

          まずはじめに、謝罪しなければならない。熱量の配分ができず、書き手が不能なために非常にバランスの悪い、ムラのある記事になってしまった。書かれたテキストの分量は、候補作品に甲乙をつける意図があった訳ではないし、候補作品すべてに対して敬意を表します。今回も楽しませてくれてありがとうございます。そしてごめんなさい。(でも私は書評家でも作家でもないので、どうぞご容赦くださいませ) なお、『東京都同情塔』の「解釈と感想」部分については、ネタばれになる可能性もあるので未読の方や影響されたく

        日々の雑感

          5分で読める某短篇の賞に応募した作品(原稿用紙換算枚数15枚)

          読んだらどの賞に応募したか分かってしまうこと自体、失敗の原因であると思われる落選作です。でも、言葉遊びが好きだし、表現されるイメージが好きだから、自分は小説を書いているんだなと納得する作品でもありました。隙間時間にどうぞお読みください。 『 イチルの希望  』   万条 由衣   白い花、白い大きな花がゆれてるみたいに帽子が上下に動きながらゆっくり離れていく。白いのにはば広いつばがあるからそれは麦わら帽子なのだ。かぶっている娘が、同じような白い色をしたワンピースのすそを

          5分で読める某短篇の賞に応募した作品(原稿用紙換算枚数15枚)

          2023年を振り返って

          振り返っても特筆すべきことなんて何にも浮かばない。小説で、ひとつも結果を出せなかった。すぐにでも封印してしまいたいこの1年。春に応募した150枚も阿波しらさぎも、予選通過できなかった。昨年春に応募した150枚を50枚に再構成して女による~R18に出したけど、やっぱだめだった。よく考えればたった3日で書き変えただけの小説が予選通過できるはずがない。舐めたことをしてしまい、反省している。ほらやっぱり何にもないやと思ったとき、眼に入ったのは自分の本『赤いドレスをめぐる、あなたと私の

          2023年を振り返って

          母とか子とか

          私の母は、還暦が近くなったらやたらと赤いものが目に入るようになったと言い、それは裏の藪のクサイチゴや石畳みを這うナワシロイチゴの実だったりするのだけれど、今じっと睨んでいるのはマグロの赤身、ほとんど血合いしかない部分だった。 どうしてわざわざ血合いの部分を買ったのかと聞いたら、血が足りないような気がしてと母は言い、うつろな目をして私を見た。とうに閉経したであろう女が血が足りないって、といぶかしく思う。健康診断には行ってるよね、という自分の声が質問というより念を押す感じになり、

          母とか子とか

          いよいよ本が販売開始に!

          Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングより出版しました。幻想的な2作品です。ご興味ある方は、どうぞお手元にお誘いください。 新潮新人賞二次通過作品『赤いドレスをめぐる、あなたと私の狂想曲』 群像新人文学賞三次通過作品『鳥神奇譚』 ふだん、小説をあまり読まれない方も、これって小説なの? みたいな不思議な読書を体験することができると思います。また、小説を書いて文芸誌に応募されている方にとって、少しでも選考突破戦略のヒントになればいいなと思います。 万条由衣

          いよいよ本が販売開始に!

          KDPから本を出版するにあたって

          現在、発売日10月14日(土)を前に、粛々と行われているのだろう出版サイドの作業終了を待っている。期せずして(これは本当に偶然)土日にはAmazonプライム感謝祭があるらしいから、より多くの人に本のサイトものぞいてほしいなと思う。 とつぜん、本を作ろう! と決めたときは、まだ、それがどんなに大変なことかわかっていなかった。初めての経験に、わくわくしていた。KDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)のホームページ、なかでもヘルプ記事をとにかく読む日々が始まった。あれ?

          KDPから本を出版するにあたって

          小説を書き続けた先に何があるのか

          ここ 10 年くらいだろうか、春と秋に小説を完成させて文芸誌に応募し、それぞれ半年間じっとその結果を待つ日々を過ごした。応募した次の瞬間にはもう待つ体勢に入るから、ほとんど 1 年の間ただひたすら待ち続ける。最終選考に残った連絡が出版社の編集から入るのであろう日を、音沙汰なければ次は予選通過者が文芸誌に発表される日を。そして落選が決まれば絶望感が押し寄せる。穴に落ち、しばし沈黙。そのうちひと筋の光が射してくればふと顔をあげ、ふたたび何とかそれに向かってよじのぼる。次の公募の締

          小説を書き続けた先に何があるのか

          気持ちをあらたに小説を書こう

          SNSを日常的にのぞいていると、知らぬうちに影響を受けている。才能がある人はネット上にたんまりと存在する。受賞したとか何次予選を通過したとか、めでたい結果が流れてくるたび、彼らがどんな小説を書いているかにはあまり関心を持つこともしないで、かつその賞を見極めることもしないで、ただあたふたする。そして自分もその賞に応募してみようか、と思い、つい書いてしまう。自分自身はどんな小説を目標にして書き続けているかということをつと忘れ、自分が強い気持ちで試し続けている作風をないがしろにして

          気持ちをあらたに小説を書こう

          きょうのできごと06072023

          午後、美容院に行った。ここ数年は半年に1度くらいのペースだったから、3ヶ月ぶりのきょうは、私にしては珍しい。長い髪をばっさりカットして明るめの茶色に染めてもらった。 美容師のみどり(仮名)さんにお願いするのは春以来二度目。猛暑であることと、値上げが影響してか、広いフロアに私を含めて3人ほどの来店状況は、店として厳しい状況らしい。閑散としていたこともあり、みどりさんと話がはずんだ。みどりさんは秋田出身だけれど東京に出てきてからの生活の方が長くなった。盆暮れ正月には帰省して、親戚

          きょうのできごと06072023

          来春に向けて応募作を書く

          今年2023年3月末にふたつの小説をそれぞれ文芸誌へ応募した。そのあと、自分はもう純文学を書いていても日の目を見ることはないだろうから、夏に少しエンタメ寄りの小説50枚を書いてみようかと思い立った。傾向を知るために、過去の受賞作品や選評、受賞後ヒットした作家の既刊本を読んだりして過ごしていたある晩、某テレビ番組が目にとまった。画面に引き込まれた。 ほとんど1日中創作のことを考えている私は、書き始めるまでは常に小説のネタをさがしている。けれど私にかぎって、ネタというのは積極的に

          来春に向けて応募作を書く

          第169回芥川賞候補作品について―受賞予想と感想ー

          夏本番を前に、恒例のお祭りがやってきた。 選考会が楽しみだ。 1.受賞予想本命 :『 ハンチバック 』市川沙央 対抗 :『 それは誠』乗代雄介 大穴  :『我が手の太陽』石田夏穂 (『ハンチバック』と『それは誠』のW受賞になると予想している) エッジの効いた純文学作品を久しぶりに読んだ。『ハンチバック』が受賞しない理由がもしあるとするなら、説明してって言えるほどの衝撃的な作品だ。候補作があがった直後、デフォルトで『ハンチバック』、プラスもう1作のW受賞になるだろうと思った

          第169回芥川賞候補作品について―受賞予想と感想ー

          『共有』(ショートショート)

          明日の準備をしよう。ランドセルのふたをあけたとき、これは自分のじゃないことに気づいた。「大村勇気」と名前が書いてある。なんでまちがえちゃったんだろう。きっと大村は吉野のランドセルを背負って学校から帰ったんだ。中にしまわれている教科書やノートはうねうねと波を打ち、砂のじゃりじゃりがこびりついていて、私は大村勇気の、よれたTシャツを思い浮かべる。ざらざらした鮫肌のふくらはぎも。ぜんぶ、私のとは全くちがう。困ったな、電話するかと思って、ふたをしめようとしたとき、手のひらサイズの紙袋

          『共有』(ショートショート)

          創作のこと

          いろいろ考えてみる。自分は通過してなくて、通過してる人の名前を目で追っていくと、ずっと見てる名前があったりして、だからずーっと続けて書いていかなきゃいけないんだ、と強く思ったあと、ふーっと息が抜ける。また、この半年の張り詰めた生活を始めるのか、とため息が出る。けっこう大変だよな、いつも書いてる小説のことで頭いっぱいにして、特別な予定を極力避けて、私の全部を小説でいっぱいにして、頭だけじゃなく精神もすべて小説でいっぱいにして。口内炎だらけになって、顔のシワ増やして。私くらいの年

          創作のこと