万条由衣

小説が好き。たぶん純文学と思われるものを書いて、文芸誌に応募中。Amazon Kind…

万条由衣

小説が好き。たぶん純文学と思われるものを書いて、文芸誌に応募中。Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)より『赤いドレスをめぐる、あなたと私の狂想曲/鳥神奇譚』を出版。新潮新人賞、群像新人文学賞予選通過作品を収録。

記事一覧

日々の雑感 その2

コロナの抗原検査キットを見て、妊娠検査を思う人がいるのではないだろうか。同じ形してるし、ふりかけるものは違うけれど。とはいえ、私が妊娠可能だった若い時分にはまだ…

万条由衣
11日前
16

日々の雑感

モカ。すごい酸味。苦味より好きだから選んでるけど、ここまで酸っぱいとなんか違うなあと思いながら、コーヒーをすする。数十年ぶりに服用したパブロンSゴールドWがわずか…

万条由衣
4週間前
16

純文学に挑み続ける(私と答え合わせをしませんか)

純文学とは何かーこの問いに答えを与えるために、私は小説を書いている気がする。新人賞に応募し続けていると、どうしてもそれらしきものを探り、それらしきものに寄せよう…

万条由衣
1か月前
26

「心的現実」と幻想小説ー小砂川チト『猿の戴冠式』に寄せて

精神分析学を創始したS.フロイトは、無意識の精神過程では、客観的現実が無視され、心的現実に置き換えられているとした。心的現実とは、他人が聞いたら嘘に思えるようなこ…

万条由衣
5か月前
37

第170回芥川賞候補作品についてー受賞予想と感想ー

まずはじめに、謝罪しなければならない。熱量の配分ができず、書き手が不能なために非常にバランスの悪い、ムラのある記事になってしまった。書かれたテキストの分量は、候…

万条由衣
5か月前
47

5分で読める某短篇の賞に応募した作品(原稿用紙換算枚数15枚)

読んだらどの賞に応募したか分かってしまうこと自体、失敗の原因であると思われる落選作です。でも、言葉遊びが好きだし、表現されるイメージが好きだから、自分は小説を書…

万条由衣
5か月前
14

2023年を振り返って

振り返っても特筆すべきことなんて何にも浮かばない。小説で、ひとつも結果を出せなかった。すぐにでも封印してしまいたいこの1年。春に応募した150枚も阿波しらさぎも、予…

万条由衣
5か月前
23

母とか子とか

私の母は、還暦が近くなったらやたらと赤いものが目に入るようになったと言い、それは裏の藪のクサイチゴや石畳みを這うナワシロイチゴの実だったりするのだけれど、今じっ…

万条由衣
7か月前
18

いよいよ本が販売開始に!

Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングより出版しました。幻想的な2作品です。ご興味ある方は、どうぞお手元にお誘いください。 新潮新人賞二次通過作品『赤いドレ…

万条由衣
8か月前
27

KDPから本を出版するにあたって

現在、発売日10月14日(土)を前に、粛々と行われているのだろう出版サイドの作業終了を待っている。期せずして(これは本当に偶然)土日にはAmazonプライム感謝祭があるら…

万条由衣
8か月前
60

小説を書き続けた先に何があるのか

ここ 10 年くらいだろうか、春と秋に小説を完成させて文芸誌に応募し、それぞれ半年間じっとその結果を待つ日々を過ごした。応募した次の瞬間にはもう待つ体勢に入るから、…

万条由衣
8か月前
51

気持ちをあらたに小説を書こう

SNSを日常的にのぞいていると、知らぬうちに影響を受けている。才能がある人はネット上にたんまりと存在する。受賞したとか何次予選を通過したとか、めでたい結果が流れて…

万条由衣
9か月前
33

きょうのできごと06072023

午後、美容院に行った。ここ数年は半年に1度くらいのペースだったから、3ヶ月ぶりのきょうは、私にしては珍しい。長い髪をばっさりカットして明るめの茶色に染めてもらった…

万条由衣
11か月前
10

来春に向けて応募作を書く

今年2023年3月末にふたつの小説をそれぞれ文芸誌へ応募した。そのあと、自分はもう純文学を書いていても日の目を見ることはないだろうから、夏に少しエンタメ寄りの小説50…

万条由衣
11か月前
38

第169回芥川賞候補作品について―受賞予想と感想ー

夏本番を前に、恒例のお祭りがやってきた。 選考会が楽しみだ。 1.受賞予想本命 :『 ハンチバック 』市川沙央 対抗 :『 それは誠』乗代雄介 大穴  :『我が手の太…

万条由衣
11か月前
34

『共有』(ショートショート)

明日の準備をしよう。ランドセルのふたをあけたとき、これは自分のじゃないことに気づいた。「大村勇気」と名前が書いてある。なんでまちがえちゃったんだろう。きっと大村…

万条由衣
1年前
15
日々の雑感 その2

日々の雑感 その2

コロナの抗原検査キットを見て、妊娠検査を思う人がいるのではないだろうか。同じ形してるし、ふりかけるものは違うけれど。とはいえ、私が妊娠可能だった若い時分にはまだそんな手頃なキットはなかった。妊娠が疑われれば、あるいは妊娠が期待されればまず産婦人科に行かなくてはならなかった時代。受け入れ難い妊娠をした人にとっては、かなり高いハードルだったと思う。病院に行って確定すれば、産むか産まないかをリミット付き

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日々の雑感

日々の雑感

モカ。すごい酸味。苦味より好きだから選んでるけど、ここまで酸っぱいとなんか違うなあと思いながら、コーヒーをすする。数十年ぶりに服用したパブロンSゴールドWがわずかながら効力を発揮しているのを感じている。

誰かが撮った文フリ会場の写真を見かけた。お目当てのブースに辿り着くばかりか、息を吸うのも大変そうな混み合い。「会いたい」より少し距離がある「会っておきたい人」の顔ともすれ違いで無駄足になり、あれ

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純文学に挑み続ける(私と答え合わせをしませんか)

純文学に挑み続ける(私と答え合わせをしませんか)

純文学とは何かーこの問いに答えを与えるために、私は小説を書いている気がする。新人賞に応募し続けていると、どうしてもそれらしきものを探り、それらしきものに寄せようと試行錯誤するからだ。文体に凝ったり、具象から抽象をねらったり(またその逆もあり)、人称や時制を駆使したり、人間ドラマを書いたり……挑み方は人それぞれ、そのときどきだろう。
セルフ出版した作品の、とくに『赤いドレスをめぐる、あなたと私の狂想

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「心的現実」と幻想小説ー小砂川チト『猿の戴冠式』に寄せて

「心的現実」と幻想小説ー小砂川チト『猿の戴冠式』に寄せて

精神分析学を創始したS.フロイトは、無意識の精神過程では、客観的現実が無視され、心的現実に置き換えられているとした。心的現実とは、他人が聞いたら嘘に思えるようなことでも、その人の中では実際に起きたと認識され、そう信じていることを言う。

この「心的現実」という言葉は私の中で、カウンセリングの過程を知る上で重要な現象のひとつ、といった程度の知識だった。ところが、ある日それは私自身に体験された。

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第170回芥川賞候補作品についてー受賞予想と感想ー

第170回芥川賞候補作品についてー受賞予想と感想ー

まずはじめに、謝罪しなければならない。熱量の配分ができず、書き手が不能なために非常にバランスの悪い、ムラのある記事になってしまった。書かれたテキストの分量は、候補作品に甲乙をつける意図があった訳ではないし、候補作品すべてに対して敬意を表します。今回も楽しませてくれてありがとうございます。そしてごめんなさい。(でも私は書評家でも作家でもないので、どうぞご容赦くださいませ)
なお、『東京都同情塔』の「

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5分で読める某短篇の賞に応募した作品(原稿用紙換算枚数15枚)

5分で読める某短篇の賞に応募した作品(原稿用紙換算枚数15枚)

読んだらどの賞に応募したか分かってしまうこと自体、失敗の原因であると思われる落選作です。でも、言葉遊びが好きだし、表現されるイメージが好きだから、自分は小説を書いているんだなと納得する作品でもありました。隙間時間にどうぞお読みください。

『 イチルの希望  』
  万条 由衣 

 白い花、白い大きな花がゆれてるみたいに帽子が上下に動きながらゆっくり離れていく。白いのにはば広いつばがあるからそ

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2023年を振り返って

2023年を振り返って

振り返っても特筆すべきことなんて何にも浮かばない。小説で、ひとつも結果を出せなかった。すぐにでも封印してしまいたいこの1年。春に応募した150枚も阿波しらさぎも、予選通過できなかった。昨年春に応募した150枚を50枚に再構成して女による~R18に出したけど、やっぱだめだった。よく考えればたった3日で書き変えただけの小説が予選通過できるはずがない。舐めたことをしてしまい、反省している。ほらやっぱり何

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母とか子とか

母とか子とか

私の母は、還暦が近くなったらやたらと赤いものが目に入るようになったと言い、それは裏の藪のクサイチゴや石畳みを這うナワシロイチゴの実だったりするのだけれど、今じっと睨んでいるのはマグロの赤身、ほとんど血合いしかない部分だった。
どうしてわざわざ血合いの部分を買ったのかと聞いたら、血が足りないような気がしてと母は言い、うつろな目をして私を見た。とうに閉経したであろう女が血が足りないって、といぶかしく思

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いよいよ本が販売開始に!

いよいよ本が販売開始に!

Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングより出版しました。幻想的な2作品です。ご興味ある方は、どうぞお手元にお誘いください。

新潮新人賞二次通過作品『赤いドレスをめぐる、あなたと私の狂想曲』
群像新人文学賞三次通過作品『鳥神奇譚』

ふだん、小説をあまり読まれない方も、これって小説なの? みたいな不思議な読書を体験することができると思います。また、小説を書いて文芸誌に応募されている

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KDPから本を出版するにあたって

KDPから本を出版するにあたって

現在、発売日10月14日(土)を前に、粛々と行われているのだろう出版サイドの作業終了を待っている。期せずして(これは本当に偶然)土日にはAmazonプライム感謝祭があるらしいから、より多くの人に本のサイトものぞいてほしいなと思う。

とつぜん、本を作ろう! と決めたときは、まだ、それがどんなに大変なことかわかっていなかった。初めての経験に、わくわくしていた。KDP(Kindle ダイレクト・パブリ

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小説を書き続けた先に何があるのか

小説を書き続けた先に何があるのか

ここ 10 年くらいだろうか、春と秋に小説を完成させて文芸誌に応募し、それぞれ半年間じっとその結果を待つ日々を過ごした。応募した次の瞬間にはもう待つ体勢に入るから、ほとんど 1 年の間ただひたすら待ち続ける。最終選考に残った連絡が出版社の編集から入るのであろう日を、音沙汰なければ次は予選通過者が文芸誌に発表される日を。そして落選が決まれば絶望感が押し寄せる。穴に落ち、しばし沈黙。そのうちひと筋の光

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気持ちをあらたに小説を書こう

気持ちをあらたに小説を書こう

SNSを日常的にのぞいていると、知らぬうちに影響を受けている。才能がある人はネット上にたんまりと存在する。受賞したとか何次予選を通過したとか、めでたい結果が流れてくるたび、彼らがどんな小説を書いているかにはあまり関心を持つこともしないで、かつその賞を見極めることもしないで、ただあたふたする。そして自分もその賞に応募してみようか、と思い、つい書いてしまう。自分自身はどんな小説を目標にして書き続けてい

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きょうのできごと06072023

きょうのできごと06072023

午後、美容院に行った。ここ数年は半年に1度くらいのペースだったから、3ヶ月ぶりのきょうは、私にしては珍しい。長い髪をばっさりカットして明るめの茶色に染めてもらった。
美容師のみどり(仮名)さんにお願いするのは春以来二度目。猛暑であることと、値上げが影響してか、広いフロアに私を含めて3人ほどの来店状況は、店として厳しい状況らしい。閑散としていたこともあり、みどりさんと話がはずんだ。みどりさんは秋田出

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来春に向けて応募作を書く

来春に向けて応募作を書く

今年2023年3月末にふたつの小説をそれぞれ文芸誌へ応募した。そのあと、自分はもう純文学を書いていても日の目を見ることはないだろうから、夏に少しエンタメ寄りの小説50枚を書いてみようかと思い立った。傾向を知るために、過去の受賞作品や選評、受賞後ヒットした作家の既刊本を読んだりして過ごしていたある晩、某テレビ番組が目にとまった。画面に引き込まれた。
ほとんど1日中創作のことを考えている私は、書き始め

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第169回芥川賞候補作品について―受賞予想と感想ー

第169回芥川賞候補作品について―受賞予想と感想ー

夏本番を前に、恒例のお祭りがやってきた。
選考会が楽しみだ。

1.受賞予想本命 :『 ハンチバック 』市川沙央
対抗 :『 それは誠』乗代雄介
大穴  :『我が手の太陽』石田夏穂
(『ハンチバック』と『それは誠』のW受賞になると予想している)

エッジの効いた純文学作品を久しぶりに読んだ。『ハンチバック』が受賞しない理由がもしあるとするなら、説明してって言えるほどの衝撃的な作品だ。候補作があがっ

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『共有』(ショートショート)

『共有』(ショートショート)

明日の準備をしよう。ランドセルのふたをあけたとき、これは自分のじゃないことに気づいた。「大村勇気」と名前が書いてある。なんでまちがえちゃったんだろう。きっと大村は吉野のランドセルを背負って学校から帰ったんだ。中にしまわれている教科書やノートはうねうねと波を打ち、砂のじゃりじゃりがこびりついていて、私は大村勇気の、よれたTシャツを思い浮かべる。ざらざらした鮫肌のふくらはぎも。ぜんぶ、私のとは全くちが

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