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母とか子とか
私の母は、還暦が近くなったらやたらと赤いものが目に入るようになったと言い、それは裏の藪のクサイチゴや石畳みを這うナワシロイチゴの実だったりするのだけれど、今じっと睨んでいるのはマグロの赤身、ほとんど血合いしかない部分だった。
どうしてわざわざ血合いの部分を買ったのかと聞いたら、血が足りないような気がしてと母は言い、うつろな目をして私を見た。とうに閉経したであろう女が血が足りないって、といぶかしく思う。健康診断には行ってるよね、という自分の声が質問というより念を押す感じになり、親が年を取ることを面倒くさいと思っているこちらの感情が伝わったかも知れない。
いつかは世話をすることになるのだろうか。兄は九州で鉄道会社の仕事と所帯を持っているから、老いた母とはきっと私が関わらなければならないだろう。
これも買っちゃったのよ、冷蔵庫から母が取り出したのは、パックから足をはみ出してラッピングされているホタルイカの群れだった。いいらしいよあなたのような、女の身体にはとくに。と言われて、さっきのよくない感情を引っ込めた。
母は母だった。そして私はまだ子どもでいたいのだ。
(ハナミズキの赤色の実を見て、思いついたことを書き留めてみました。
ホタルイカの旬は春なので、イチゴに変えました)
万条由衣
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