ティナ

文筆業。猫が好き。インスタグラムで漫画描いています。Kindleで「場面緘黙症」を題材…

ティナ

文筆業。猫が好き。インスタグラムで漫画描いています。Kindleで「場面緘黙症」を題材にした電子書籍を出しました。

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【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第1話)#創作大賞2024

プロローグ 大好きなアンナ。 今日、僕はニナと再会することができました。久しぶりに見たニナは、僕の知っている小さくて頼りないニナとはまるっきり違っていて、ひどく困惑しました。けれど、それ以上に僕の心を苦しめることがありました。  それは、ニナの身体にできた大きな傷。もうすっかり古傷めいてはいたけれど、左目の下と右肩のあたりにできたやつはだいぶ深くえぐれていて、縫い跡が布をより合わせたようにいびつになっていました。  あまり直視するとニナが嫌がると思って、僕は目の置き所に

    • 素人小説にお金を払って読みに来る人なんていない

      素人が書いた小説にお金を払ってまで読みに来る人ってなかなかいないと思う。だって、私がそうだから。面白いという確証を得られないものに、お金と時間を使うってどれだけの聖人君子なんだろうと思ってしまう。 けれど、きっと例外ってあるんだろうね。 例えば、このnoteのようなプラットフォームで小出しに作品を発表してゆく。五分もせずに読めるくらいちょっとずつちょっとずつ。 ビジュアルに訴えるというのもいいかもしれない。挿絵とか写真とかをふんだんに使って。 毎日コンスタントに作品を投

      • ウケのよい小説とはなんなのか

        創作大賞2024に『ぜんぶ、佐野くんのせい』というファンタジーミステリーで参加したティナと申します。 何度かこのnoteでも書いていますが、だいぶ長いこと小説作成からは遠ざかっていました。 記憶を手繰り寄せると、第31回横溝正史ミステリ大賞を受賞した長沢樹さんの『消失グラデーション』あたりまではギラギラしながら書いていたように思います。 確か原題が『リストカット……』で、すごい衝撃を受けたことを覚えています。なんて言うんでしょうか。すごく惹かれたっていうか、とにかく「う

        • 創作漫画『ポンちゃんとお月さま』どの瞬間にも愛おしまれる生きかたを

          過去にインスタグラムに投稿した『ポンちゃんとお月さま』というお話です。 最近絵が描けなくなり困っております。元々下手くそでしたが、輪にかけて下手になってきてもう絶望的…… いつかまたスラスラと描ける日を夢見て、noteにも投稿します。 お月さまはいろんな色や形をしているけれど、 どれもみんなきれいで優しげ。 人間も赤ちゃん、子ども、大人、そして老人になり、 やがてこの世界から果てるわけだけど、 どの瞬間にも愛おしまれ、大切に、 良い思い出とされるような生き方が できれ

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        【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第1話)#創作大賞2024

          創作大賞2024応募作を書き終えた結果……

          締め切り23日を目前にして、本日応募作『ぜんぶ、佐野くんのせい』を投稿し終えました。率直な感想としては…… 「楽しかった!」 この一言に尽きます。 本作は、謎解き要素を絡めたファンタジー小説という括りです。 よって、登場人物たちは超能力を持っており、そこを軸にストーリーが展開していきます。 ただ、そうは言っても「謎」の部分を適当にそれっぽくするのも違うよなぁ……と思い、必死に少ない脳みそを回転させて「これなら行けるかな!」くらいのレベルまでは持ってこれたはず(笑)

          創作大賞2024応募作を書き終えた結果……

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第46話)#創作大賞2024

          ★第45話はこちら ★第1話はこちらから エピローグ  ベルがいたので、市民公園には母、月子の車で送ってもらった。片桐と佐野は一足早く到着していた。佐野にシビアだったはずのベルは、そんな事実はなかったかのように普通に尻尾を振って近づいていった。  佐野も佐野で、初対面時の恐怖心はだいぶ緩んできたようだ。もしかしたら、レイトが背後に憑いていたことが双方にすれ違いを生じさせていたのかもしれない。いずれにしても、みんなが一つになっているようなこの感じ、すごく幸せな瞬間だと思

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第46話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第45話)#創作大賞2024

          ★第44話はこちら ★第1話はこちらから 最終章 丈太郎の決断 大家に自白させた翌日、丈太郎は祖父冨次の家に行き、アンナを見つけることができたとベルに報告した。ベルは一直線に丈太郎を見上げ「よかった」と一言だけ言った。    その後はほとんど会話という会話もなく、窓辺にトボトボと歩いて行くと、日に焼けた畳の上にゆっくりと身を横たえた。その背中があまりにも寂しげで胸が締め付けられる。丈太郎は傍に行くと、その首元に顔をうずめ、一緒に横になった。冨次が頻繁にトリマーに連れ

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第45話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第44話)#創作大賞2024

          ★第43話はこちら ★第1話はこちらから 第十三章 明るみに出る真実  アンナとレイトの遺体は大家の家の床下にあった。すでに白骨化しており、遺体を包んだシーツは体液とウジでボロボロになっていた。画像的に捉えていても、強烈な臭いが漂ってきそうな惨状だった。  星来は、両親の動物クリニックで咬傷からウジを発生させた猫を幾度か見たことがあるが、二人の遺体の周りに群がるウジや害虫はその比ではなかった。所々にネズミの死骸も転がっている。身体の内側から痒みが湧き上がってくるような

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第44話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第43話)#創作大賞2024

          ★第42話はこちら ★第1話はこちらから  あのとき、話すより実際に見てほしいと言われ、戸惑っているうちに直接頭の中に映像を送り込まれた。レイトの視覚で見る世界は古いフィルム映画のようにザラザラしていてどこか不安定だった。  雨の降り頻る夜の道を青のミニクーパーでどこかに向かっている。興奮と不安で徐々に荒くなっていく呼吸。待ってろ待ってろ……とずっとうわ言のように口の中で繰り返している。  着いた場所はアンナの家。車を停めるが早いか、助手席に置かれた上着の下から何かを

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第43話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第42話)#創作大賞2024

          ★第41話はこちら ★第1話はこちらから  我に帰ると、石畳の足元が砂のようになって、片桐の身体は胸元まで飲み込まれていた。レイトはすでにいなくなっている。すっきりしたような顔をして、アンナを迎えに行くと手を振りながら消えてしまった。レイトが身体から抜けたら自分も元の場所に戻れると思っていた。だが、空間は一層いびつになり、足元を掬われる。 「誰か───!」 このまま自分は地獄にでも落とされてしまうのだろうか。罪はなんだ。たった一度きりの人生を真剣に生きようとしなかった罪

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第42話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第41話)#創作大賞2024

          ★第40話はこちら ★第1話はこちらから    また戻された。小さなささくれだらけの手。また泣いている。拭っても拭っても涙は次から次へと溢れ出し、母親の叱る声が頭の奥でドラの音のように鳴り響く。いったい母さんはなにをそんなに怒っているのだろう。恥ずかしい。ママは恥ずかしいと言っている。母親が手に持っている本を叩きつけるように振るのが怖くて、片桐はよろめく。 「どうしてお友達をつくらないの?! 学校でいつも一人ぼっちでいるんですってね。ママ、先生に言われたわ。紘也くんは

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第41話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第40話)#創作大賞2024

          ★第39話はこちら ★第1話はこちらから 「バカだね、お前は」 目の前のレイトが卑屈な笑みを浮かべていた。 「ここは……」 丈太郎も山本さんも佐野もどこにも見当たらない。商業施設の屋外イベントスペースにいたはずの大勢の客も跡形もなく消えていた。空間のそこここに歪みが生じていて、まるでホログラムを見ているかのようだ。 「ねえ、ここどこ?! 僕、帰らなきゃ……!」 「何言ってるんだ。ここはお前が作り出した世界だろ。帰りたいのはこっちなんだよ。おい、泣くな!」 「だって……!

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第40話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第39話)#創作大賞2024

          ★第38話はこちら ★第1話はこちらから 第十ニ章 レイトを孕む 「ねえ、片桐くん。レイトとコミュニケーションを取ることはできないの?」 思いがけない山本さんからの問いに、片桐は一瞬思考が停止した。死霊とコミュニケーション。そんなこと、これまで考えたこともなかった。  彼らは、片桐の中では自然現象に近かった。たとえば、虹が出るのは空気中の水滴に太陽光が反射するからであって、虹そのものが存在するわけではない。水滴と光という条件が揃って初めて出現し、可視化することができる

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第39話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第38話)#創作大賞2024

          ★第37話はこちら ★第1話はこちらから  そのとき、はじめの彼女がやってきて、 「もうすぐ映画の時間だけど、まだかかりそう?」 と腕時計を見た。 「いや、もう済んだよ。じゃあ、そういうわけで。またな! 丈太郎とお友達!」 なにしてるのか分かんないけど、あの男には深入りすんなよ! と言い捨て、彼女と手を繋いで去っていった。その引き寄せるような繋ぎかたに丈太郎はドキッとする。あれが大人の手の繋ぎかたか。 「丈太郎」 片桐に名前を呼ばれ、丈太郎は我に返る。 「レイトなんだけ

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第38話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第37話)#創作大賞2024

          ★第36話はこちら ★第1話はこちらから 「さっそくだけど、私が透視した映像と丈太郎くんが見たニナの記憶の照らし合わせをやりましょ」 山本さんの声にハッと我にかえる。今はアンナのことに集中しよう。 「まずは玄関から。丈太郎くん、大丈夫?」 「はい」 「さっき丈太郎くんから聞いた話をもう一度まとめるわね」 そう言いながら、山本さんは「玄関」と書いたノートのページにペンを走らせてゆく。 薔薇の花束と小箱に入った革製キーホルダー どちらも玄関に叩きつけられる アンナがキー

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第37話)#創作大賞2024

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第36話)#創作大賞2024

          ★第35話はこちら ★第1話はこちらから  食べ終わると、丈太郎はニナの記憶の一部始終を順を追って説明した。アンナと大家の大人のやりとりを説明するときは、空気を読まない佐野が「触るってどこをだ?」と執拗に訊いてきて、今食べ終えたばかりの唐揚げを戻してしまいそうになった。多分おっぱいとか尻とかそこらへんだろ……。と耳打ちすると、佐野はやっと納得してくれた。山本さんの前でマジでやめてほしい。  丈太郎は、片桐の口数が少ないことに気づく。さっきから相槌しか打っていない。不思議

          【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第36話)#創作大賞2024