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【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第46話)#創作大賞2024


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エピローグ

 ベルがいたので、市民公園には母、月子の車で送ってもらった。片桐と佐野は一足早く到着していた。佐野にシビアだったはずのベルは、そんな事実はなかったかのように普通に尻尾を振って近づいていった。

 佐野も佐野で、初対面時の恐怖心はだいぶ緩んできたようだ。もしかしたら、レイトが背後に憑いていたことが双方にすれ違いを生じさせていたのかもしれない。いずれにしても、みんなが一つになっているようなこの感じ、すごく幸せな瞬間だと思える。

 丈太郎の誤解は星来のキスによって解かれたが、自分が無自覚なままに発していた言葉や行動に勘違いを引き起こす欠点があったのだと思うと、反省しかなかった。

 糸の切れた凧のようにフワフワとどこかに飛んでいってしまいそうになるのを繋ぎ止めるように、星来は隣りに立つ丈太郎の手を握りしめる。あのあと、抱きすくめられた。丈太郎の胸は想像していたよりも厚く、ドキッとするのと同時に今まで感じたことのない感情に身体の奥が疼いた。

 しっくりくる言葉を当てはめるなら、それは焦りということになるのかもしれない。この人をほかの誰にも取られたくない。自分だけのものにしておきたい───。そんな想いが芽生えたことに戸惑いを覚える。

 きっとこれから先、何度も心のざわめきに振り回されることになるのかもしれない。それを憂鬱だと思う自分と、どこか楽しみにしている自分。その先に待っているものがなんなのか、今はまだ知りようもないけれど、きっと優しく包み込んで大事にしておきたいと思えるなにかであるに違いない。

「あ、手繋いでる」
佐野がポツリと言った。
「本当だ……」
片桐が頬を緩める。
「いったい何があった! 俺の居ぬ間に!」
佐野が丈太郎に飛びかかったせいで、星来と丈太郎の手は離れる。

「やめろ! 苦しいって」
首に腕を回され、もがいた丈太郎の眼鏡がずれた。その姿がコントを見ているみたいで、思わず片桐と目を合わせて笑ってしまった。興奮したベルが飛び跳ねながらワンッ! ワンッ! と吠える。
「言えよ! 何があった!」
佐野はしつこい。

「うるさい。ぜんぶ、佐野くんのせいだ!」
叫びながら佐野の腕から逃れると、丈太郎は芝生の広場を駆け出す。追いかける佐野。
「なんで俺のせいなんだよ」
「佐野くんが生意気だから!」
「答えになってない!」
まるで子供の鬼ごっこだ。ベルが意気揚々とその中に飛び込んでいく。

 片桐がリュックから一眼レフを取り出した。鳴り響くシャッター音をかい潜り、星来も駆け出した。ふと見上げると、真っ青な空に大きな入道雲が出ていた。

 どこまでも駆け抜けたい。そんなふうに思わせる広い空。どこまでも、どこまでも、この瞬間を噛み締めて───。


おしまい。


#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門

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